ケモショタのケモショタ

上雲楽

変態

 遊佐は肥満体形でブリーフを履いていたので小学生時代はいじめの標的になっていた。前島はそのいじめに加担していたことを忘れていたがケモショタになって久しぶりに遊佐の名前を思い出した。

「あの、全身がケモショタになったので今日会社休みたいんですけど」

「君、まだ学生気分のつもり?」

「しっぽが邪魔でズボン履けないんですよ」

しっぽが窮屈ですでにパンツは脱ぎ捨てている。前島は自分の姿を鏡で見ながら勃起して会社に連絡したがまるで話が通じないので転職を決意した。数分間のやり取りの中で前島はここ数か月にわたる仕事の失敗を四つ指摘されたがケモショタである前島にとっては些細なことだった。前島はクローゼットのスーツを一式捨てたくなったがもうハンガーに手が届かなくなっていた。前島は自分の肉球のついた手を見つめて笑みを浮かべると肉球で陰茎を包んだ。

「とにかく、繁忙期なのはわかってるよね?」

と言われて前島は遊佐がいつも実家の商店の手伝いをしていたことを思い出した。その商店は三年前に潰れたが遊佐の転校は小学校卒業前だった。それに気が付いたのは卒業アルバムに遊佐の写真がなかったからだった。遊佐の顔は思い出せなかったが少なくとも名前がない。いや、卒業アルバムを見たのは数年前だからその記憶も間違っているかもしれない。

「ちゃんと話聞いてる?とにかく病院行くほどのことじゃないよね。早くしてくれないと」

前島は脱ぎ捨てた自分のブリーフの臭いを嗅ぎながらオナニーしていたので聞いていないことは半ば事実だった。半ばというのもケモショタとなったことで聴力が上がって嫌でもすべての音が耳に入ってくるからだった。

 確かプールの授業の後に遊佐の下着が盗まれたことがあった。遊佐は愚鈍だったので誰でもできたことだったと思う。遊佐の顔は思い出せないが陰茎は鮮明に記憶している。肉に埋もれた包茎。今思い返せば犯人は自分だったのかもしれないがどうせ過去のことだし現在の前島はケモショタだった。

 電話の向こうで電話が鳴り続けている。自分との会話を続けるくらいなら仕事に戻ればいいのに。赤子の鳴き声が聞こえたがそれが電話からなのか外からなのか区別がつかなかった。鏡に反射した窓の向こうで鳥が落下したのを前島は見逃した。前島が見ていたのは毛皮と肉に埋もれ、包皮が癒着した自身の陰茎だけだった。遊佐の陰茎よりは多少大きい。遊佐の陰毛はいじめで刈られていたので前島はその正確なサイズを知っていた。しかし転校前の時期なら第二次性徴以前のはずだった。陰毛が生えるような年だっただろうか。

「お前のわがままがなんでも許されると思うなよ」

「でも自分はケモショタなんです」

「死ね」

 遊佐は日常的に罵声を浴びせられていた。そのたびにいちいち泣き出すので前島はよく勃起していた。遊佐はよく転んで擦り傷やあざが絶えなかった。

「遊ぶ時間があるなら店を手伝え」

と遊佐の親が遊佐を殴っているのを二三回見たことがあるのでその傷もあったのかもしれない。中学時代も遊佐をオナペットにしていたが遊佐の行方はわからないままだった。給食の時間に遊佐がパンを押し付けられて嘔吐したことがあった。給食の残りはすべて遊佐が食べるように命令されていて担任もそれを黙認していた。前島は当時のクラス目標が「給食残しゼロ」を掲げていたことを思い出した。遊佐の吐瀉物を食べることはかなわなかったがその日は珍しく掃除の時間中も遊佐が何かを食べていなかった。吐瀉物は率先して自分が片付けたのを覚えているから席が近かったらしい。嘔吐させたのも自分かもしれない。その吐瀉物の処理を含めて遊佐は掃除をほとんどしなかったのでそれが暴行を受ける口実になった。雑巾を顔に押し付けられる遊佐を覚えている。

