第22話 両親に会いに行きました

 平和条約の締結を首都カサンドラで行った後、友好式典として、ゼクウと私がソフィアからの招待に応じて、王都を訪問することになった。


 ゼクウがこの機会に私の両親に挨拶したいと言いだすのかと思ったが、何も言わない。


 ゼクウの両親と比較すると、恥ずかしくて、会わせたくないので、何も言って来ないのは渡りに船なのだが、どうしてなのかが気になる。


「殿下、私の両親に会いたいですか?」


 私は思い切って聞いてみた。


「もちろん会いたいが、エルザがそうしたいと思ったときにすればいいよ。私がしたいことよりも、エルザのしたいことの方が優先だ。これはね、いつ、どんなときもだよ」


「……ありがとう」


 私は感激してゼクウに抱きついた。


「エルザから抱きついて来てくれるなんて、嬉しくて死んでしまいそうだよ。エルザはご両親には会いに行かないのかい? それぐらいの時間は調整できるよ」


「それが、全く会いたくないのです」


「ははは、エルザの好きにするといいよ」


 親には会った方がいいとか、ありきたりの説教をしないのがとてもいい。やはり、殿下は最高だ。親子関係は人それぞれで、どうすべきかの正解は当人同士で決めるものだと私は思う。


 父は封建的な考えで、家の為に娘が犠牲になることを何とも思っていない。母は父に従うことが正しいと信じている。そんな両親に会いたくはなかった。


 でも、弟にはちょっと会いたい。私よりも三つ下だったが、今は七つ年上なのか。


 そこで、ソフィアに頼んで、弟を王宮に連れて来てもらった。すごく背が高くなっていて驚いた。


「姉さん、王妃様から聞いて驚いたよ。石化したまま十年も行方不明だったんだって? 生きていてくれて、本当に嬉しいよ。父さんや母さんにもすぐに伝えたら、跳び上がって喜んでいたよ」


「え? お母様はさておき、お父様が喜ぶわけないでしょう」


「そんなことないよ。父さんなんか、姉さんが死んだと伝えに来た軍の報告官を殴って、嘘をつくなって言って、涙をボロボロ流したんだぜ。俺、父さんが泣くのを初めて見たよ」


「まさか……」


「本当だ。姉さんがいなくなってからは、父さんはすっかり塞ぎ込んでしまってね。姉さんの子供の頃の服とか見てぼうっとしていたりして、見ていて可哀想だったよ。俺が学園を卒業すると、すぐに俺に家督を譲って隠居しちゃったんだ」


「そうなの……? お母様は?」


「ずっと元気なかったよ。ねえ、王様の女性関係の件で姉さんが相談しに来たときの対応を二人してずっと後悔しているんだよ。会ってやってくれないかな」


「うん、分かった。あなたと一緒にミッドランドの家に一度帰るわ」


「やった。すごく喜ぶよ。俺の奥さんと子供にも会ってほしい。何日か泊まるといいよ」


「分かったわ。ソフィアに相談してくるわね」


 私はゼクウとソフィアに弟とのやり取りを伝えて、弟と一緒にミッドランド家に一週間ほど帰ることにした。ゼクウは嬉しそうに頷いてくれた。


***


 弟と一緒に馬車で屋敷に着くと、父と母が今か今かと待っていたようで、使用人の中に混じって玄関に並んでいるのが馬車から見えた。使用人たちが困惑していて、ちょっと面白かった。両親ともに少し老けてはいたが、まだまだ若々しかった。


 私が馬車から降りると、二人とも笑顔で駆け寄って来た。


「よく帰って来たわね」


 母はそう言って嬉しそうに私の頭を撫でて、柔らかくハグしてくれた。


 父は母と私を一歩下がって嬉しそうに見ていたが、私が父の方を向くと、お帰りと優しく微笑んでくれた。


 私が小さい頃によく見せてくれた父の微笑みだった。


 こんなに私を愛していてくれただなんて、気が付かなかった。


「お父様、お母様、心配かけてごめんなさい」


 私は両親にゼクウを紹介したいと思った。

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