第13話

 供物くもつ

私はユウリと顔を見合わせた。

供物って、神様に捧げるものよね?

 

 「魔物たちは、誰に供物を捧げているのですか?」

「名前まではわからぬが、転生をつかさどる神という存在があるらしい。転生に不満がある場合、転生先のニンゲン型の生物を供物として捧げれば再度の異世界転生がかなうと信じているのだ」

 

 信じられない話を聞いてしまった。

 

 「……その情報は、どうやってわかったのですか?」

ユウリがたずねる。

そう。

スノウクロア様は、私たちにとっての神様

チキュウとかいう遠い星のことには関しないはず。

 

 「そなたたちは『心話』はわかるか?」

心話。

魔法や呪術の使い手の上級者が習得できる技。

離れた場所にいる者同士で、心の中で直接会話ができると聞いているわ。

 

 「はい」

「聞いたことはあります」

 

 「……それでは神官や術師に心話に長けるものがいることも存じておろう。その者たちがあえて魔物にさらわれ、やつらのことを探っておったのだ……魔物が現れだした頃から。言語は通じぬまでも意思を読むことはできたから、その情報を元に情報局で解明していった。言語についてもその過程で研究を重ね、解読できるようになった」

 

 「そんなに昔から探られていたのですか?」

私は聞いてみた。

歴史書によると、最初の魔物は一回り前の萌黄時代に現れたらしいから、ざっと四千五百年近くたっている。

 

 「この世界では、な。ニンゲンの世界ではここ数十年といったところらしい。最初の魔物は、この世界の過去に転生したようだな。ただ、それほどの過去に現れてくれたおかげで、研究ができたのは否めない」

 

 「最初の魔物ってこの国の四千五百年くらい前に出現し、そのあとずっといるんですよね。魔物は死なないのですか?」

そういえば、そうだわ。

 

 「魔物はニンゲンとして、一度死んだ身ぞ。それにここはチキュウとは違う星域だから、ここの時の流れとは切り離された存在なのだ」


「また過去に新たな魔物が現れるということはないのですか?」

ユーリがさらにたずねた。

 

 「そのおそれは、ない。まず最初の魔物が現れた時点で祖神ポロアス様がくださった。そののちは一年ひととせ終わるごとに、外部から変更を加えられぬよう年月に封じの術をかけてくださっている。それゆえチキュウのニンゲンたちが来るとしても今、この時点以降にしかこられない。時は進むしかないものだからな」

 

 年月に封じ?何のために?

 

 「ニンゲンがまた転生したら、その時点では対処法がないわけだからじゃない?もしも魔物がぼくたちの先祖を獲物にしたら、未来であるが変わっちゃうと思う……たとえば、ぼくかユーリがいないとか」

 

 ユウリが言っている内容がわからないんだけど。

 

 「おおもとは、そのようなところだ。外部からの介入をふせぐには、その方法しかなかったようでな。ポロアス様でなければできぬことだ」

 

 「あの。気になったのですが。供物を捧げて転生しなおせた魔物って、実際にいたんですか?あと、魔物って何体くらいいるのですか?」

「魔物の数は、わかっているのは五体。だが再度の転生に成功したものがいるかは、わからぬ」

 

 「どうしてですか?」

「……潜入した者との連絡が途絶えたから、と言っておくか」

 

 スノウクロア様が苦しそうな表情を浮かべる。

「潜入者が集めた情報によると、供物を捧げればよいという話は『えすえぬえす』と呼ばれる交流媒体で聞いたとのことだ。魔物同士で情報を交換し合ってたとも言っていた……その者と、その後連絡がつかぬ」

 

 「あたしたちが侵入して話を聞けるなら、ずっと話が早いのだけどね」

ヘイスト神が言った。

 

 「さっきも、おっしゃってましたよね?攻撃ができないって」

「言ったわ。それと同じ理由よ」

「たしか物理的にって」

「そ」

 

 物理的って、どういうこと?

ユウリも不思議そうな顔をしている。

 

 「そなたたちは次空という言葉を知っておるか?」

「あ、習ったことはあります」

うん、私も覚えている。

たしか私たちの世界は三次空というんだったわ。

 

 「次空が異なると、手出しができないのよ。あたしたちは四次空に属しているから三次空には手出しができない……直接攻撃といった意味合いのね。あ、手助けはできるわよ」

「ポロアス様は五次空に属されているゆえ、攻撃は可能ではあるが……魔物たちに関しては属する星域が異なるためにやはり手出しができぬ」

 

 神様たちにも手出しができない部分があるんだ。

 

 「それぞれに、協定があるのだ。星域間のことについては、ポロアス様はじめ祖神たちが太古の昔に、他星域不可侵の盟約を結んだとのことだ」

 

 「不可侵の盟約を結んだ別の星域から、どうやってこの国に転生してきたのですか?」

ユウリが聞いた。

 

 「チキュウがある星域とこの国がある星域との間に、わずかなほころびができていて、その隙間から送り込んできているらしい。祖神たちが決め事を定めた後にできた亀裂ゆえ、決め事に従ういわれはないというのが、その者の言い分だ」

 

 それって、こじつけじゃない?。

  

 「それは、チキュウの神なのですか?」

「そのとおり。死と再生を司るゆえ転生の神ともされたようだな。ここはチキュウと違う星域ゆえ“異世界”だと言いくるめたのであろう」

 

 死と再生なら、この国ではスーニア神だけど。

スーニア神は、そういう供物は求めていないはずだわ。

 

 「そして、ユーリ。そなたが疑問に思っていたことの回答は、さきほど話した次空に関係している」

「どういうことですか?」

 

 「魔物たちがチキュウより来たニンゲンだと判明した時点で、ポロアス様はチキュウがある星域を総べる祖神に扱いに関する連絡を送った。その返答によると、ニンゲンは三次元というそなたらとよく似た環境に生息していることがわかったのだ」

 

 「あ……じゃあもしかして、ヘイスト神がおっしゃっていたことって、似た環境に存在するぼくたちだったら、攻撃が物理的に可能ということですか?」

 




 

 

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