第35話 ギルドについて

 冒険者ギルドに入った俺たちは、周囲から向けられる品定めでもするような不快な視線に晒されながらギルドの中を歩いていく。


 今はお昼時のため冒険者たちは外に依頼を受けに行っているのか受付はどこも空いており、俺たちは適当な場所を選んで受付の女性に話しかけた。


「すみません」


「はい。冒険者ギルド、ナシュタリカ支部へようこそ。ご依頼ですか?ご登録ですか?」


「登録でお願いします」


「かしこまりました。ですが、念の為年齢をお伺いしても?」


「俺が12でこっちが13です」


 冒険者登録が出来る最低年齢は12歳とされているため、子供だけできた俺たちを見た受付嬢は、念の為と言って年齢を尋ねてきた。


「かしこまりました。年齢の方は規定に違反しておりませんので問題ありません。ただ、あとで確認のため特殊な魔道具に触れていただき、再度確認を行わせていただきますので、よろしくお願いします」


「わかりました」


「では、まずはこちらの用紙にお名前と年齢、それと職業を嘘偽りなく記載してください。仮に嘘の記載があった場合には、冒険者登録はできませんのでお気をつけください。代筆は必要ですか?」


「大丈夫です」


 俺とミリアは受付嬢からペンを借りると、それぞれ名前と年齢、そして職業を記載し、紙を女性へと渡す。


「ありがとうございます。ふむ……問題ありませんね。では、次は確認のためこちらの魔道具に触れてください」


 女性はそう言うと、机の上に水晶のような丸い形をした魔道具を置き、その魔道具について説明を始める。


「この魔道具は特殊な魔法が付与された魔道具になります。触れて魔力を流すことでその人の名前、年齢、職業、レベルの4つが表示され、その表示された年齢、職業、レベルの3つで評価を行い、その人の初期の冒険者ランクを決めさせていただきます。


 冒険者ランクは基本的にFランクからSSSランクまでとなりますが、その上には特別な条件を満たした人にのみ与えられる大天、主天、熾天という特別なランクが存在しております。


 最初のランクは評価によってF、E、Dのいずれかでスタートとなります。ランクが上がるごとに受けられる依頼と入れるダンジョンが変わっていき、その分収入も増えますが、逆に危険度も増すということになりますね」


 この世界にはダンジョンと呼ばれるものがいくつも存在しており、ランクは魔物と同じでFランクから星界級まで存在が確認されている。


 ただ、実際に攻略が進んでいるのは冥界級ダンジョンまでで、それ以降のダンジョンは未攻略のダンジョンとなっている。


 ダンジョンは外で魔物を狩るのとは違い、魔物を倒すことで魔石と呼ばれる魔力が込められた石と武器や鎧、魔導書などのドロップアイテムを落とす場合がある。


 魔石は通常の魔物からも入手することはできるが、込められている魔力の純度や量、そして質といった面ではダンジョンで取れる魔石の方が良いため、価値で言えばダンジョンで取れる魔石の方が高い。


 また、武器や鎧にも魔力が秘められているものがあり、所謂魔武や魔装と呼ばれるそれらは、属性魔法や特殊な効果が付与されている場合がある。


 冒険者たちは一攫千金と特殊武器を手に入れるため日夜ダンジョン攻略に勤しんでおり、ギルドに掲示されている依頼はあまり受ける者がいないというのが現状だ。


「ふむふむ……イグニスさんとルシルさんですね。名前と年齢の方に問題はありません。お二人の職業はイグニスさんが魔法剣士、ルシルさんが暗殺者ですね。レベルは……32と35ですか?お二人とも年齢の割に高いですね」


