第43話
マリルゥが目覚めたのは次の日の夜だった。
僕は仕事もアサギに任せて、マリルゥ見守っていたけど、目覚めた彼女は僕を警戒して話しかけても返事をしてくれない。
まだ幻覚の中にいるのかどうか疑っているのか、それとも……。
「こんな都合の良い現実……信じられない」
マリルゥがそっと呟いた。
あはり幻覚の中にいると思っているのか……。
それは厄介だな。
どうやって現実だと判断して貰えばいいんだ?
「やっと口を開いてくれたね。
僕だってその気持ちは分かるよ。
ミリア……マリルゥの母親だよね?」
「そうよ、あれと戦って無事で済まされるわけがない」
「確かに。
でも、ジュラがミリアと因縁があったみたい。
ミリアに止めを刺して、僕もそれを見届けた。
だから、大丈夫。
これは幻覚じゃない」
「……。」
マリルゥはまた塞ぎ込んでしまった。
どんな心境なんだろう……母親に止めを刺したなんて言って快くは思っていないとは思う。
再びマリルゥが口を開いたのはそれから少し経っての事だった。
「もう、幻覚でもいい。
私を抱いて。
抱いて私を安心させて」
マリルゥがベッドに僕を引き寄せる。
とりあえず抱っこしてはみたものの、ここで一線超えるわけにもいかない。
ちゃんとマリルゥと向き合い、僕の言葉を伝える。
それが、マリルゥとの関係の第一歩だ。
僕はマリルゥの肩を少し押し、距離を取った。
潤んだ大きな瞳が僕を見つめて来る。
ドキッとするからこんな至近距離でその目は止めて欲しい。
「マリルゥ、僕は君と向き合いたい。
自分自身とも向き合ってみたんだ。
それで、マリルゥには失礼な事をしてしまったと思ってるんだけど、聞いて貰えるかな?」
「なんでそんな面倒な事言うの?
もう、どうだっていいじゃない。
私はあなたを求めてるの、あなたがどうしたいのか答えるだけ。
嫌いじゃないなら受け取ってよ!」
マリルゥの唇が僕の唇に重なる。
ドキドキする。
僕は一度強くマリルゥの体を抱きしめた。
そして、もう一度肩を押し、そのままベッドから下りる。
「僕はマリルゥの事が好きだ。
でも、僕の中にはね、もっと大きな存在がいる」
「もっと大きな存在?」
「うん、テレサだよ。
僕自身気が付かなかったけど、僕はテレサに恋愛感情を抱いていた。
尊敬もしているし、憧れている。
だからこそ……かな?
僕はマリルゥと付き合ってみたいと思ってるんだ」
「テレサの代わりって事?
どうして、他の人の事なんて話すの?」
「テレサの代わりなんかじゃない。
僕はマリルゥにそれ以上の存在でいて欲しいと願っている。
だから、誠実なお付き合いがしたいんだ。
その為にも、僕はマリルゥの事をもっと知って受け止めたいって思ってる。
マリルゥ、沢山話し合おう」
「今受け止めてくれたっていいじゃない……。
それなら、私の何が知りたいの?」
それから僕はマリルゥと色々な事を話した。
マリルゥはエルフの里で孤立していた。
その原因はミリアにある。
ミリアは自分を溺愛するマリルゥの為に、里全てを幻覚で閉じ込め、マリルゥの都合の良い世界を作ろうとしていた。
族長であるマリルゥの父親はエルフの中でもトップクラスの魔法使いであり、容易くその幻術を打ち破った。
その後、危険視したミリアを拘束し、牢に閉じ込めた。
その後、100年間ミリアは牢に閉じ込められ、族長は何度もミリアの元を訪れていた。
危険だからと言う理由で、マリルゥはミリアの元へ訪れる事は出来なかった。
しかしある日、突然目の前にマリルゥの前に母親であるミリアが現れる。
その瞬間、マリルゥの意識は途絶えた。
それから目が覚めると、いつも通りの日常が続いていた。
最初は何の違和感も無かった。
それでもマリルゥは日を追うごとに違和感を感じるようになっていった。
なぜなら、自分にとって都合の良い事しか起きなかったからだ。
何をしても上手くいってしまう。
態と失敗しても、結果的にそれが正しい事であったかのように物事がうまく進んでいく。
マリルゥはそんな周りのエルフ達が気味悪いと感じ、里を離れようとした。
結果的にマリルゥは里から離れる事は出来なかった。
何度外へと続く道を辿っても里に戻って来てしまう。
これがミリアの仕業なのだとマリルゥは確信したけど、どうしていいのかは分からない。
それからマリルゥは魔法の腕を磨き、色々な方法を使ってミリアの魔法に挑み続けた。
そんなある日、突然それは終わりを迎える。
目の前がひび割れ、マリルゥは現実の世界を目の当たりにした。
燃え盛るエルフの里で、両親が殺し合いをしている。
エルフの精鋭達による多重魔法と結界によってミリアはその場から敗走する。
マリルゥは突然現れた現実に理解出来ないでいた。
それからは本当の生活が始まる。
しかし、誰もマリルゥに話しかける者はいなかった。
当然だ。
マリルゥが夢の様な日常を繰り返している間、他のエルフ達は幻術によって地獄の様な世界にいたのだから。
族長をはじめとする一部のエルフ達でその幻術を打ち砕いたが、それを達成できたのは50年の月日が掛かったと言う。
その後、数十年経ちエレウテリアの魔女の噂がマリルゥに届いた。
そして、族長はマリルゥにシルウの居る森へ身を隠せと命じた。
エレウテリアの魔女ミリアと瓜二つのマリルゥが居れば、エルフの里が他の勢力と敵対する恐れがある。
マリルゥもここに自分の居場所はないと感じたので、了承し、数年後に僕達が現れたのだと言う。
他にも色々な事を話したけど、エルフの里の事以外は至って普通の、ありふれた女の子の話しだと思った。
マリルゥはミリアの事については、諦めもついているのだと話している。
「そうか、大変だったと思うけど、ミリアから解放された事。
それ自体は良かったのかな?」
「良い事よ。
どうしてあの人が狂ってしまったのかは分からないけど、もうあの人を気にする必要は無くなった」
「うん、これからマリルゥはいっぱい幸せになるんだ。
これからは宜しくね」
マリルゥは嬉しそうに僕に抱き着いて来た。
慣れないけど、少しずつ距離は近づけていこうと思う。
「そういえば……分からない事があるんだけど」
「なに?」
「マリルゥって僕の何処を気に入ったの?」
「ん? 顔よ?」
ええ?
何かきっかけとかあるのかと思っていたけど顔なの?
あんなに僕に固執している様な感じだったのに顔?
なんだかマリルゥの事が良く分からなくなってきた。
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