僕が死んだことになったら、知らぬ間に彼女たちは曇っていた

第32話

　彼女の家に行き始めてから早くて二週間も経っていた。彼女とも仲良くなっていき、彼女の一人称も私ではなく、『美嘉』になり始めた頃。

「勉強、しましょうか」

「嫌ですー！！したくありません。どうして悟さんといるのに勉強なんてしなくちゃいけないんですか？美嘉はもっと、悟さんのこと知りたいです」

　彼女は抗議の目を此方に送ってくるが、ここで甘やかしてしまっても良くないだろうとそう思い、とりあえず勉強道具を広げる。

　そもそも何故こんなことになったのかといえば、最近学校で行われた定期テストの結果が彼女はすこぶる悪かったのだ。

　あの学校に通えているのだから頭は悪くないはずなのだから、勉強をすれば上位とまではいかないものの平均くらいの順位は取れるはず。

　僕が死んでしまった後でも、学力さえあればある程度の仕事にはつけるだろうとそう思って僕は彼女に勉強を教えることにした。何もせずそのまま落ちぶれていくのは僕としても胸糞悪いから。

　かといって、僕も毎回ギリギリ10位に入れているくらいだから全部がわかるわけではないけれど。

「じゃあ、悟さん」

「なに？」

「美嘉がもし頑張って良い順位を取ったら何かご褒美とかくれたりしますか？」

「良いよ。何が良い？」

「どうしようかなぁー。じゃあ、もし美嘉が再来週にある模試で五十位以内には入れたら悟さんは美嘉にチューしてください。それと、美嘉が好きなものを作ってくれませんか？」

　別にそれくらいならば問題はないか、そう思って返答したのだけれどお願いをした彼女の方が呆けた顔をして此方をじっと見ていた。

「どうしたの？」

「え、い、いや。まさか頷いてくれるなんて思ってなかったのでびっくりしちゃって」

「いや、断る理由ないしそれで頑張ってくれるなら別にいいかなって」

「........悟さんって、なんでも受け入れちゃいますよね。いつか絶対刺されちゃいますよ？美嘉みたいな女に」

「それも嫌だけれど、美嘉がこの先勉強が出来なくて苦労する方が嫌だから勉強しよっか」

「........そういうところですよ、悟さん。そんなこと言われたらするしかないじゃないですか。ずるいですよ」

　そう言って頬を栗鼠のように膨らませる彼女は年相応な女子高校生のようである。彼女たち以外と関わりがない僕が何を言っているんだという感じだが。

「仕方ないですね。勉強するとしますか。でも、ちゃんと見ててくださいね？悟さんが見てないとほかのことしちゃうかもしれないから」

「うん、ちゃんと見てるね」

「.........お願いします」

　彼女は渋々ペンを持って勉強をし始めたので、約束通り彼女の勉強を手伝いつつ僕も自分の勉強を進めた。

　そして、その次の日も、また次の日も勉強を重ね二週間後の模試の日になった。