第29話 模倣

「よぉ、ゲイシル。楽しんでるか?」


「あぁん?あぁ〜、お前かぁ。死ななかったんだなぁ」


 俺が吹き飛ばされた建物から戻ってくると、エレナとゲイシルの戦闘はゲイシルの勝利に終わっており、エレナは彼の足元にうつ伏せになって転がっていた。


「お陰様でな。それで?俺が戻ってくるまでの間、楽しめたのかよ」


「あんまりだなぁ。お前の飼い犬、逃げてばっかりで全然殺せないんだよなぁ。こいつ、逃げるのだけは一人前だったよぉ」


 ゲイシルはそう言うと、エレナを踏みつけていた足に力を入れ、彼女が苦しさから呻き声を漏らす。


「はは。いい犬だろう?俺のお気に入りなんだ」


「そうかぁ。なら、そのお気に入りをまずは殺してやるかなぁ。お前はその後に殺してやるからよぉ」


「残念だが、死ぬのはお前一人だよ。『サンダースピア』」


 俺は体内にある魔力を練り上げて雷魔法を使用すると、雷の槍を5本作り出し、それをゲイシルに向けて放つ。


「おっと〜」


 雷魔法は魔法の中でも攻撃速度が速い方だが、ゲイシルはそれを難なく避けると、エレナから少し離れた位置に着地した。


 俺はその間にエレナのもとへ向かうと、彼女を回収してから離れた所にエレナを連れて行く。


「ノア……様」


「無事か?」


「は、い……毒による…攻撃も…受けて……おりません」


「そうか。念の為俺の方でも状態を確認してみるよ」


 見た所、毒による肉の腐りや変色は無いようだが、念の為ギフトの神眼で鑑定をしてみると、彼女の言う通り毒による状態異常は無かった。


 俺がエレナの状態を見ている間も、ゲイシルはこの状況すら楽しむかのようにこちらの様子を見ており、明らかに隙だらけの俺たちを攻撃してくる様子はなかった。


「俺の方でも見てみたが、特に問題は無かった。回復薬は飲めそうか?無理なら飲ませてやるが」


「では、飲ませて…もらえますか。腕が、上がりそうになくて…」


「りょーかい」


 俺は持っていた回復薬の蓋を開けると、それをエレナの口元へと持っていき、それをゆっくりと彼女の口の中へと流し込んでいく。


「ありがとう…ございます」


「気にするな。それより、よく頑張ったな」


 あのゲイシルを相手に、エレナは俺が戻ってくるまで時間を稼ぎ、さらに毒による攻撃も受けずに生き残ってみせた。


 ゲイシルは先ほど相手をした二人の暗殺者よりも明らかに格上の相手であり、普通であればエレナが生き残るなど無理な話ではあるが、それでもこうして生き残ったことは、素直に賞賛に値する。


「え…へへ。撫でて…くれたら、もっと…嬉しいんですけどね……」


「そうだな。それはあいつを殺して生き残ってからやってやるよ。だからまずは、それまで休んでな」


「わかり、ました」


 エレナは細かな傷がある顔で笑いながらそう言うと、回復薬を飲んで安心したのか、眠るように意識を手放した。


「終わったかなぁ?」


 俺がエレナを壁に寄り掛からせたところで、こちらの様子をずっと見ていたゲイシルが気怠そうな声で声を掛けてくる。


「待たせたな」


「いいよぉ、俺は優しい男だからなぁ。いつまでも待てるんだよなぁ。でもよぉ、待たされた分、虐める時間も長くなるんだけどなぁ。あはは」


「それなら気にするな。俺がお前をすぐに殺すから、虐める時間も嬲る時間も無いからよ」


「あは…あははは!お前が俺を殺すぅ?さっきも無様にやられたばっかりなのになぁ?そう言えば、武器はどうしたんだぁ?あれが無いと戦えないよなぁ。なんせ、お前は魔法剣士なんだからよぉ」


 ゲイシルは俺が刀を持っていないのを見ると、魔法剣士という言葉を強調して馬鹿にするように笑う。


「ふはは。そうだな。普通の魔法剣士なら、確かに剣がないとダメだろう。けど、俺は普通の魔法剣士じゃないんだよ」


 俺は腕に雷魔法を纏わせて拳を構えると、腰を落としてゲイシルを見据える。


「あぁん?俺と格闘術でやり合う気かぁ?」


「そうだ。剣だとお前にはまだ勝てそうにないからな。こっちで相手をしてやるよ」


「生意気だなぁ、魔法剣士如きがよぉ。この俺に格闘術で勝てるわけねぇだろぉ」


「なら、初手は譲ってくれるよな?そんなに自信があるならさ」


「チッ。クソ生意気なガキだなぁ。いいぜぇ?ただ、今回は反撃されても文句は言うなよぉ?俺を最初に馬鹿にしたのはお前なんだからなぁ」


「もちろん文句なんて言わせないさ。まぁ、反撃する余裕があればだけどな」


「あはは。そうかぁ、ならさっさと来いよぉ」


 ゲイシルは前と同じように腕を下ろして無気力な状態で構えると、俺が攻撃を仕掛けるのをじっと待つ。


「ふぅ……」


 俺は短く息を吐くと、身体強化を使って体全体を強化し、思い切り地面を蹴る。


「シッ!!」


「お??」


 体を狙った初撃は避けられてしまうが、そんなことは気にせずさらに連続で蹴りや殴打を放ちゲイシルに反撃する隙を与えない。


(違う、もっと脇を締める…修正完了。違う、もっと踏み込む足の力を抜け…修正完了)


 俺は先ほどまでエレナと戦っていた時のゲイシルの動きを思い出しながら、関節の動かし方や体の使い方、そして体への力の入れ方の全てを模倣し、記憶のゲイシルと同じ動きをしていく。


「なんだぁ?まるで俺を相手にしてるみたいだなぁ」


 止まらない連撃を避けるためゲイシルは距離を取ると、少し離れたところに降り立ち、何かを考えるように顎へと手を添える。


「どうだ?楽しめそうだろう」


「あはは。そうだなぁ。どうやっているのかはわからないが、さっきよりは楽しめそうだなぁ」


「安心しろよ。もっと楽しませてやるからさ」


 俺はそう言ってもう一度拳を構えると、それを見たゲイシルは腕に紫色の魔力を纏わせ、先ほどまでのふざけた雰囲気がなくなり暗殺者らしい雰囲気へと変わった。


「お前を俺の毒でドロドロに溶かして殺してやるよぉ」


「ふはは。俺がお前の全てを模倣して殺してやる」


 お互いに殺気を放った俺たちは、互いに睨み合うと、最後の殺し合いを始めるのであった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇


明けましておめでとうございます!

遅くなりましたが、新年初投稿となります。


本年も今作をどうぞよろしくお願いします!

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