師弟の再会編

第34話 帰ってきました

「ふぅ。ようやく戻ってきたな」


「はい」


 ポルトールの町を出てから一週間と少し。


 以前は数週間掛かった道のりを半分以下の日数で駆け抜けファルメノ公爵領へと戻ってきた俺たちは、検問を終えて街の中を歩いていた。


「それにしても、本当にバレませんでしたね」


「あぁ。逆にあそこまで検問が緩いと、寧ろ心配になるよなぁ」


「それもありますが、やはり見た目が違うのも大きいでしょうね。誰もを逃げたノア様だとは思わないでしょうから」


「そうだな。けど、。今はその名を出すなよ。気づかれたら意味がなくなる」


「これは失礼致しました」


 今から少し前、ファルメノ公爵領の首都ナシュタリカに到着した俺たちだったが、街に入るには検問を受ける必要があった。


 しかし、死んだとされている俺がそのままの姿で検問を通り街に入ることなど出来るはずもなく、そのまま何もせず元気に入っていけば即捕まること間違い無しだった。


 なので、今回は街に入る前に闇魔法の一つである変装魔法で姿を変えると、堂々と検問を通って街へと入ったのである。


 そのため、俺の容姿は本来の金髪碧眼から茶髪に緑色の瞳へと変わっており、エレナは黒髪と紫色の瞳から濃紺の髪に青い瞳へと変わり、名前もお互いに偽名で呼ぶようにしていた。


「まぁ、検問が緩いおかげで入れたのは感謝だし、これ以上この話はやめよう」


「かしこまりました。では、この後はどうされますか?」


「そうだなぁ」


 俺はそう言って街をしばし眺めながら考えると、まずは足りないものから揃えていくことに決めた。


「ルシル。俺たちに今一番足りない物はなんだと思う?」


「一番足りない物ですか?何でしょう……」


「金だ」


「あ……」


 そう。俺たちに今最も足りない物は生活していくための金であり、食べ物を買うにしても宿に泊まるにしても金が足りない。


 双子の森で手に入れた魔物の素材をポルトールの町にある商業ギルドで換金はしていたものの、そこまで貯えがある訳でもなく、基本的に物価が高いこのナシュタリカの街で暮らしていくには、圧倒的に金が足りないのである。


「ということで、まずは金策のために冒険者ギルドに行くぞ」


「冒険者ギルドですか?」


「あぁ。冒険者登録をすれば、依頼を受けて金が稼げる。そうすれば生活にも困らなくなるだろう?」


「なるほど」


「それに、冒険者はいろんなところを旅する連中も多いからな。商人ほどではないが、多くの情報を得られるはずだ」


「そこまで考えていたとは。さすがですね、イグニスさん」


 エレナはそう言うと、まるで尊敬でもしていると言いたげな様子で、瞳を輝かせながらこちらを見てくる。


「んじゃ、さっそく行くとするか」


「はい!」


 そうして俺たちは、まずは生活に必要となる金を稼ぐため、ゲームの記憶を頼りに街の中を歩いていき、冒険者ギルドへと向かうのであった。





 しばらく街の中を進んでいくと、3階建ての大きな建物が見えてきて、その建物には剣と剣をぶつけ合うような看板が下げられていた。


「ここが冒険者ギルドだな」


「ここが……大きいですね」


 建物自体は木造の綺麗な作りをしており、首都にあるギルドの支部だからか非常に大きくて立派な建物だった。


「入る前に二つの注意点がある」


「なんでしょうか?」


「まず、ギルドでは最初に登録をする時、レベルと職業を確認するために特別な魔道具が使用される。その時に名前も出るようになっているんだが……」


「え?!それじゃあ、私たちの名前がバレてしまうんじゃ!!」


「普通ならそうだ。けど、そこは俺の力で偽装するから心配するな。それと、レベルも偽装するから、本来とは違かったとしても驚くなよ」


「さ、さすがですね。わかりました」


 ギルドで冒険者登録をする際、犯罪者や指名手配犯が登録をしにこないよう、特殊な魔道具を使って本名と職業がギルド側で確認できるようになっている。


 しかもその魔道具は非常に強力で、例え魔法や魔道具で姿や名前を偽装しようとも、強制的に解除されてしまうのだ。


 だが、俺にはこの世界の管理者であり、サポート役でもあるレシアがついているため、そんな強力な魔道具の効果も誤魔化すことができる。


「そして二つ目。おそらくだが、中に入って登録が終わると、先輩風を吹かせたい冒険者が絡んでくるはずだ」


「あー、ありますよね、そういうの。私も初めてメイドとしてお屋敷に入った時は、他のメイドから色々言われました。特にノア様の担当になったからか、いじめも酷くて」


「それ、俺は悪くないからな。とりあえず、そんな感じで俺たちの年齢や見た目で判断して絡んでくる奴がいるはずだから……」


「はい。波風立てないよう頑張って対応しますね」


「違う。遠慮なくぶちのめすぞ」


「……え?」


 予想外の言葉に驚いたのか、エレナは口を開けたまま呆然とし、俺を見る瞳には困惑といった感情が込められていた。


「あの、そんなことして問題になりませんか?」


「最初にこっちから手を出せば問題になるが、向こうから手を出してきたなら問題ない。正当防衛として処理されるからな。さらに言えば、そいつらから金や装備を奪っても何も言われない。慰謝料として扱われるからだ」


「そうなんですね」


「あぁ。だから、絡んできた奴らは寧ろ積極的に受け入れ、相手に手を出させた上でぶちのめす。んで、お金と装備を貰って金を稼ぐ。つまり、絡んでくる奴らは俺たちにとっての財布ってわけだ」


「その言い方はどうかと思いますが、理解しました」


「おーけー。なら入るぞ」


 俺はそう言って目の前にある扉を開けると、エレナと二人で冒険者ギルドへと足を踏み入れるのであった。


(さぁ、俺の財布さん。絡んできてくれよ)







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