第8話

 私は、ごくりとつばを飲んだ。

隣に立つユウリには、特にかわったところは見られない。

 

 「ところで」

神官長が口を開いた。

「そなた達は、おのれの出生した日を知っておるか?」

出生……誕生日ってこと?

たしか……。

 

 「ぼくは、萌黄三百四十九年、緑の月の十日……です」

え!私と同じ日?

「時刻は、わかるか?」

「夕の六刻ごろと聞いてます」

 

 「ユーリは、どうだ?」

「私……誕生日はユウリと同じ日と聞いています。小さい頃は、祝ってもらってたから。でも、時間まではわかりません」

「そうか……ならば伝えるが、そなたもユウリと同じ時刻に出生しておる」

同じ日、同じ時間に?

 

 私とユウリは顔を見合わせた。

こんな偶然ってあるのだろうか?

誕生日が同じで、名前もよく似てて……違う!同じ日、同じ時刻に生まれたから神様が同じ名前を!

 

 「そなたたちがそれぞれクラウディウス家とサントネージェ家に生まれた事も関与しておる」

そういえば、夢の中でそんなことを言われた気がする。

『そなたのように、魔法師の血筋に生まれておらぬと、この使命は遂行しえぬ』だったっけ。

 

 「そのとおり」

そこでいったん言葉を切った。

そして再度語った。

「同年同日同時刻に生まれた二人一緒でないと、ドラヴァウェイにはなりえない」

 

 「それって、決まったこと、なんですか?」

「無論」

じゃあ、なぜお父様は、儂じゃなくこいつなんだと言ったのだろう?

 

 「そなたの父とユウリの父とは、同年同日同時刻に生まれはした。それだけでいえば資格はあったが」

「星の位置が異なっていた、と父様に聞きました」

ユウリが言った。

 

 「さよう。わずかながら生命盤にズレがあった。それゆえ、そなたらの父たちはドラヴァウェイとはなれなかった。あれからかなりの年月が立っておるのに、そのことを未だに根に持っておるとはな」

「父様は、ぼくがドラヴァウェイとなることを、自分のことのように喜んでくれました。自分が成しえなかったことを、自分の代わりに成し遂げてきてくれ……と」

そう言うユウリの顔は、どことなく誇らしげだった。

 

 「……ドラヴァウェイに選ばれるってって、そんなにすごいことなの?」

私はユウリにたずねた。

「ユーリは、ドラヴァウェイのこと、聞いたことがないの?」

「うん」

私はうなづくしかなかった。

 

 「そうなんだ。えーっとね、なんていうんだろう。名誉?栄誉的な。神様から直接指示を受けられる……魔法師と呪術師の家柄に生れた者にとっては憧れの立場なんだ」

「ふうん……」

お父様なら……名誉欲、栄誉欲の塊のようなお父様なら、なりたがっても不思議じゃないわね。

 

 「いままでにドラヴァウェイに選ばれた人って、いるの?」

「ううん。いない。予言書によると、ぼくたちが生まれた萌黄三百年代に生まれる……となってたらしいけど」

「あ、だからお父様は」

「そうみたいだね。ぼくの父様と同じ日生まれだから萌黄三百十八年生まれ。三百年代にあたるから」

 

 ……って、そういうことだったのね。

「そなたらが選ばれた理由は、納得できたか?」

「はい」「はい」

ユウリと私はそろって返事をした。

 

 「そなたたちふたりの生命盤は、まったく同じ。それゆえ、互いの力を補い合い増強することができる。その能力ちからをもって、ドラヴァウェイの使命をはたすのだ」

神官長のことばにユウリがしっかりとうなづく。

私も……おそるおそるうなづいた。

 

 「……我が口から伝えられるのは、ここまで。こののちはメールス様のもとにて聞くがよい」

メールス様って……伝達の神様じゃなかったっけ??


 「ユウリ、ユーリ。ついてまいれ」

そう言うと神官長は部屋の奥へと歩いて行った。

部屋の奥の壁に向かって手を差し伸べ、なにか呪文のようなものを唱える。

 

 と、壁の一部がすうっと音もなく開き入口が現れた。

明るい光が室内にもれてきている。

神官長が入口を抜けるのに続いて、私たちも入口を通り抜けた。

 

 すごく広そうな部屋。

見えるのは床だけで、壁も天井も見えない。

 

 「……ここは、信託の間。本来であれば神官長である我しか入ることが叶わぬ場所だが、そなたたちはこれよりメールス様に伴われスノウクロア様のもとへ赴く故、入室を許可された」

 

 スノウクロア様……全能神。

私たちに名前を下される神。

神話で名前を見知ってはいるけれど。

 

 神様たちと直接“会う”って、そんなことできるの?

 

 「メールス様。ふたりをお連れしました」

神官長が何もない空中に向かって声をかける。

しばらく待つと、前方の床に光の輪が現れ、その光は上方へとのぼっていった。

まるで太い光の柱が立っているようだった。

 

 「ごくろう。その者たちをこれへ」

柱の中から声がした。

あの日、夢の中で聞いた声と同じ。

 

 「行ってまいるがよい」

神官長に促され、ユウリと私は光の柱に近づいた。

……緊張する。

隣を歩くユウリが、私の手を握ってきた。

 

 「行こう」

そう言ってにっこりと笑うユウリを見て安心した私はうなづき、ユウリの手を握り返した。

そして、私たちは光の柱の中に足を踏み入れた。

 

 

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