第5話 隠しきれない漏れ出る……オーラ?

『見て見て~私たちに気付いたよ~』


『前よりもっとイケメンになったわん~』


『あのオーラ~美味しそう~』


『いつになったら食べさせてくれるのかな~楽しみだな~』


『早く私たちを使役して欲しいな~』


 …………。


 僕はおもむろに耳を塞いだ。


「セシルちゃん? どうしたの?」


 耳を塞いでも無数の声・・・・が頭に直接響いてくる。声っぽい念話って感じ。


「…………お母さん。これから変なこと聞くね?」


「うん?」


「魔物って――――喋れるの?」


「う~ん? 喋れないわよ? でも魔物同士では話したりするみたいね」


「魔物の声が聞こえる人とか聞いたことはない?」


「ないかな~貴方も聞いたことないですわよね?」


 お父さんも大きく頷いた。


 溜息を一つ吐いて、またスラちゃんたちを見つめた。


『またこっちみたよ~わ~い!』


『さっきより凛々しくなって~イケメンやわ~』


『本当にイケメンだね~!』


 やっぱりこの念話ってお前たちなのかよぉおおおおお!


 それぞれ個体に分かれているようだけど、意識は繋がっているようにみえる。というのも狩りのときもスラちゃんたちは意識や意志が繋がったような動きを見せていた。


 スラちゃんたちに手を振ってみる。


『きゃ~! こっちに手を振ったわ~可愛い~!』


『うふふ! そろそろ僕たちにご飯をくれるかも!』


『『『『楽しみ~!』』』』


 想像していたスラちゃんたちとあまりの違いに頭が痛くなる。


 それはそうと、今日のスラちゃんたちはものすごい数が集まっている。


 赤ちゃんの頃に来た一匹から三十匹に増えたが、毎日うちにいるわけじゃなく、出かけては戻ってを繰り返している。


 そんなことより、ご飯という部分が気になる。


「お母さん~スライムのご飯って何か分かる?」


「スライムの? スライムはなんでも食べるでしょう? だからいろいろ食べてくれるのはありがたいんだけど、急にどうしたの?」


「う、ううん! なんでもないよ!」


 そう。


 スライムの常識の一つに、彼らのご飯は――――いわゆる、ごみを食べてくれるのだ。ごみというか何でも食べるんだけど、完成した食事や食材類は食べない。それもあってスライムと人は共存している。


「それにしても今日のスラちゃんたちは、何だか興奮しているみたいね~」


「みんなの視線がセシルに向いている気が……」


 あはは…………うん……気のせいじゃないよ、リア姉。


「ふふっ。ソフィちゃんの言う通りね。セシルちゃんにはスラちゃんたちに愛されているし、それだけ魅力があるから大丈夫そうね!」


「うん! お兄ちゃんはかっこいい~!」


「セシルは世界で一番可愛い!」


 リア姉とソフィからの視線が熱い……。


 うちはお母さんとリア姉とソフィに権力が集中しており、お父さんと兄さんたちと僕の影が薄い。いまも兄さんたちはみんな苦笑いを浮かべているだけだ。


 でもみんな心優しくて、いつも心配してくれる。主にリア姉とソフィに追い掛け回されていることをね。


 雰囲気もよくなったのでお母さんが作ってくれた美味しい祝いの食事を堪能する。


 絶世の美女であり、魔法の中でも珍しいと言われている回復魔法が使えるし、料理も上手いし、うちのお母さん最強すぎて!


 慌ただしい食事会が終わって、そのままリビングに集まった。お母さんとリア姉とソフィで。


 お父さんたちはスラちゃんたちが暴れないか見張るといって外に。


 それにしてもあまりにも数が多いように見える。


「じゃあ、さっそく調べさせてもらうわよ~!」


 張り切るお母さん。何をするかくらい予想は付く。


 お母さんは右手を丸めて望遠鏡みたいにして僕を覗いてきた。


「へ!?」


 僕を見た瞬間に手をはずして、目を瞑り、顔を左右に振る。


 綺麗な金色の髪が波を打つ。


「お母さん? どうしたの?」


「も、もう一回!」


 そして、お母さんはまた同じく右手を丸めて僕を覗き込んだ。


「そ、そんな……? セシルちゃん……? 本当にレベル0なんだよね?」


「うん。そうだよ?」


「…………そんな……ありえないわ」


 ありえない……?


「お母さん~? セシルがどうしたの? 魔力が見えるの?」


「…………リアちゃん。ソフィちゃん。これはセシルちゃんのステータスになるから、席を外してくれる?」


「「え~やだ~」」


「ダメよ? いくら家族といっても、個人情報はおいそれと教えちゃいけないわ」


「じゃあ! 私の先に教えるからっ! ソフィは出ていっていいわよ」


「酷いっ! お姉ちゃんばかりズルい! 私だって来年お兄ちゃんに真っ先に教えるんだからっ!」


「こら~! 二人とも! ダメですってば~!」


 …………めちゃくちゃ可愛い猫たちが餌をめぐって喧嘩しているみたいだ。


「ごほん。お母さん? 僕は大丈夫だよ。家族は信頼しているし、正直…………家族に嫌われるなんて想像もしたくないんだ」


「セシルちゃん…………わかったわ」


 諦めたように溜息を吐いたお母さんが続けた。


「セシルちゃんの魔力…………外にまで漏れ出ているわよ。しかも、私では見たこともないくらいすごい量だわ。スキルがないのに、こんなにも漏れ出ているんだから、セシルちゃんはすごい魔力を持っているかもしれないの。ステータス画面ではどう?」


 …………うん。思い当たる節しかありません。


 魔力999999。


 お母さんから事前に教わった数値というのは、普通の魔法使いの魔力数値は100。上級魔法使いでも500。魔法最上級才能の賢者だと2000とかだと教わった。


 賢者の…………500倍か…………。


「う、うん。魔力は少し高いかも。レベルとスキルがないから使えないと思うけど」


「そうね……せっかく魔力があるのに、使えないのは残念ね。でも問題はそれじゃないわ。これだけ魔力を垂れ流していると、いずれセシルちゃんの魔力が空になって命が危ないし、他の人にも見えてしまうから狙われかねないわ!」


 …………あ。それか。


 お母さんの心配をよそに、僕はすでに狙われていた。


 そう――――家の外に無数にいる――――


「うわあああああ!? ミ、ミラぁぁぁぁ! スライムたちが集まりすぎて大変だあああああ!」


 外からお父さんの悲痛な叫びが届いた。

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