夜風

花宮零

夜風

 9月中旬。深夜2時。煙草と缶チューハイを手にしベランダへ出る。まだ生ぬるく、でも少し涼しくなった夜風が私の頬を優しく撫ぜる。暫くその風の温もりを感じながらぼーっと空を眺める。都会の空に満天の星は現れない。ぼんやりと遠くで光る一番星を、手をかざして取るふりをする。当たり前だが取れるはずもなく、私の手は空を斬る。


 眠れない夜に、何も考えずに外に出るのに丁度いい気温だと思う。そんなことを考えながら、私は1本目の煙草に火をつける。カチッというライターの小気味よい音を耳にしながら、煙草の煙を燻らせる。こういう時、音楽は聴かない。自然独自の音を楽しむことに集中する。あと数時間後には皆と同じように活動しなければならない現実を忘れ、ただ何も考えず煙と夜空の紡ぐ景色を眺める。冷えもしなければ汗もかかないこの気温が肌に心地好い。1本目の煙草を吸い終わり、私は缶チューハイを開ける。全く眠れなかったくせに、頭は寝ぼけたようにもやがかかっている。その感覚さえも愛おしかった。世界の中で、私だけが動いている。そんな気持ちにもなる。頭の中でむず痒いポエム達が浮かんでは消える。


 よく寝酒は睡眠を浅くするという。しかし、いくら浅くなろうと、私はこの時間に缶チューハイをあける。


 一瞬身震いをしてからうーんと伸びをする。アルコールの程よい浮遊感で、私も星になれるのではないかとさえ思ってしまう。私のこの一時ももうそろそろ終わりだ。眠くなり寝て起きれば、またせかせかとした日常が始まる。その日常が始まった時、私はあの時何もせず眠ればよかったと後悔するだろう。でも、それでいい。また懲りずに私は深夜2時、ベランダに煙草と缶チューハイをもって出るだろう。それが私の、社会人である私の、少し遅れた''青春''だから。

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夜風 花宮零 @hanamiyarei

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