2-3:ブーメランって良い例えだよね
全身が痛むが、そうこう言ってはいられない。幸い、下は土だ。俺の傷もまだ軽い方だし、何よりも、アイツの足跡を辿って行ける。アイツさえ追いかけりゃ、ガルシアもどこに居るかわかんだろ。今は、アイツに追いつくことを考えろ、俺。
幸い、まだアイツは遠くには行ってない様で、足跡を辿って走って、通りに出たところでアイツの走っていく後姿を見つけた。
「待てやァァァァァァァァァッ!」
俺は押えたい左胸の痛みをこらえつつ、叫びながら追いかけた。
「お?なんや、寝とけ言うたやんけ。知らんで、折れてても!」
「骨が折れてても、この仕事だけは折れねェんだよッ!」
チラッと辺りを見回す。その瞬間、大きなリュックサックを2個、前と後ろとに背負って抱えて走る、いかにもザ・スパニッシュな男の影が見えた。アレがガルシアか。
「先に行かせてもらうぜッ!」
全力ダッシュで、その男が行った後を追う。すると、
「行かせるかァ!」
とアイツの声が聞こえた。のち、俺の左胸に激痛が走る。どうやら、思いっきり蹴られたらしい。一番かばいたかった傷の所を。
「ぼっふぉぇェッ」
「なんや情けない声やのォ!せやから寝とけ言うたやろッ!」
と言いながら、ついでに右足も蹴ってきやがった。
「い゛ぃぃぃぃッ・・・・」
痛い、と言いたいが、言った瞬間負ける様な気がして言わなかった。
「お先~♪」
アイツはダメ押しの二手を加えられて上機嫌らしい。すこし立ち止まった俺を追い越して、ピョンピョンとまたパルクールの様にして違法建築群の合間を駆けていく。
確かに先手こそ取られた。だが、こっちにも意地がある。女の子に蹴られて苦しむなんぞ、俺のプライドが許さん。力を振り絞って、俺は走り出した。
「どけ!どけェ!」
さっきまでは声すらかけづらかった新世界の群衆に向かって、そう叫びながら走る。時折、「誰にどけ言うとんじゃぼけェ!」とかの怒号が聴こえるが、今はすべて無視だ。今はただ、アイツとガルシアを追う事に集中するんだ。
そう考えながら走っていると、少し先の建物の路地からアイツが飛び出してきた。その視線の先を見てみると、重そうな荷物を背負って抱えて、必死に逃げ走る男の姿もある。
確かに、地理に疎い・・・というか、まだ殆ど知らないんだが、その分向こうには有利がある。それは認めよう。この先もパルクールで近道していくんだろ?だがな、俺は負けたくないのだ。この新世界に来て、優しくしてもらって、仕事までもらって、そんな矢先、仕事を奪われて戻ったんじゃ格好つかねぇ。
「おおおおオオオオオオオォォォォォォォォッ!」
そう叫んで、俺の足はギアチェンジした。
「おぉ?なんやお前、もうここまで来たんか。」
あぁ、来たぞ。お前には絶対に負けたくないんでな。ここまでの走りはまだほんの序の口だ。
「勝負はここからだ、クソアマァ・・・ッ!」
「ほー・・・言うやんけ・・・」
この先、アイツが近道をするのは分かっている。そして、それを追いかけたところで、アイツの近道の仕方を真似るのも到底無理だ。だったら、愚直に追いかけるしかねぇ。たとえ、遠回りをしたとしても、ただ後を追いかけて、自分の足を信じるしかねぇ。今はただ、走れ。
「待てオラァァァァッ!!」
「ぜェ・・・はァ・・・カンベン!ホンマ!カンベン!!」
ようやく、ガルシアの野郎の声が聞こえるくらいには追い付いた。もう少し、もう少しで届く・・・!
「甘いなァ、ド素人ォ!」
手を伸ばした俺の後ろで、アイツの嘲笑うかのような声が聞こえた。だが、俺の後ろに居る。確実に、俺の方がアイツより・・・
”パァァン!”
