第31話

 美嘉に衝撃の告白をされてから、一週間が経とうとしていた。彼女は、家に父親が帰らない日を僕に伝えて、その日に彼女の家に泊まるということが一週間のうちに四回ほどあった。


 何となくだが、彼女が寂しそうな眼をしていたのはこういう家庭環境だったからなのではないかと思う。彼女が寝ていた時に「おかあさん」とポツリと寝言を話していたのが聞こえたから。


 おそらくだが、彼女のお母さんはもういないのだろう。何かがあって死んでしまった可能性が高い。父親は家にいないことが多く、母親はいないとなれば彼女は誰にも構ってもらえず、十分な愛情を与えてもらえなかったために寂しくて援助交際をしていたのではないだろうか?


 彼女の行動やたまに出る寂しそうな言動はそこから来ているような気がする。推測に過ぎないから事実はどうかわからないけれど


「悟さんって、やっぱ料理するのが得意ですよね。すっごく美味しいです。家でお母さんのお手伝いとかしているんですか?」


 彼女は僕が作ったカレーをもぐもぐと頬張って、そんなことを聞いてきた。


「僕の両親は死んじゃったんだ、昔にね」

「あっ.............そう、なんですね。ごめんなさい、言わせてしまって。無神経でしたよね」

「いいよ、大丈夫。もう昔のことだから吹っ切れたし」


 吹っ切れたなんて言ったはいいものの、全くと言っていいほど吹っ切れていない。吹っ切れていたら彼女たちを助けるなんてことしないだろう。


 彼女と気まずい雰囲気の中、夕食を食べ終え話しかけようにも掛けられない雰囲気のままシャワーを浴びて、歯を磨き、寝る時間となてしまった。


 彼女はいつも自室で寝ることはなくリビングで寝る。本人に聞いたところ悟さんが一人で寝るのは可哀そうだからという理由だが、きっと本人が心の中で寂しいと思っているからだろうと推測できた。


「じゃあ、先輩。電気消しますね?」

「うん。いいよ」


 どこか気まずい雰囲気のままお互いが布団の中へと入る。時計の音がやけに大きく聞こえた。ぼぉっと窓から差し込む月明かりによってうっすらと見える天井を眺めながら、考え事をしているともぞもぞと彼女が寝ていた方から音が聞こえた。


「あっ、起きてたんですね。悟さん」

「うん」

「..........あの、一緒に寝てもいいですか?」


 うっすらと見える彼女の顔はどこか不安げに見えた。ここで断ったら彼女との関係はこれ以上は進まなくなるだろうとそう思って頷いた。


「お邪魔します」

「狭いところだけれど」

「いえ、狭いところの方がいいです。今だけは」


 彼女はもぞもぞと僕の布団へと潜り込みピタッと僕の手に自分の手を重ねてきた。


「悟さん」

「なに?」

「.............何でもないです。寝ましょうか」


 何でもないといった割にそっと腕を背中へと回して抱きしめてきた。僕も彼女の背中へと腕を回して彼女のことを抱きしめ返す。


 そのままお互い抱きしめあったまま眠りに落ちた。


 

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