第12話 行方不明

 土日の休みが明け、再び1週間が始まった。

 山の屋敷から初めて通る通学路は新鮮で、まるでどこか遠い所に転校したかのような気分だった。

 だが、校門付近に来るとそんな感覚はフッと元に戻される。幻想の終止符である。


「……んなわけないよな」


 どうでもいい感じで吐き捨て、俺は校舎内へと足を踏み入れた。


 ガラガラガラと扉を開けて教室に入る。

 その途端、俺はすぐにいつもとは違う不思議な異変を察知した。


「……?」


 今日は月曜日。1週間の始めというものは毛嫌いされがちだが、土日の間に触れ合うことがなかったクラスメイトと会える、という点で言えば悔しくも盛り上がる日というもの。

 だが、いつもはある筈のワイワイガヤガヤとしていた明るい雰囲気が今日の教室には一切無く、代わりに騒然、そして鬱々とした雰囲気が教室を支配していた。

 男子も女子もそれぞれ顔に不安の色を見せ、互いに小声でコソコソと話し合っている。まるで内緒話、いや、話してはいけないことを話しているような……そんな感じだった。


「なんだ? この雰囲気……」


 とりあえず俺はいつものように窓際の自席に座り、通学カバンを下ろす。

 登校距離が遠かったから脚はいつもより疲れてるし、筋肉痛の影響でそれは倍増にまでなっているのに、この教室の異様さのせいか、不思議と気にならない。


「おはよう、弘一くん」


 教室をキョロキョロと見渡していると、たった今入ってきた古菅に声を掛けられた。

 彼女に目を向けると、ちょうど今自販機で飲み物を買ってきていたらしく、手にはペットボトルが握られていた。


「ああ、おはよう。古菅、なんか教室変じゃないか? 暗いというか、鬱々しいというか」


 挨拶早々何か知らないか、と彼女に聞く。

 古菅は「え、あ、うん」と歯切れの悪い感じに言いながら顔を歪めだす。

 一体、何があったのだろう。そんなに深刻なことなのか?

 彼女は気まずそうな感じで俺に近づき、周りと同じようにコソコソと小声で話しだす。


「これね、今学校の色んなクラスで話されてて、私もさっき、女子の集団から盗み聞きしたんだよね」


 古菅の口元に片耳を近づける。


「盗み聞きって」


「それで聞いたところによると、1つ上の高校3年生の2


「は? 何それ」


 耳を疑った。

 行方不明……ニュースで他人事のように聞いてはいたが、まさかうちの学校から?


「噂レベルだから確実とは言い切れないんだけど、みんなやっぱり巷の事件と結びつけて考えてるっぽくて」


「だろうな。時期と条件が噛み合いすぎてる。そう考えるのも無理ない」


 現に俺自身その線で確定だと思っている。

 今朝もネットニュースで関連事件の情報が更新されてたから、もういつ自分の学校で起きてもおかしくなかった。

 だが、こうもいきなりだとは流石に思わなかった。

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