そう考えた瞬間の事だった。俺の後ろで、一発の爆発音が鳴ったのは。
嫌な予感がした。サッと後ろを振り返る。俺の後ろには、鉄パイプを素材に強引に作ったであろう、”銃”の様な何かを構えた、アイツが居た。その銃の口からは、モクモクと煙が上がっている。今度はガルシアの方を見る。前のめりに倒れている最中だった。
コイツ、やりやがったな。
「爪が甘いんじゃ、外から来た甘ちゃんはのォ・・・」
爪が甘い?・・・そうじゃねぇだろ。
「・・・やっぱ、お前もド素人じゃねぇか。」
「あ?何がやねん。」
「
「あぁ?ド素人が何を・・・」
アイツが俺につっかかってくる前に、俺はガルシアの元へ走り寄った。
「大丈夫か!?」
ガルシアは泡を吹いて倒れている。見たところ、外傷は無い。幸い、前に抱えていた大きいリュックサックがクッションになって、倒れた事による傷も無い。
「・・・はァ。」
おれは大きくため息をついて、その場に座り込んだ。今まで走ってきた疲れからのため息じゃない。今目の前に居るガルシアの野郎が、生きてる事に対する安堵のため息だ。
「けッけッけッ、騙されよって。
アイツが嫌な笑い混じりにそう言いながら、歩いて近寄ってきた。
「ソイツはアタシが貰て行くで。ド素人は退けや。」
「お前、まだ勝ったつもりでいんのか。」
「・・・あぁ?」
眉間にしわを寄せながらガンを飛ばしてくる。ソイツの片手に銃が持たれていたとしても、何も怖くはない。俺は倒れてるガルシアの胸ぐらを掴んで言った。
「これで、最初に捕まえたのは俺だ。」
「何を抜かしとんのや。今からお前を、コイツでぶッ殺して・・・」
「やれるなら、やれよ。」
「・・・あ?」
「やれるならやれっつったんだ。まさか、自分の打った音で耳が聞こえなくなったか?クソアマ。」
「・・・言うたな?」
ソイツが銃口を俺に向ける。まだ銃口からは微かに煙が上っていた。
「あぁ、言ったぞ。・・・ソレで、俺を殺せるならの話だがな。」
「・・・何が言いたいねん。」
ソイツの顔がたちまち不機嫌になった。それで俺は確信を得た。
「ソレ、そもそも弾を撃つ為のもんじゃねーだろ。」
「ンなワケ。どっからどう見ても・・・」
「確かに、どっからどう見ても銃だな。だが、そもそも銃を持ってるんなら”最初から俺を撃ち殺せばいい”話だろ。」
「・・・・・・それ、は・・・」
「しかも、追いかけてる途中に、この野郎の足を撃ち抜いて止める事だってできたハズだ。しかし、これもお前はやらなかった。いや、できないんだよ。」
「・・・でも、お前はアタシが撃ったんを見たやろ?」
「あぁ、見たからこそ言ってるんだ。お前のソレ、他の銃とは明らかに違う点があるんだ。」
「なんや、言うてみぃ。」
「今も出てるその硝煙・・・”あまりにも量が多い”んだよ。」
「・・・それがどないしてん。」
「量が多いってことは、単に火薬の量も多いって事だ。だが、鉄パイプなんぞで作った銃で、そんなに多量の火薬を用いる弾は、”絶対に撃てねぇ”。」
「・・・・・・・・・」
「つまり、ソレはただの脅しの道具。”発砲音を鳴らす為だけに作られた
「・・・偉そうに言いよって。現にソイツ、倒れとるやないかい。」
「そりゃ、逃げてる時に後ろからあんな音が聞こえりゃ、自分が撃たれたって錯覚するだろうよ。・・・で?まだ言い訳をするのか?」
「・・・お前、
「ま・・・言えるのは、新しくここに来た”ビジター”だって事だけだ。・・・ド素人は帰れよ。」
「・・・・・・・・・けッ、けッたくそ悪い・・・」
そう言って、ソイツはその場を去って行った。これで、俺は勝ったんだ。アイツとの勝負に。
・・・・・・あぁ、疲れた。初日の仕事でこれだもんなぁ・・・キツいぜ、マジで・・・。
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