第2話 イマジナリーフレンド

”灯?”


私はちょうど去年のクリスマスに恋人から別れを告げられた。恋人は私一人を残して何も言わないで家を出て行った。どうして別れることになったのか、私は今もわからない。


”なぜ恋人は去ったのか?”


その後、このクエスチョンを私は死ぬほど考えた。

自分の悪かったところを、くりくり返し考えてた。1、嫌いな食べ物ナマコ、から、10、好きな映画、未来世紀ブラジル。数えてみた結果、


私の中には愛想を尽かされる理由が、だいたい100個あることがわかった。


1、お箸の持ち方。から、2、親指の爪の形。まで、実にさまざまな理由が100個である。


コワかった。生きていること自体が恥ずかしくてたまらなくなってきて、後悔で体がはち切れそうに苦しくなった。夢であってほしいと願った。


夢と現実の境界線をどこに引けばいいんだろう。眠るのが怖くなった。眠って夢をみることが恐ろしくなった。


一人で暮らし始めてから、恋人の匂いが残るベッドで眠るのが怖くて、寝袋に入って床で眠るようになっていた。


私はおそるおそるリビングのドアを開けた。


”ぎぎぎ・・”


”リビングのドア、こんなに重かったっけ?”


リビングの中は、冷凍庫のように寒い。いや寒さが痛いくらい頬に突き刺さる。

奥野テーブルに、背中を向けた状態で赤い衣装に赤い帽子を被った見知らぬ女性が、ナイロン製のクロスをかけたテーブルにりょうあしをきちんと揃えて座っていた。


”夢よね?”


「メリークリスマス」

彼女は言った。

「メリークリスマス」

私は答えた。

「あなた誰?」


「誰だと思う?」

「あ、えと・・・」

「あ、ごめん変な質問してごめんなさい。混乱させたかな?私、見ての通りサンタクロースなの、どうみてもサンタクロースでしょ?今夜クリスマスイブでプレゼトの配達中。もう忙しくて忙しくて、で、ちょっと休憩」


「こんなとこでいいの?」

「いいの、いいの、お気遣いなく」


急にストーブが点火して、部屋が暖かくなった。


サンタクロースは深い息をついてから、口をつぐんで、

ブラウスについたボンボンを指で弄び始めた。

きっと退屈な時の彼女の癖なんだろう。

サンタクロースも沈黙が苦手なのだろうか?


夜中の2時に、リビングでサンタクロースと二人きりだって。

気まずいよ。


私は、沈黙が苦しくなり、サンタクロースに声をかけた。

「ビールでも飲みますか?」

サンタクロースはこちらを振り返って笑った。


”やばい、かわいい”


華奢な体に黒髪を後ろで束ねて馬の尻尾にくくった、大きな目が印象的な女性のサンタクロースだった。ちょうちょう結びにくくったブラウスの紐先についたふわふわのボンボンが揺れている。


「あ、ビール大好きなのよ!故郷のフィンランドでは夜9時以降は、どこのお店もビール出してくんないから、嬉しいわ」


私は、去年のクリスマスから冷蔵庫の奥でずっと冷やされてきた缶ビールを、

1ダース出して、そのうち1本をサンタクロースのテーブルの前においた。

サンタクロースは、1本を手に取り私に差し出して、残りの11本を自分で抱えた。


「ありがとう、でも、こんなの迷惑かな?ビールまで出してもらって。厚かましいかな、うんざりしてる?遅い時間にごめんね。ずっと一人で暮らしているのに、サンタクロースなんて生活の中に入る余地なんてないでしょ。迷惑かな」


気にしいな割に、大胆なサンタクロースだよ。

まるで自分をみているみたいだな。ビールぐらいでこんなに気を使われるとこっちが気を使うよ。


「いいんすよ、ビールなんて一人で飲んで美味しい飲み物ではないですから」


私はゆっくり自分のビールのプルリングを外した。

缶の注ぎ口からシュワシュワと炭酸がはぜる音がした。


”ビールなんて久しぶり”


ビールは私の悪いところナンバーワンに数えられる悪癖だ。しかしもういいや

私はごくりと唾を飲み込んだ。

「かんぱーい」

赤い顔をしたサンタクロースは、明るい声で叫んだ。

続く





















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