序ノ廻ノ起 了ノ編
レク君が離れてバッグから何かを探している。ヨハンソンさんがそんな彼を見て、微笑みながら口を開いた。
「こう見えてね、彼は天才なんだよ。だいぶ変人だし偏食味音痴だけど」
「へぇ~……」
僕はそう言うと、レク君がバッグから何かの新聞を取り出した。
「今日面白いモノをお持ちしましたよ、ヨハンソンさん」
「へえ、何々?」
ヨハンソンさんが、新聞を広げるレク君についていき、レク君はデスクの上の資料を乱暴にどかして、ばらばらと資料たちが床に散乱していく。空いたスペースに新聞を広げると、レク君は楽し気に何かの記事を指さした。
「これこれ。この記事。今日の新聞なんですが、東洋に伝わる「気功の達人」だそうです。なんでも、「通行人100人倒し」っていう企画で、全員倒したと記事になってんですよぉ」
「ほぉ、実際に見てみたいねぇ」
「今度ビデオも出るみたいです。まあだいぶ……月のお給料の4分の3くらいの値段なので、給料前借よろしゅうおなしゃーっす」
「それはガッちゃんに言ってね」
レク君とヨハンソンさんが二人で和気あいあいとしている。僕もそれを覗いてみるけど、記事を見る限り、なんとも胡散臭い感じがしていた。そもそも、気で人が転ぶのだろうか? 実際に目にしないと、信じれない。
「そんなインチキで眉唾ものの記事を眺めて一日が終わるんですか、ここは……」
僕がそう呆れながらつぶやくと、レク君が僕の方へ振り返る。
「……確かに、この記事は眉唾もの臭いですし、実際近代の科学技術発展と、産業革命による文明開化によりある程度の事柄は説明がつくようになりましたね。ですが……」
レク君が新聞を閉じた。
「人間の脳は通常、たった1割しか使われていないそうです。そして、残り9割がなぜ存在し、どんな可能性を秘めているか。それはまだ解明されていないようです。そして……これから未来、それが解明されるかどうかもまだ、未知なんです」
レク君が僕の方へ歩み寄ってくる。
「例えば、目を見るだけで他人を操ったり、物を浮かせたり、音を消したり、異常な記憶力だったり。……死者を呼び出したり、とかね。東洋にはその昔、10人の声を聞き分ける人や未来が見えた人がいたという話もあります。そのほか、ギザのピラミッドは超能力者によって作られたと言われていますし、ジャンヌ・ダルクは神の声を聞いたと伝えられ、アジアの方にはシャーマンという、摩訶不思議な力で人々を導いた人が存在し、同様にフランスを始めとするヨーロッパでも有名な魔女や魔法使いなんかも、シャーマニズムに通じる面がある事も見受けられているようです」
レク君が僕の目の前で止まり、僕の顔を凝視した。
「常識では計り知れない、特殊能力を持った人間が、この世界に確実にいると、ぼくはそう思います」
それって……
「超能力者とか、霊能力者……ってやつですか? 馬鹿馬鹿しい。そんなのはあるはずないよ。そういうのって、どうせただの妄想とか、不安から来る幻覚とか、思い込みなんだよ。科学が発展し始めて、不可思議な事が証明され始めてるこの時代に、そんな事言ってるなんて……頭のおかしな子ですね!」
「よく言われますね」
僕は脳に浮かんでいた言葉を口にする。かなりきつく言ったけど、レク君の表情は変わらない。そこがとても不気味にも感じた。
超能力や霊能力は嘘っぱち。パパがそう言ってた。僕もそう思ってる。それに……そんなもので誰かからお金を巻き上げたり、命を脅かしたりっていうのもよく聞く話。そんなのを信じろなんて馬鹿馬鹿しい! 存在しないものに怯えるなんて、どうかしてるよ。
レク君は「そうですね」と一言。僕から一歩後退った。
「でも、ぼくは会った事ありますよ。
レク君の瞳に、僕の顔が映り込む。
「あなたも、そうですよね?」
そう尋ねてくるので、僕は一瞬答えることができなかったけど。なんだか癪に障った。だから、苛立ちが隠せない。
「……知ったような口をきかないでよ。君に何が分かるの」
「ご機嫌斜めですか?」
そんな僕達の空気を察したヨハンソンさんは、僕達の間に割って入ってくる。
「ままま、平和平和。
ヨハンソンさんが笑いながら親指を立てると、昇降機の昇ってくる音がまた響いてきた。僕達の視線がそれに集中する。
「入りまーす」
「なっ、シオンちゃん!?」
ヨハンソンさんが、女の人の声と昇降機から現れた人影を見て、指を引っ張り始める。そして、女の人に慌てて近づいて行った。女の人は顔が幼く見え、長い髪、頭のてっぺんに3色のバラの髪飾りをつけた、とてもかわいらしい見た目の人。ヨハンソンさんの知り合いなのかな?
「な、何しに来たの!?」
ヨハンソンさんの問いに、女の人がリモコンをガンッと落とす。
「
彼女がそうにこやかに笑い、
「それでは、張り切ってどうぞ!」
と、後ろにいたお客様を指し示した。その後ろには、新聞で何度か見たことある人の顔だった。
「な、なんだ、仕事か」
ヨハンソンさんが胸を撫でおろす。
「久方ぶりのお客様だ」
レク君がそう言いながら、お客様に近づいて、頭を深々と下げた。
「いらっしゃいやせ」
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