第21話

 ファーブルの事はアサギ達に任せているし、急いで帰る必要はない。

 そう言う訳で、久しぶりにフェルベールのダンジョン第四階層に居る。

 土竜のコロニーで適当に買い物も済ませ、ライブも行った。


 まだぎこちないけど、マリルゥも二度目のライブは楽しむ余裕が出てきたみたいだった。

 ファーブルに帰って、皆で合わせて練習をすればかなり良い感じになりそうだ。


 けど、今日の目的はこの第四階層では無い。

 テレサから聞いた話によると、土竜のコロニーは第八階層にもあるそうなので、そこへ辿り着くのが今回の目的だ。


 ちなみに、第九階層は今だ踏破した者がいない危険な階層となっている。


 第五階層。

 以前僕達が階層主と戦った沼地の広がる階層。

 随分久しぶりに来た気がして感慨深いな。


 あの時は僕達以外の冒険者はいなかったけど、階層主を倒したせいか、沢山の冒険者がここで狩りをしている。

 モンスターもなんだか小さくなっている気がするな。


 テレサに聞くと、階層主が倒されて一年間はその階層のモンスターが弱体化するらしい。

 そうなると、かなり都合の良い狩場になるので、階層主を倒した後は冒険者達で賑わうらしい。

 この分だと、ギルドに行けば沢山ここの権利報酬が入ってきそうだ。

 僕達はこの階層には用もないので、早々に第六階層へと降りていく。

 

 第六階層。

 地上のような場所だけど、所々に朽ち果ては石の建造物が散らばっている。

 第六階層はなるべく早く抜けた方がいいと教えてくれた。

 ここに現れるゴブリン達は、戦闘能力も高く、罠を張る知恵も持っている。

 なので、なるべく静かに進み、見つかったら確実に対処していく必要がある。

 一匹でも取り逃がせば、応援を呼ばれて大変な目に合うらしい。

 

 テレサの探知能力のお陰で、ゴブリン達には見つからず、罠も難なく解除して先に進む事が出来た。

 

 そして第七階層。


 ここは冒険者達の間では地底湖と呼ばれている。

 その名の通り、地底の洞窟の様な場所で、明かりが無ければ真っ暗で何も見えない。


 テレサが魔道具のランプを使って周囲を照らしてくれるので、問題なく先に進める。

 この階層での注意点は、湖の水に触れてはいけない事。

 それと、頭上にも気を付けなければならない。

 ここに湧くモンスターは全てスライムで、毒をもっていたりもする。

 そう言う訳で、ここも通り抜ける様に次の第八階層へと降りてきた。


 第八階層。

 静寂の森と呼ばれ、土竜のコロニーは綺麗な泉を中心にして作られている。

 テレサが現役だった頃は、第四階層のコロニーとは違って最低限の施設だけ作った簡素なものだったらしい。


 今は第四階層ほどではないけど、多くの冒険者達もいるし、小さな街みたいな感じになっている。

 

 「マスター、ここでもライブをするの?」

 「そうだね、せっかくここまで来たんだし、やってみたいかな」


 「そうか、それじゃあその前に、土竜のクランマスターに挨拶して行こう」

 「土竜のクランマスターってここにいるの?」


 「そうだ、彼の目的も私達と同じく、このダンジョンの踏破だからね。

  もしかしたら第九階層に行ってるかもしれないけど」


 そう言う事なら挨拶しないわけにもいかない。

 僕達は土竜の宿舎を尋ねると、クランマスターの居る部屋へと通してもらった。

 

 クランマスターの部屋だけど他の部屋と大差のない普通の部屋。

 簡素な机に何処にでもある様な椅子。

 そこに一人の小柄な男性が腰かけていた。


 「ん? お前、テレシアか?」

 「久しぶり、ここも随分栄えてるじゃないか」


 クランマスターのカーラッドとテレサは顔見知りなのか。

 それにしては随分若く見える。

 

 「こつこつ建材を運んで他の冒険者も住めるようにしたからな。

  そんな事より、随分若返ったな。

  もうとっくに寿命で死んでると思ってたぜ」

 「色々あってね。

  まあ、歳には変わりないよ。

  今はアイドルをやっているんだけど、ここでライブをしてもいい?」


 「ああ、第四階層から来た冒険者から噂は聞いてはいたが……。

  まあ、好きにやっていいぜ。

  俺も酒のつまみにさせてもらう」


 許可も取れたし、僕達はそれぞれ挨拶をすませ、早速外に出てステージを召喚する。

 ここは第四階層よりも更に娯楽に飢えた冒険者達が滞在している。

 冒険者達の数は500人程度しかいないけど、突如訪れた娯楽に大盛り上がりで、ステージは熱狂に包まれた。


 ライブが終わった後、再びカーラッドの部屋に集まる。

 カーラッドから話があるそうだ。

 ライブ中は結構楽しそうにお酒を飲んでいた様に見えたけど……今は深刻そうな表情をしている。


 「浮かない顔をしているね。

  何かあったの?」

 「第十階層へ行く道を見つけた。

  だけどな、封印しちまった。

  今の俺達の役目は、第九階層の防衛だ。

  誰も第十階層へは通さねえ」


 「へえ……何を見た?」

 「国があった。

  あれは、神話にある異界シュオールなんじゃねーかと思っている」


 異界シュオール。

 番人の使徒のうち闇の使徒が番人から与えられた楽園の事か。

 確かにダンジョンは異界と言っても過言ではないけど……だとしたら光の使徒の楽園、異界セレスティアルもダンジョンを通じて何処かにあるのか?

