第2話 受信

ーーー

俺の名前は海崎勝(かいざきまさる)。

あなたの通信を受け返事をしています。

俺はいま宇宙の避難船にいます。

宮古杏奈さん。いま、あなたはどうしてますか?

どうぞお返事ください。

ーーー


 世界が『綻び』だした時、俺の家族は親父のツテで早めに宇宙へと脱出できた。

 別に親父が金持ちだとか、政治家だったとかではない。親父は単なる町工場の職人だ。特別なことと言えば、親父の工場で作る部品が、宇宙ロケットに使われていた事ぐらいで、その縁で優先度があがっていたんだ。

 もちろん急な宇宙進出は簡単な事ではなかったよ。


 宇宙飛行士といえば誰もが訓練されたスペシャリストだよな。だけど、昨日今日まで一般人だった俺たちが、急に宇宙に行けるほど訓練する余裕はなかった。

 そこで、世界がだした答えは"誰もが安全に宇宙にいける船を作る"ことだった。

 世界が、いつ完全に『綻ぶ』のかはわからない、そんな限られた時間と限られた資源を使い、繰り返し宇宙船が打ち上げられたんだ。

 なかには、打ち上げ途中で壊れた船や、運悪く世界の『綻び』に触れてしまった船もあったと聞くよ。


 宇宙までたどり着き、避難船に乗れた俺は本当に幸運だったんだな。

 でも、当時の俺はまだ高校生だったからさ、友達を残して避難することに大きな罪悪感があったよ。あとから、友達も家族と一緒に避難してきたけど、やっぱ前みたいには仲良くはできなかったな。


 生活も避難船の中では大きく変わったしな。一番の違いは、勉強の時間が短くなって、その分働く事を求められてよ。

 当然だよな、宇宙を漂う避難船の中では、水も食料も限られている。どこか移住できる星でもあれば違ったんだろうけど、そんな都合のいい星なんてすぐには見つからない。

 頭のいいヤツは労働が免除される代わりに、大学教授レベルの勉強をさせられたって噂だけどな。


 そんなこんなで時間が経って、あっと言う間に俺もあの頃の親父とかわらない年になった。

 その間にも世界は『綻び』、いまでは残された所はほんのわずか、猫の額ほどの面積って揶揄できるぐらいだ。

 ただ『綻んだ』世界の部分は何もない。言葉通りの"無"が広がっているのが、宇宙からはっきりとした見ることができ、誰もが恐怖しているよ。


 そんなある日だった。『宮古杏奈』と名乗る人物から、俺の通信端末に連絡が入ったのわ。

 始めはイタズラだと思ったね。だって、『綻び』の部分は、さっきも言った通り"無"でしかない。そんな『綻び』の向こう側から通信が入ったとなると、そこには人や世界が残っている事になる。

 それが本当なら俺達にとってこれ以上の希望はないからな。

 2通目3通目と通信が届くうちに、俺は本当にあの世界から送られている気がしたんだ。

 もちろん、周りからはそんなことはないと馬鹿にされたけどさ。それでも、俺は信じたくなって仕方がなかったんだ。

 だから返事を出してみたんだ。けど、どうも相手には届いてないみたいで、俺の返信を無視した内容の通信が4通目5通目と届くんだ。


 それでも俺はあきらめなかった。だって『綻びた』あの世界に、人が残っているのならちゃんと通信が届いている事を伝えたかったから。

 だってそれは、"無"として見える『綻び』の向こう側に、世界がある証明になるのだから。

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綻びゆく世界 遊bot @asobot

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