第24話 私の考え

 私達はまた六階の散策を始めた。

 私の足が刺されて中断していたからな。

 あの時は痛かった。

 ニコが一瞬で治しててくれたので助かったけれど。

 あのままだったら歩けていなかっただろうな。

 貫通したぐらいの痛みはあったし。

 実際していたのかもしれない。傷口はじっくり見ていないのだ。

 自分の傷口をちゃんと見たいとは思わないので遠慮しておくが。


「セリ、今度はオレに乗っとけよ」


 ヴォルフが私を乗せられるようにして言った。

 私が降りてケガをしてしまったからかな。

 ケガをさせないように、という対処だ。

 気にしなくてもいいのになあ。

 私が気をつければいいだけの話だし。

 それとも、私がもう一度同じことをすると思われているのかもしれない。

 もう少し信用してくれてもいいのに。

 まあ、二度あることは三度あるというしな。

 お言葉に甘えておこう。


「失礼しまーす。ヴォルフもケガしないでよ?」


 私はヴォルフの背にまたがって言った。

 ヴォルフにケガをさせるわけにはいかない。ニコが治せるとはいえ、どこまで治せるかは知らない。

 それでなくとも、スキルを使いすぎるとニコが疲れてしまう。


「オレは、んなやわじゃねえから」


 ヴォルフが歩きながら言った。

 それはとても自慢げだった。絶対に大丈夫だという自信があるのだろう。そうなら、安心だ。


「そっか」


 私は笑ってそう返した。


「ヴォルフ、セリナ、気を抜くな」


 ライオスは剣を触っている。

 きっと、触れておかないと落ち着かないのだ。いつどこからなにが襲ってくるか分からないから。

 どこからくるか分からないというのも怖い。一面が草でよく見えないしな。


わたくしも気を抜かないようにしなくては!」


 ニコも意気込んでいた。 

 その時だった。ガサっと音がしたのは。私達の誰かが動いた音ではなかった。

 そして出てきた。太いトゲが生えた通常よりも大きなハリネズミが。

 おそらく先程私の足を刺したものと同じ大きさだと思う。

 にしても、大きいな……ハリネズミはトゲトゲしているけれど、お腹の部分が気持ち良くて好きなのに。

 あれじゃあ、触れないじゃないか。


「先程と同じやつか」


 ライオスは剣を握り、鞘から抜こうとしている。


「待って!」


 私はすかさず止めた。

 不思議そうな顔をされた。だが、見たくなかったのだ。

 大きくてもハリネズミ。だから、剣で倒されるところを目の前で見たくなかった。


 私はハリネズミに近づいて


「『丸まれ。そして転がれ』」


 と、スキルを使った。

 言った通りにしてくれていなくなったので、ライオスは剣から手を離した。


「なぜ止めたのだ?」

「傷つくところを見たくなかったから」


 そう言うと、ライオスがため息をついた。

 

「敵に対してそれでどうするんだ」


 私はその言葉が理解できない。

 敵だなんて、思っていないから。思いたくないから。


「セリナ様はお優しいのですね」


 ニコが微笑んだ。

 私は優しくはない。傷つくのを見たくないだなんて、利己的な考えだ。

 それでも、私はそれを曲げたくない。

 

 いつか、どうしても倒さなければならないものに会うまで私は考えを曲げない。

 貫き通そう。

 この時、私はそう思ったんだ。

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