第21話 政治は女が決めるようです
どうしてこうなったのかさっぱり分からないのだが、私はパルマ家の当主シアータを説得する羽目になっていた。
シアータは大物オーラが半端ない。拙い説明をする私をずっと鋭い眼光で睨んでいるように見えて、生きた心地がしなかった。
私の説明が終わると、シアータが少し微笑んでから話を始めた。
「エドワード王を幽閉し、ジョージ王子を即位させ、王妃様が摂政をなさることについては、パルマ家に異存はございません。パルマ家は王妃様を全力で支援します」
ジョージはソフィアの長男だ。まだ六歳であるため、まずは十年間ソフィアが摂政をする。これについてはパルマ家もすんなりと同意した。
だが、十年後を目処に王国を魔国に併合することについては、予想通り難色を示した。
パルマ家の祖先は魔族で、祖国から迫害を受け、王国に亡命したという歴史があるそうだ。
もう何百年も前の話でシエルも知らなかったのだが、恨みを忘れるなと延々と当主に受け継がれて来たらしい。
そのため、当主の息子であるシエルの魔国への亡命は、シアータにとっては寝耳に水だった。
だが、もともと魔族も人族も同じ祖先を持つ。気候の変動など何らの理由で、北方と南方に分かれて移動したそれぞれが、違った文化を持つに至っただけだ。言葉もよく似ているし、見た目もほとんど変わらない。生物学的には同一種なのだ。
私はシアータの説得を続けた。
「シアータ様、魔国は王国から搾取しようとしているわけではないです。一つの国家に統一して、戦争をやめたいだけです。国が分かれたままではいつまでも争いが止みません。統一後は州制度を導入し、王国は七つの州に分け、それぞれの州で自治を行っていただきます」
私は王国の地図をシアータに見せた。
王都を含む中央部は王家、魔国と接する北方の広大な領地をパルマ家、その他を五つに分けて、それぞれの地区の有力貴族に統治を依頼するつもりでいた。
「人族の王室と貴族はどういった扱いになるのでしょうか?」
シアータから質問が出た。
「王室とパルマ家は魔国の公爵に封じます。その他の王国貴族は、現在の爵位に相当する魔国の爵位をそのまま付与します」
「要するに、王室以外はあまり変わらない、ということでしょうか」
「はい、戦争がなくなること、国家の君主が十年後に魔国の皇帝になること、それ以外は変わりません」
「なるほど。その十年後ですが、皇后はエルザ様ということでしょうか?」
「はい、そのつもりです。そのとき、私は王国出身であることを公にするつもりです」
「王妃様、王妃様はそれでよろしいのですか?」
シアータはソフィアの意思を確認した。
「はい、私は構いませんが、本案に反対する勢力を抑える自信はありません」
「分かりました。反対勢力はパルマ家が抑えることをお約束します」
シアータは力強く断言した。
「では、ご協力頂けるのですね」
私はこんなに簡単に話がまとまるとは思わず、思わず念押ししてしまった。
「協力しなければ、武力で征服するおつもりでしょう。徹底抗戦しても、いたずらに国民を苦しめ、土地を疲弊させるだけです。魔国に良識ある方々がおられる間に、良き関係を結ぶことが肝要と思いました。元魔族の我々がご協力するのは、運命のように思います」
協力を得られない場合は、十年後には娘のマリアにパルマ家当主は代替わりしているはずで、マリアにもう一度、同じ話をするつもりだった。
マリアは今日は同席していない。同席したがったそうだが、ソフィアとアナスタシアを一目見たいというミーハーな目的だったらしく、シアータが却下したそうだ。
「ありがとうございます」
私は深々とお礼をした。シアータが慌てて頭を上げて下さいと言っている。
これで、ゼクウが喜んでくれるはずだ。私は国の将来よりも、ゼクウに喜んでもらえるのが、何よりも嬉しい。
「ところで、愚息は近くにいるのでしょうか。マルソー家の優秀なご令嬢を勝手にお嫁にもらうなど、相変わらず厚顔無恥で、汗顔の至りです。一度、お灸を据えねばなりません」
(はっきり言って、シアータ様、怖いです……)
話も上手く行ったし、シエルはさっさと渡してしまおう。
「アナ、シアータ様をご案内してくださる?」
ここからは家族の問題だろう。私はアナスタシアにシアータ様対応を丸投げした。
「は、はいっ」
アナスタシアが緊張した面持ちで答えた。
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