第45話

 即時を終えた僕とマリルゥはブラブラと散歩を楽しんでいる。

 お腹もいっぱいだし、人混みの多い所は避けようと思って、森の方へとやって来ていた。


 「森は静かでいいね。

  マリルゥはこの森で暮らしていたんだし、あまり遠くじゃない場所で良い所知らない?」

 「良い所?

  私はコゼットの隣がいいわ」


 まあ、マスコットの探知能力と地図があるから迷う事も無いし、適当にこの辺りを散歩してみよう。

 足場は悪いけど汚れても平気だし、マリルゥも身体能力が高いから丁度良い。


 「いつにしよっか?」

 「ん? 何の事?」


 「一応族長の娘だし、お父さんへの挨拶」


 ああ、娘さんを下さい!ってやつのこと?

 気は引けるけど、御挨拶に行くのは当然の義務だ。

 日取りをどうするのか決めないとだけど、そもそもマリルゥの言うエルフの里までの距離がどれくらいなのか分からないと決めれない。

 

 「エルフの里ってどれくらいの距離なの?」

 「タクシーを使えば多分三日くらいよ」


 かなり遠い。

 でも、三日でいけるなら社交会の前に都合はつけれるかな。

 後回しにしたらいつまでも行けないだろうし、それなら早いうちがいい。


 「それじゃあ、明日の朝から出発しようか」

 「わかった。

  それじゃあ、約束ね!」


 マリルゥってエルフの里に対してネガティブだと思っていたけど、楽しそうにしている。

 やっぱり故郷だし思い入れとかもあるのかな?

 

 「コゼット!」

 「え? 何?」


 急にマリルゥが少しだけ大きな声を出したので驚いた。

 それに、なんだかモジモジしてて恥ずかしがっているみたいだ。


 「もっと近づきたい。

  ねえ、キスしていい?」


 マリルゥが急接近!

 そんな事急に言われても正直困ってしまう。

 胸がドキドキする。

 これって僕もキスがしたいって事かな?


 僕は上から抱きしめてくるマリルゥの方を向いて目を閉じた。

 唇が触れ、舌を絡ませる。

 胸が痛いと感じるくらい激しい鼓動が胸の内側を叩く。


 高揚して赤く染まったマリルゥの顔が、いつにも増して色っぽく見えた。

 僕は緊張してきて渇いた喉が気になって唾を飲み込んだ。

 変な気分だ……なんだか熱い。


 少し離れようとするとマリルゥに引き寄せられ、もう一度唇を重ねる。

 今度はさっきよりも長く、舌も絡ませて、そして離れてもすぐに僕の唇をまた奪いにくる。


 僕は力が抜けて来て、その場にしゃがみ込んでしまった。

 マリルゥは僕を押し倒して上から覆いかぶさる。

 その上でまた唇を奪われ、僕の体にマリルゥの体が押し当てられて……。


 興奮しすぎて気持ち良くなってしまった。

 マリルゥにもそれは伝わっていて、凄く恥ずかしい……。


 興奮の波から解放されると、清々しい気分になり、胸の高鳴りも落ち着いて来た。

 立ち上がってマリルゥとの散歩を再開する。

 と言っても、日も暮れて来たし城の方へと引き返す。


 圧倒言う間に森の中は真っ暗になってしまった。

 マリルゥの魔法で周囲を照らしてくれるから問題はないけど、足場には気をつけなきゃ……!?


 今、確かに僕は目の端で捉えた!

 普通のなら沢山居て見慣れているけど、あのフォルムは……。


 「マリルゥ、その辺りの木を照らして貰えるかな?」

 「ここ? 虫しかいないわよ?」


 確かこの辺りだったはずだけど……居た!

 この辺りでは見かけなかったけど、個体数が少ないのかな?

 美しい金属光沢のある外骨格に包まれていて、暗くて分かりにくいけど少し青み掛かっているな。


 クワガタの様な大きなハサミを持っているけど、細長くて先端は木に押し当てると突き刺さるくらい鋭い。

 それに、見た目以上にずっしりしていて凄く固い。


 この辺りには天敵になる蜂の様な昆虫はいなかったし、このポテンシャルがあってどうして夜行性なんだ?

 このハサミのスペックを考えるともしかして肉食なのか?

 それなら普段から見かけない理由にも納得がいく。


 それに、この目だ!

 トンボの様に大きな複眼を持っている!

 やはりこの子は肉食の甲虫に違いない。


 となると、目的の獲物が夜行性の可能性があるな。

 夜行性の獲物かぁ……このハサミを使えばカラスくらいの鳥でも当たれば倒せそうだけど、それだと挟む形になっているのはおかしい。

 それに、この重さだとそんなにスピードは出せないだろう。


 朽木きゅうぼくを掘り進んで他の虫を捕食対象としてる可能性は高いか。

 いや、樹液に群がる虫かもしれない。

 いずれにしても狩りの瞬間を補足するまでは分からないな。


 「珍しいわね。

  まだ生息していたんだ」

 「この子の事知ってるの?」


 「ヘルグリーブ。

  別名甲冑殺し。

  詳しい事は知らないけど、甲冑を来て森に入ると、その虫を踏んで大怪我をするらしいわ。

  だから戦争があったりすると近くの森にいるヘルグリーブは全部駆逐されたりしているから今じゃ殆ど見かけないわね」

 「なんて酷い事をするんだ……。

  でも、それだとよく地面を徘徊している事になる……いや、良く踏みつけられるなら待ち伏せか……そして、結構派手な見た目をしているのは目立つ方が生存競争に有利になった……成程、じゃあ、捕食対象はネズミの様な小動物の可能性もあるな。

  よく見ると目立つのは上から見た時だけっぽいし、見えて来たぞ!」


 「コゼット?

  もう暗いしここで時間を過ごしていても仕方ないわ。

  早く城に帰って、一緒に寝ない?」

 「ごめん、今日はもう少しこの子達について調べたいんだ。

  個体数が減っているなら絶滅しない様に繁殖出来る環境を用意してあげたいし。

  とりあえず、城まで帰ろうか。

  僕はその後すぐにヴィルヘルムと一緒に森で調査を始めてみるよ」


 僕はマリルゥの手を握り、急いで城へと戻った。

 そして、マリルゥを僕の部屋に残してヴィルヘルムと共に再び夜の森へと向かった。


 

  

 

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異世界でアイドルプロデューサーになりました。 ジャガドン @romio-hamanasu

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