第22話 暗殺

 公爵家からの追手に気がついてから一週間と少しが経った。


 俺たちはその間、町で買い物をしたり宿屋でごろごろしたりと、これまでとは違うまったりとした日々を過ごしていた。


 ポルトールの町に来てからはほぼ毎日のように双子の森に入っていたため、こうして長く休むのは少し落ち着かない感じもするが、今は暗殺者たちを誤解させることが重要であるため仕方がない。


 しかし、この数日間何もしていなかった訳でもなく、有り余る時間を使って魔法の練習を続け、ようやく光魔法と闇魔法を習得することができた。


「ノア様。いかがですか?」


「あぁ。無事に魔法を習得することができた」


 光魔法と闇魔法は他の魔法と比べて概念が抽象的なためイメージしづらかったが、ゲーム時の魔法を想像したり太陽や夜をイメージすることでなんとか習得することができた。


「おめでとうございます」


「ありがとう」


 エレナはまるで自分のことのように喜ぶと、紅茶を俺に手渡してから隣のベッドへと腰を下ろした。


「では、この後はどうされますか?」


「そうだな」


 俺はそう言って気配感知の範囲を町全体に広げると、改めて暗殺者たちの位置と人数を確認する。


(数は五人で変わらないか。二つの入り口に一人ずつ、町の一番高い場所に一人、あとは宿屋を見張る二人か)


 数は以前と変わらず五人だが、どうやら俺たちを逃さないように配置を変えたらしく、現在は人数を分けて俺たちを監視しているようだった。


(そして、高いところにいる奴が一番レベルが高そうだ。こいつがおそらくリーダーだな)


 町全体を見渡せる場所にいる奴だけが一際強い気配を放っており、おそらくだがこいつが今回の暗殺者たちのリーダーだと思わられる。


「今確認してみたが、奴らは人数を分けて俺たちを監視しているようだ。町の入り口も二つとも押さえられている」


「人数を分けたという事は、うまく誤魔化せているという事でしょうか」


「おそらくな。本当に俺たちを警戒しているのなら、もっと人数を増やすか二人一組で行動させたはずだ。けど、実際は人数を分けてバラバラに監視している」


 エレナの言う通り、俺たちの実力を警戒していれば人数を分けるなんて事はせず、二人一組で監視させるのが理想的だ。


 それは、万が一俺たちが暗殺者たちに気づいて攻撃した時、一人がやられてももう一人がそれを仲間に知らせる必要があるからである。


 しかし、奴らは実際は人数を分けて俺たちを監視しており、これは例え俺たちが攻撃をしたとしても問題なく対処できると判断したからだと思われる。


「では、どうされますか」


「もう少し様子をみよう。夜の奴らの動きも知っておきたい」


「かしこまりました」


 暗殺者たちをどうするか話し合った俺たちは、それから三日ほど暗殺者たちの動きを気配感知で探り続け、対策を立てていくのであった。





 エレナと話し合いを行った日から四日目の夜。俺は現在、一人で町の南側にある入り口付近へと来ていた。


(やはりこの時間も暗殺者は一人か。これなら問題なく殺れそうだ)


 三日間俺たちを監視している暗殺者たちの動きを観察した結果、奴らは基本的に任されている場所から動く事はなく、定時に俺たちを監視しているうちの一人が他の奴らのもとへと赴き、報告を聞いてからリーダーに最終報告を行なっているようだった。


 そして、現在はその定時報告が終わって少し経った頃で、次の報告までは三時間ほどの時間がある。


 宿屋の方は闇魔法で作った分身体を置いてきているため、そちらの監視は特に問題ないし、何かあれば合図を送るようにエレナにも話しているため、今は目の前の暗殺者に集中できる。


「殺すなら一瞬でだな。『影移動』」


 影移動のスキルを使った俺はスッと自身の影に沈み込むと、真っ暗な影の世界へと入り、次の瞬間には暗殺者の男の背後へと立っていた。


「はぁ。早く任務を終わらせて帰りたい」


「残念だが、それはできそうにないな」


「な?!くふっ…」


 俺は正面にいる男の口を背後から手で塞ぐと、短剣を首元に当てて切り裂く。


 男は僅かに声を漏らすと、首から血を吹き出しながら力無く崩れて地面へと倒れた。


(死体はどうするかな)


『ノア。死体を悪喰のスキルを使用して取り込んでください』


「取り込む?」


『これまでノアは、悪喰のスキルを魔物を直接食べることで使用してきました。しかし、本来の使い方は違います。暴食の影鯨を思い出してください。影鯨は自身の影に触れたものを全て消し去り、自身の糧にしていました』


「つまり、本来は直接食べてスキルを手に入れるものではなく、影を使って取り込むだけでいいってことか?」


『是。ですが、ノアの場合は魔族になるために魔物を食す必要があったため、これまで説明しておりませんでした』


「なるほど。だが、影を使って取り込むのなら、影を操作するスキルが必要なんじゃないか?」


『影移動のスキルと悪喰のスキルを複合すれば問題ありません。あとは私の方で調整を行います』


「わかった」


 俺はレシアに言われた通り二つのスキルを複合して使うと、俺の足元にあった影が死体へと伸びていき、地面に倒れていた死体を吸収する。


『死体の吸収を確認しました。悪喰のスキルの効果により、スキルを獲得しました。スキル〈影操作〉〈麻痺耐性〉を獲得しました』


『スキル〈影操作〉の獲得を確認しました。スキルの合成を行います。スキル〈影移動〉とスキル〈影操作〉の合成を行います……成功しました。スキル〈影移動〉が、スキル〈影法師〉へと進化しました』


「影法師?」


 俺は初めて聞いたスキルを調べるため神眼を使うと、影法師のスキルについて詳細が現れる。


※※※※※


〈影法師(レベル1/10)〉

・影魔法の使用が可能。影法師のレベルが上がるごとに影魔法のレベルが上がる。

・自身の影を使用し、悪喰のスキルを使用可能。


※※※※※


 影法師の詳細を見てみると、影魔法が使えるようになったと書かれており、俺は少しだけ驚いた。


 影魔法は月影族と呼ばれる魔族だけが使える固有魔法で、影を自由自在に操り、さらに影で動物などの使い魔まで作り出すことができる魔法だ。


 昼間は影が限られてしまうため効果は薄くなってしまうが、夜は無類の強さを誇り、月影族と戦うのであれば夜は避けなければならないと言われるほどにヤバい魔法である。


 実際、ゲームの俺もプレイヤーたちが興味本位で夜の月影族に攻撃を仕掛け、影の使い魔や影の棘、そして鋭い刃に変えられた影によって何度も殺された。


「これは、良い魔法を手に入れたな」


 現在はまだ夜になったばかり。そして雲ひとつない空には青白く輝く大きな月が浮かんでいる。


 今日はまさに影魔法の効果を最大限に発揮できる環境であり、暗殺者たちを殺すには最高の夜だと言えた。


「さて。次の場所に移動するか」


 俺は気配感知を使って次の獲物がいる場所を確認すると、影魔法を使って静かに自身の影へと沈み込むのであった。






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