第26話 少女親昵

 デイジーがすぐ皆に受け入れられたように、オトギもまた、皆に受け入れられるまでにそう長い時間を要しなかった。


 デイジーを“動”とすれば、オトギは“静”だった。控えめだがよく働き、上品で気配り上手……というのが、シェルター内でのオトギ評だ。


 しかし、ナオミは、オトギに対する警戒心を捨てていないようだった。元来、慎重なところがあるナオミからすれば、当然のことかもしれない。実際、俺もオトギに対しては疑いの目を向けていた。


 第一に、デイジーのことを、“お手伝いロボット”と評したこと。なるほど、デイジーもあれでくるくると働いているから、誤りではないのかもしれない。


 だが、俺はデイジーが、“ヤツら”を追い払ったところを、この目で見ている。単なる“お手伝いロボット”に、あんな、過剰とも言える装備が必要だろうか……?


 第二に、あまりにも順応が早いこと。そう設計されていると言われれば納得するしかないが、オトギはこのシェルターに馴染みすぎているように思えるのだ。それ自体は悪い事でないから止めるわけにもいかないが、何となく、違和感があった。


 そして第三に、捜索があらかた済んだエリアに倒れていたこと。勿論、チェック漏れということも考えられるので断定はできない。


 しかし、なにか意図的なものを感じてならないのだ……。


「鳴海、お前もそう思うか」


 この違和感を、給湯室でたまたま出くわしたナオミに打ち明けると、左手に煙草を持ったまま、ナオミはそう言った。


「私や鳴海が疑り深いだけかもしれない。だが……」


「ああ……どうも、嫌な予感がする」


 煙を吐きつつ、首肯する。


「私もだ。かといって、シェルターに無用の混乱を引き起こすわけにもいくまい。今騒ぎ立てても、私と鳴海がオトギを追い立てようとしているように映るだけだろう」


「そうだな……」


「しばらく様子を見るしかないな……。鳴海、それとなくでいいから、気を配っておいてくれ。私の方でも注意しておく」


「了解」


「では私は戻る」


 ナオミを見送り、もう一本煙草を吸う。燃焼が半分ほどに差し掛かった時、「鳴海さん」と呼びかけられた。


「オトギか、どうかしたか?」


 声の主はオトギだった。両の手を丹田の付近で組み、いつものようにしゃんと立っている。


「お姉さまを見ませんでしたか? 少々、お話があったのですが……」


「デイジーなら、Cブロックにいるはずだ。今頃、河合の手伝いをしてると思うぞ」


「そうでしたか。どうもありがとうございます」


 相変わらず丁寧な物腰。デイジーとはやはり対照的だ。


「いや、別に。それより、ここには慣れたか?」


「ええ、皆さんとても良くしてくださいますから……」


「そうか。まあ、何か不便があったら遠慮なく言えよ。多少融通の利くこともあるかもしれないしな」


「ありがとうございます、鳴海さん」


「ま、決めるのは俺じゃなくてナオミだけどな。あいつがここの責任者だから」


「長谷川さん、頑張ってらっしゃいますわ。あまりお休みになっていらっしゃらないご様子ですし……」


「あいつはそういうやつなんだ。お前からも言ってやってくれ」


「うふふ」


 急にオトギが笑い出した。


「何だ?」


「いえ、失礼いたしました。鳴海さんは、長谷川さんのこと、思ってらっしゃいますのね」


「まあ、心配ではあるな」


「素直じゃございませんね。けれど、鳴海さんも、お体には気を付けてくださいましね? お煙草、喫されていたようですから」


「お見通しか。わかった、控えるよ」


「ええ……あら、いけませんわ。お姉さまのところに行く途中でしたのに、話し込んでしまいました。それでは鳴海さん、失礼いたしますわね」


 もう一度優雅に一礼して、オトギは去って行った。


「考えすぎか……?」


 時計に目を落とすと、休憩時間は終わりに近い。


 話しているうちに灰になってしまった煙草を捨てると、俺は作業の為にBブロックに向かった。どこか、納得のいかないものを胸に抱きながら……。

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