Revival Message

鈴ノ木 鈴ノ子

リバイバル メッセージ


 スロットルを回し時間を加速させる。

 あなたのもとへ1秒でも早くつきたい。

 私だけの胸元へ飛び込んで。

 馬鹿な私を叱ってほしい。


 どんより曇って嫌な朝。

 仮眠明けの頭に妙な鈍痛が響く。

 おはようって連絡だけはいつもどおり。

 遠距離で離れ離れの私達。

 水と油のように時間がすれ違っていく。

 私への想いは?

 長い付き合いなんだよ?

 不完全な不安が林檎の心を腐らせて。

「もう、別れよ、先輩には私なんか似合わない」

 綴ったlast messageが飛んで流れていく。


 偽物の笑みを見せて帰路に着く。

 数多くの着信が流れては消えてゆく。

 もう、戻らない世界。

 そう思うと頬に滴が垂れていく。

 その姿が浮かんでは消えて。

 幻想の温かな言葉が聞こえてくる。

 もう、戻らない世界。

 自らが犯した過ちと気がつくまで。

 失って初めて愚かな自らを呪った


 居場所だけは互いにって。

 お揃いのGPSのキーホルダー。

 呆れられてもいいのに。

 何通も届くメッセージ。

 綴られた温かく織り込まれた想い。

 普段言わないくせに。

 こんな時だけって思ってしまう。

 読み解ける私だから。

 その重みに恐れ慄く。

 自らが招いた結果でも赦しを乞いに行かなければ。


 スロットルを回し時間を加速させる。

 あなたのもとへ1秒でも早くつきたい。

 私だけの胸元へ飛び込んで。

 馬鹿な私を叱ってほしい。


 マップに記された点へと。

 木々の間を走り抜ける。

 夕暮れの日差しが不安を煽り立てる。

 けれど、もう、迷わない。

 何を言われてもいい。

 どんな仕打ちを受けてもかまわない。

 耳に入る全ての音が私を責め立てる。

 愚かなやつ、もう終わったのだ。

 諦めろと告げている。

 流れ出る涙を拭うたびに。

 自らの罪の深さと愛しさを知って。


 あなたの愛車の隣に止めて。

 転げ落ちないように階段を駆け上がる。

 街路灯のオレンジの灯りが暗闇に吸い込まれて。

 私の未来を案じているよう。

 どうなっていいって啖呵を切っても臆病な私。

 やがて見えてきたあなたの姿。

 缶珈琲を握ったままぼんやりしていて。

 その横顔にどれほどの罪悪感と。

 どれほどの安堵感を得ただろう。

 その愛しい背中へと。

 掛ける言葉を探し時ばかりが過ぎていく。

 口をついて出た言葉はいつもの軽口。


 驚くあなたの表情へ。

 謝罪と真心の思いを身勝手にぶつけて。

 私だけに開かれた胸元へと誘われた。

 失いかけた大きさのあなたに支えられ。

 愛しい道を再び歩めることに感謝する。


 これからも続く長い道のりを。

 2人で歩んでいくために。

 過ちは2度としないと固く心に誓いながら。

 

 

  


 

  


 

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