第6話

 ――え、いきなり死を覚悟?

 高らかに笑う黒革の男性の目にはなんだか不吉な色が見えている。

 ――というか、そもそもこれ、別に死ぬことは無いって言ってなかった?

「まず説明しよう。これから始まるのは第一ラウンドだ。この第一ラウンドでは自分の最愛のパートナーを見つけることから始まる」

 最愛のパートナーを見つける。以前にも聞いたことのあるセリフだ。あの時のことを思い出すと、ブルッと悪寒が体を貫く。

「そして、パートナーを見つけ、お互いが同意し、『カップル宣言』をすることが出来ればカップル成立だ。第二ラウンドに進むことが出来る。ただし、すでにカップル成立している異姓を奪うことも良しとする。この場合は魔法を使ってその異姓のパートナーを攻撃することは出来ないため、しっかりと口説くこと」

 ――口説くって、私には無理だ。カップル宣言出来なかったらもう終わりじゃない。

「まだカップル宣言をしていない場合は、気に食わない異姓同姓を魔法によって排除することが出来る。相手のHPがゼロになれば、相手は消える」

「消えるって、どんな感じですか?」

 誰かが質問する。その声色には、目の前の男への恐怖が入り混じっているようだった。

「それは、消してみてからのお楽しみだ」

 ハッハッハッハと黒革の男性は一人、高笑いする。

「今は四時か……なら、制限時間は十二時間としようか。エリアは地図にある敷地内。どうだ、何かあるか」

「カップル宣言した場合の解約と言うのはありですか」

「無しだ。ただし、片方が他人に奪われた場合は自動的に解約となる。カップル同士での殺し合いも禁止。一度解約したらいくらでも殺し合いは可能だが。他」

 殺し合い、という言葉に皆怯えているようで、これ以上の質問は無かった。


「では早速ゲームスタート、と行きたいところだがこの何も知らない状態でカップルを作れと言うのも酷だろう。まずはメンバーのことを知ることが重要だ。そこで、簡単な自己紹介をしてもらう。皆輪になり、適当な順番でやっていってもらう。よし、輪になれ」

 殺し合いとか言うホラーワードから自己紹介という小学校のような言葉への落差がありすぎて、みんなぽかんとした顔で固まっている。

「おい、早くしろ! 行動が遅いやつは殺されるぞ」

 実際に殺してきそうな怒号に怯えて、慌てて大きな輪ができる。

「いいな、じゃあ、お前からだ」

「わ、私ですか?」

 たまたま男の隣にいた小柄な女性が自分を指さす。

「そうだ。早くしろ」

「え、えっと何を言えば……」

「名前、年齢、出身国、好きなもの、好きなタイプ、一言。適当にやれ」

「え、えっと、シャーロット・アン・ミラーです。メイプル民主共和国出身の十八歳です。えっと、好きなものは陸上競技です。えっと、えっと、好きなタイプ……」

 助けを乞うように黒革の男性の方を見るが、相手はギロリと睨み返す。

「早くしねぇと炙り倒すぞ」

「あ、炙り倒すって……」

 彼に慈悲と言うものは無く、もう泣きそうになっている彼女を見るのはあまりにも無残だった。

「す、好きなタイプは、えっと、話をしてくれる人です。お、お願いします!」

 言い終えると、シャーロットはへなへなとその場に座り込んだ。だがそれも束の間、ドン、と黒革の男性に背中を蹴られ、彼女は慌てて立ち上がる。

 思わず駆け寄りそうになったが、じっとこらえる。


「次は私か」

 全く気候に合わない、銀色の分厚いコートを着込んだ銀髪の男が言った。

「そうだ」

「私はイゴール・オストロフスキー。二十八歳、平和の戦士だ。出身はミータルシート島。こんな格好をしているのも、ミータルシート島が北にある極寒の孤島だからだ。好きなものは平和、恋人を作る気は、無い」

 あまりにも一方的に、その極寒の孤島にふさわしい冷徹な声で話すから、みんな氷河の如く固められていた。

「中二病かよおい」

「黙れ。私は神より使命を得てここに立っているのだ。それを邪魔する者は何人たりとも許さん」

 切れ長の奥二重は、喉元まで来た言葉を飲み込んでしまう殺意を発していた。

 ――間違いなく、危ないやつだ。


 十九人の参加者の自己紹介は淡々と進み、私の番になった。

「え、えーっと、ファニー・ド・キャロル、二十二歳です。国はエルフランドで、好きなものは絵画、あ、描く方です。好きなタイプは……えっと明るくて、自分のことをよく思ってくれて、優しくて冗談が多い爽やかな人……です」

 最後の方は完全にジャンのイメージが通っていた。

 ――ここまで来てまだジャンのことを思っているのも馬鹿馬鹿しいな。でも、もう少し引きずってもいいのかな……?

「へぇ、絵を。私も時々絵を描くのですがそれは下手くそで……教えてもらいたいところですね」

 ローガンさんが薄ら笑いを浮かべて話してくる。

「は、はぁ……」

 さっきから時々リアクションしている彼はやはりホワホワしていて、なんだか調子を狂わされてしまう。

 ――また誰かに見られてる気がするのは気のせいかな。


 そして、ついに見つけた。

 どこにいるのか、一番最後、十九人目となり、彼は突如出現した。

「俺はカルロス・アルバレス。二十九歳。出身はグロリア王国。好きなものは美術鑑賞とヒレカツ。好きなタイプは……そうだな、笑顔が可愛い人かな」

 黒い着物の服。あれは剣術の道衣で、剣がぶら下がっていた。そして、背中には黒いマントがひらりひらりと躍っている。

 黒髪の彼は切れ長の瞳でコチラをチラリと盗み見、ニヤリと不敵に、少し伸びているほうれい線を深くした。

 私のハートは、一気に高鳴りだした。

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