 なんとなくだけど、カーラッドの見た国は異界シュオールではないと思う。


 「そうか、カーラッドはここでダンジョンの踏破を諦めるの?」

 「俺は諦めてはいない。

  危険だから今は最低限の人数で調査している」


 「私達も諦めていない。

  だから、協力させて貰えるかな?」

 「協力か……そいつは構わねえが、そこのエルフは問題だな。

  俺のパーティーは三人共ドワーフだ。

  一人エルフに家族を殺された奴がいてな、和解なんて出来ないぜ」


 カーラッドはドワーフだったのか。

 エルフと同じ長命な種族。

 だから80歳のテレサとは顔見知りだったのか。


 そういえばエルフとドワーフは戦争しているんだったな。

 以前の世界でもドワーフとエルグは嫌煙の仲みたいな感じだったりするし、深い因縁もあるのかもしれない。


 「それなら、調査には僕とテレサの二人で協力させて貰う。

  マリルゥ達は僕達が調査している間、ここの手伝いをしておいて」

 

 第九階層。

 断崖絶壁の溶岩地帯。

 落ちたら間違いなく死んでしまう。

 テレサと二人で入り口で待っていると、カーラッドが二人の仲間を連れて来て合流する。

 

 「本当にテレシアじゃねえか!

  久しぶりだな!」


 真っ先に声を掛けてきたのはドワーフのカルロイ。

 そして、もう一人の寡黙なドワーフがドルドナ。

 僕も挨拶を済ませ、第十階層への入り口がある場所へと向かう。


 ここに出て来るモンスターはどれも強力で、倒せない事もないけど、足場が危険なので見つからない様にした方が無難だ。

 そう言う訳で隠密行動で目的の場所まで辿り着いた。


 テレサの探知能力とマスコットの地図を使えばモンスターに見つかる事無く進むのは簡単だった。


 「ここの壁が掘れる様になっている。

  第十階層まで薄壁一枚って所までは掘ってあるからの祖いて見てくれ」


 階層を繋ぐ通路はこんな風になっていたのか。

 今まで階段を下って来たから知らなかったけど、どうやらあの階段は冒険者達が掘り進んで作っていたらしい。


 そして、第十階層へ続く通路の先にある最後の壁。

 隙間が空いているので、覗いて見ると確かに街があるし中央には城の様にそびえ立つ巨大な塔があった。


 角の生えた人らしき人物がいたので、観察を始める。

 魔法能力が高めで基本的に高い値だけど、平均してFくらいの値か。


 同じ数での戦闘なら苦戦はしても負ける事はなさそうだ。

 まあ、明らかに数が多いので実際に戦闘になれば逃げるの選択肢しかないわけだけど。


 「あれは……旧人類だ」


 テレサが不意にそう呟いた。


 「旧人類?」

 「今は魔族と呼ばれている神話上の人間だ。

  光の信徒が人族から選ばれる様に、闇の信徒は魔族から選ばれる」


 「それって、ここに闇の使徒が本当にいるかもしれないって事?」

 「わからない。

  けど、信徒がいてもおかしくはない。

  ちなみに、旧人類である魔族は七度目の大戦を生き延びた種族で、その功績を称えられ、使徒から信徒を得られる権利を与えられた。

  今の人族は大戦後に魔族を模して造られたから能力で劣ると言う事はないと思う」


 僕の見た限りでは全体的に魔族の方が能力が高い。

 それは、過酷な環境から高められたのだと考えると納得がいく。

 

 「さて、これからどうする?

  相手は得体の知れない相手だ。

  言葉も通じるかわからねえぜ?」

 「僕なら能力で言葉が通じるはずだし、ここを抜けて話しかけてみようか?」


 「よし、分かった。

  それじゃあ、壁を壊すぞ」


 カーラッドが壁をハンマーで破壊する。

 近くを通りかかっていた魔族達の注目が集まる。


 「あーあー、話がしたいんだけど、誰か答えてくれる人はいるかな?」


 僕の声に反応した魔族の一人が近づいて来た。


 「人族? お前は人族か?」

 「そうだ、地上からここまでやって来たんだ」


 「その穴は地上に繋がっているのか?」

 「そうだけど……」


 嫌な予感がする。

 言葉は不思議な事に地上で話している言語を同じだ。

 皆も不穏な空気を感じ取ったのか、静かに臨戦態勢に入っている。


 僕と話していた魔族は、不敵な笑みを浮かべ、巨大な塔の方へと去って行った。


 「テレシアとコゼットは急いで第八階層へ向え、俺達はこの第九階層の穴を塞いで戻る。

 そして、第九階層への階段も原型がなくなるまで破壊してからガチガチに固めろ」

 

 カーラッドは静かにそう囁いた。

 なぜそんな事を言ったのか一瞬分からなかったけど、もしかしてこれから戦争が始まると言うのか?


 「カーラッド、第九階層の階段を埋めてしまったら君達も戻って来れなくなるんじゃないのか?」

 「そんな事は気にするな。

  俺の勘は当たる!」


 テレサが僕の手を引き、急いで来た道を引き返した。

 まだ頭の整理が着いていない。

 ただ、とんでも無い事が起こるのだと言う事は理解した。


 カーラッドに言われた通り、第八階層へ着いた僕達は、近くの冒険者達に声を掛け、彼の指示通り階段を破壊して強固に押し固めた。

 テレサは念のためにと、第八階層へ通じる階段も何処にあるのか分からない様に偽装するよう指示を出していた。


 いつになるのかは分からないけど、カーラッド達が無事に戻って来る事を願う。

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