第15話 ムキムキマンか?それとも・・・・ 

男の身長は176㎝から180㎝の間だろうか?

肩幅は広く、まるで水泳選手のように

肩から腕見かけて、しっかりと鍛え上げられた筋肉がついている。

いわゆる逆三角形というのだろうか。


私は念の為、彼の手を確認した。

優れた水泳選手の指の股部部分には、水かきが発生する。

泳ぎすぎて水かきができたのか、

水かきがあるから、やむおえず水泳をするしかなかったのか?

彼の手には水かき確認できず。

それでいい。愉快だ。


「お嬢さん、お一人ですか?」


男は自信満々に、私を上から見下ろしていて言った。

さっきまで隣のテーブルで、他の女を口説いていたというのに。

このかわり身の速さは尊敬に値するよ。

信じれらない、タフさ。

しかし困ったことに、私はタフでマッチョで強引な男が嫌いではないのだ。


かつての恋人も似たタイプだった。

十代の頃から、いつも同じようなマッチョと付き合って、

身も心もボロボロになって、やがて暴力を振るわれ捨てられた。

なのに性懲りも無く、心の隙間を埋めるために、

また、同じような男に恋愛をするのだった。


ダメだってわかっているのに、なのに、なんで私は・・・。

内股が恐怖でガタガタ震えている。

だが、今夜は先約がある、仕事優先だ。

私は気を大きく息を吸い込んで、

気持ちを引き締めて、マッチョを無視した。


なのにマッチョは、

私のパーソナルスペースに軽々と侵入して、

私のすぐ耳元でささやた。

「どうやら、さっきからお一人みたいですね、待ち人こず、というところですか?お嬢さん」


自分が引っ込み思案な分だけ、

強引にパーソナルスペースを割って入る

男に惹かれてしまう。


ただしマッチョ限定だ。

ほんとに私は限定物に弱い。


「ねえ、お嬢さん、なんとか言ってよ」


私は気を引き締めて、

営業用の笑顔を取り出してマッチョに微笑みかけた。

「お嬢さんとは、これはお上手ですね、結構な年齢なんですよ」


「いえ、あなたの素敵な笑顔はとても若々しくて素敵ですよ。お嬢さん、ちなみにおいくつですか」


そんな他愛もない会話を続けながら、私の情報を聞き出そうとする男。

いったい何万回こんな会話を、さまざまな場所で

さまざまなマッチョと繰り返しただろうか?


こんなマッチョに引っ掛かったら地獄しか待っていないとわかっているのに。

情けないことにマッチョが好きで好きで仕方がない。


私は、無視するどころか、マッチョが私に興味を持ってくれる事が嬉しかった。


「僕も一人なんですよ、お嬢さん、どうですか、お酒でも一杯やりながら、ライブの感想でも語り合いませんか」

マッチョは白々しく言った。マッチョは名刺を取り出して私に見せた。

私は、目の前のマッチョを見ながら、ぼんやり思考していた。


私がマッチョが好きなのは、

大昔のテレビ、笑福亭鶴瓶さんが司会していた、

「突然ガバチョ」の”テレビにらめっこ”のコーナーで、

思わず笑ってしまった見学者を、ムキムキマンがお姫様だっこするシーンに憧れたからだ。


まさしく心ここにあらずだ。

「今は経営コンサルタントしています、郷田龍之介と言い合います、あなたのお名前お聞かせください」

やはりマッチョにお姫様だっこされたい!

それが小学生の頃の夢だった。

そのことを文集に書いてから、私は人と違うことに気がついたのだった。

そんな自分にうんざりしながら、マッチョに答えた、


「まあ、郷田龍之介様とおっしゃるのね、素敵なお名前ね。でも今夜はダメね。先約があるので」

マッチョさん、さっき恋人に、今夜は仕事って言ってたじゃん。

だけど、マッチョの嘘は7割ましで許すわ。

可愛いから。


「じゃあ明日は空いてませんか?さっきからあなたの横顔寂しそうだな、って見てたんです。あなたをほっとけない。今夜あなたをほっとくと消えてしまいそう」


私はどきりとした。マッチョに心を読まれている? 

そもそもマッチョは、私を狙って、わざと恋人を怒らして、

別れたのかな?

私、そんなに魅力的かしら。


ほんとに?

私は太ももの奥に装着した

S &W M &P 9シールド小型拳銃の位置を手で確かめた。

世の中で最も信頼しているのが、小型拳銃だから。

マッチョに舞い上がっている間もなく、通りの向こうに

赤色のポルシェ718ケイマンGTSが止まっているのが見えた。

私のテンションが上がった。

マッチョも好きだけど、スポーツカーも好きなのだ。


ポルシェ718ケイマンGTSは、2シーターミッドシップ。エンジンはターボチャージャー付きの水平対向4気筒エンジン搭載で、0ー100kmまでの加速タイムは4.2秒である。ケイマンはポルシェのなかでも1335kgと軽量で機動性能に優れ、軒並み2000万円オーバーのポルシェ中にあって、700万円台と比較的リーズナブルなお値段でゲットできるのも魅力の車である。高級車が行き来するこの街によくなじむ、ありふれた風景である。

ナンバープレートが”わ”ナンバー。

つまりレンタカーであることをのぞけば。

続く。







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