 肉球の感触が遊佐の胸に似ている気がして前島は勃起を強めた。いじめの一環として遊佐はよく胸をもまれていた。乳首にクリップを挟まれたこともある。それをしたのは前島だった。当然性欲を満たすための行為だったが遊佐にとって動機など関係なかった。泣き出した遊佐を囲んでみんなで笑い声をあげた。きっとその時も勃起していたと思う。

 遊佐は学級委員長だった。それも押しつけられて決まったことだった。雑務はすべて遊佐に任されたが遊佐は常にのろまで間違いが多かったので余計にいらいらさせた。担任はいちいち遊佐の仕事の遅さや誤字脱字を皮肉った。遊佐はそのたびに頬を赤めて笑いものにされた。

 前島は電話を左手に持ち替え、陰茎を扱くのをやめ、右手の中指と薬指をしゃぶりよだれをつけて肛門に挿入した。しばらくほぐしてから前立腺の位置を把握すると継続的に刺激を与えた。

「お前と話しても埒が明かないな。いいからとっとと来い」

普段よりも肛門をほぐすのに時間がかかったので、括約筋とかもケモショタであるらしい。筋線維も含めてケモショタなら射精能力もないのかもしれないと不安になったがそれはケモショタとトレードオフだろう。遊佐はよくカンチョウもされていた。遊佐が身をかがめることがあると毎度標的にされた。時には着席する際に後ろの席の者が椅子の上に指を構えておくこともあって前島もそれをしたことがあるからやはり近くの席にいたらしい。それが何度か繰り替えされてある日、誰かの指が抜けなくなったことがあった。そいつは冷や汗をかき、遊佐は泣き叫んだので笑い声が起き、前島はその後三回オナニーした。どう引き抜かれたのか記憶にないがたぶんどうにかなったんだろう。遊佐のブリーフが肛門の中に押し入れられ、便が付着したかと思うと遊佐の下着への興味がより増した。

 遊佐の排泄も常に監視されていた。小便器で用を足す際は横から覗かれ、陰茎を支える手を引きはがされることもあった。個室に入った際はそれが即座にクラスに伝達され、その横の個室からよじ登って遊佐の排泄を監視した。遊佐はそれを嫌って職員用のトイレを使用し、担任がそれに激昂して殴りつけたのでその日も前島は普段より多くオナニーした。遊佐は検尿の提出も忘れ担任から叩かれていたが、それは前島が盗んだだけだった。哀れに思って前島は遊佐にティッシュを渡すと前島にしがみついて声をあげて泣いたのでそれもオカズにした。涙の付着したティッシュと尿はどこかにしまっておいたはずだったが忘れてしまった。

「何の音?」

と上司が電話越しに聞いているが前島はアナニーに集中していて返事を億劫がった。遊佐は挨拶や返事をする前にほとんど必ず「あ」とか「えっと」とか付け足していたので不愉快だった。だから遊佐が「あ」というたびに十円の罰金が科されることになり、遊佐は親の財布から金を盗んだ。次の日に学校を休み、そのまた次の日は湿布や絆創膏にまみれて登校してきたのでクラスメイトたちは傷口にわざとぶつかったりボールをぶつけたりして笑った。

 遊佐の隣の席になった女子は決まって泣き出した。遊佐に触りたがったのは前島だけだったのかもしれないが遊佐は常に誰かに触られていた。常に誰かが遊佐を監視していた。

「お前、何してんだよ」

「ケモショタなんですよ。どうしたらいいんですか」

 電話が切れた。前島は電話を置いて鏡に映る自分をもう一度見つめ直した。それはまぎれもなくケモショタで前島は肛門から指を引き抜くとオーガズムに達すすことを諦めた。

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ケモショタのケモショタ 上雲楽 @dasvir

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