 女性は俺たちのレベルを見て驚いた表情を見せるが、その反応は当然のものであり、レベル30といえばDランク冒険者として認められるレベルだ。


 にも関わらず、職業を授かったばかりの俺とエレナがすでにレベル30を超えているとなれば、彼女が驚くのも当然の結果と言えた。


「失礼ですが、お二人のこれまでについてお伺いしても?」


「構いませんよ」


 俺たちのレベルが年齢の割に高いことを訝しんだ女性は、最初よりも少しだけ低くなった声でそう尋ねてくる。


「実は俺たち、この街の出身では無く、ヒルンシアという村の出身なんです」


「ヒルンシアというと、『常闇の丘』に最も違い村ですね。確かあの辺りには強い魔物が多く生息していたはず……」


「その通りです。そこで職業を授かったあと、村にいた冒険者に戦い方を教わりながらレベル上げをしました」


「なるほど。あそこの村出身であれば、そのレベルにも納得できます。その年齢でレベルが高いのは、強い魔物と戦った結果ということですね?」


「はい」


 女性は俺の説明を聞いて納得してくれたようだが、もちろん全て嘘である。


 常闇の丘とは、ファルメノ公爵領から北に行ったところにある特別な丘で、そこは太陽の光が一切届かず、常に夜が空を覆う暗く静かな場所であった。


 また、特徴としては強力な魔物が丘の周辺を跋扈しており、丘の中心に近づくに連れ、魔物の強さは増して行く。


 そして、縄張り争いに負けた魔物は次の縄張りを求めて丘から降りてくる訳だが、その魔物と戦って生活しているのがヒルンシアの村人たちなのである。


 そのため、ヒルンシアの村人たちは他の村の住民たちよりもレベルが高く、戦闘種族なんて呼ばれ方もしている。


 ちなみにだが、俺の敬愛する師匠もヒルンシアの近くに住んでいる。


 というより、常闇の丘の中心にいるのが俺の師匠であり、あの丘の頂点に君臨しているのが『宵闇の魔女』その人であった。


(さすがだよなぁ、師匠。普段はだらしないところがあるけど、彼女のあの圧倒的な強さには本当に憧れる)


「お待たせしました。こちらがお二人のギルドカードになります」


「ありがとうございます」


 俺が師匠のことに思いを馳せていると、その間に手続きを終わらせた女性がテーブルの上にEと書かれた二枚のカードを置く。


「お二人のランクについてですが、今回はEランクからのスタートとして登録させていただきました。レベルを見る限りではDランクも視野に入れておりましたが、年齢とどれほどの経験があるのかが未知数だったため、Eランクとさせていただきました」


「わかりました」


「では次に、ランクを上げる条件についてご説明いたします。FランクからのAランクについては、同ランクの依頼を10回達成、その後ワンランク上の依頼を3回達成でランクアップとなります。


 Sランク以降は倒した魔物の数や攻略したダンジョンの数、そして倒した魔物のランクなどの記録を参考とし、ギルド側でランクアップを検討させていただきます。その後は一度面接を行い、人間性にも問題がないと判断された場合に限り、ランクアップとなります」


 Sランク以降の昇格については、そもそもSランク以上の魔物の数が少ないため、倒した魔物の数やそのランク、そしてダンジョンの攻略数によって判断され、力がある分、人間性という点も重要視されてくる。


「ダンジョンの入場については、4人以上のパーティであればワンランク上のダンジョンに入れますが、3人以下の場合には同ランクまでしか入れませんのでご注意ください。また、冒険者ギルドに登録したことで、いくつかの武器屋や薬屋、宿屋などのお店を安く利用できる場合があります。利用できるお店には、冒険者ギルドのマークが書かれた看板があるので、ぜひ利用してみてください。ここまでで何か質問はありますか?」


「では、大天ランク以上になるにはどうすれば?」


「大天ランク以上については、国を救った者、SSSランクダンジョンを攻略した者、同ランクの魔物を討伐した者、あとは英雄武器に選ばれた者が対象となります。


 その後は現在そのランクにいる人との一騎打ちで実力を示す必要があり、そこで実力を認められる事で、大天ランクにランクアップします。


 そして、主天以上を目指す場合にはそのランクの者に勝負を挑み勝利する必要があります。主天以上には人数に制限があり、主天が8人、熾天が4人と定められているからです。


 ちなみに、聖武器に選ばれた人はこの枠には含まれません。聖武器の所有者はその武器に選ばれる事自体が特別な事であり、勇者や大賢者といった称号自体がその人たちの地位となるからです」


「なるほど。つまり、主天や熾天になりたければ、決闘に勝てということですね?」


「その通りです」


 ゲームの時はギルドの階級について詳しく知る前に、勇者という最高位の称号を得て旅をしていたため、ここら辺の細かな情報についての記憶が無く、今回ここで確認できたのは大きな収穫だった。


「他に質問はありますか?」


「今のところは大丈夫です」


「わかりました。では、今後活動して行く中でわからないことがあれば、気軽に質問してください」


「ありがとうございます」


「ありがとうございました」


 俺とエレナは担当してくれた女性にお礼を言ってギルドカードを受け取ると、今日のところは帰ろうと思い出口に向かおうとする。


 すると……


「よぉ、坊主。ちょっといいか?」


 先ほどまで併設されている酒場で酒を飲んでいたのか、顔を赤らめながらふらついた足取りで近づいてくる3人の男たちは、そう言って俺たちの道を塞ぐのであった。






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