第21話 追手

 ブラックスパイダーと戦闘をした日から一ヶ月半が経った今日。俺たちはようやく850体までの魔物を食べることができた。


「やっぱり昼の森に戻して正解だったな。前よりも魔物を食べるペースが上がった」


「そうですね。夜の森は魔物が単体で行動してることが多いですが、昼は群れで行動している魔物の方が多いですから。効率を考えるのであれば、昼の森に潜る方が正解でしたね」


 エレナの言う通り、ブラックスパイダーを倒した日以降も数日は夜の森で活動していたが、出会う魔物は単体で行動している魔物の方が多く、それではあまりにも効率が悪すぎた。


 そこで、俺たちは数週間前から森に入る時間を夜から昼へと変更し、レベルを上げよりもまずは食べる魔物の数を増やすことにした。


 そのおかげで食べた魔物も850体まで増やせたし、さらに20種類の魔物を食べるという魔族になるために必要な条件の一つを達成することができた。


 ただ、やはり昼間の森の魔物はレベルが低いせいか得られる経験値も少なく、レベルも64までしか上げることができなかった。


 その代わり、悪喰のスキルで魔物たちからスキルを獲得することができ、フォレストウルフの〈咆哮〉、ゴブリンシャーマンの〈呪術〉、オーガの〈威圧〉を獲得することができた。


 さらに、頻繁に使用していたからか悪喰のスキルもレベルが上がり、前よりもスキルの性能が上がった。


※※※※※


〈悪喰(レベル2/10)〉

・この世の全てのものを食べることができる。

・食べた魔物のスキルを低確率で獲得することができる。8%


※※※※※


 スキルレベルが上がったことで、食べた魔物からスキルを得られる確率が3%から8%へと上がり、以前よりも魔物のスキルを獲得しやすくなったのだ。


 そして、今日のノルマを終えた俺たちは、日が沈む前にすっかり住み慣れた町へと戻ってくるが、そこでいくつかの見慣れない気配を感じとる。


『ノア』


『お前も気づいたか?』


『どうやらあなたは狙われているようですね』


「そうだな。俺たちに客が来たようだ」


 ポルトールの町に帰ってきてから気配感知を使ってみると、五人ほど感じたことのない気配を放つ者たちがいた。


(隠密スキルを使っているようだが、レシアと俺の気配感知には意味がなかったようだな。どうやら、公爵家からの追ってのようだ)


 隠れている暗殺者の数は五人で、隠れ方や気配の消し方を見るに、前回の暗殺者たちよりも強い奴らのようだ。


『どうしますか?』


『しばらくは放置する。恐らくだが、向こうもまずは俺たちの情報を集めようとするはずだ』


 次の暗殺者が来たということは、前回の暗殺者たちが死んだことはすでに暗部の連中にもバレているということ。


 しかし、双子の森にいた俺たちを襲って来なかったのを見るに、まずは俺たちの情報を集めようとしているので間違いない。


 仲間が誰に殺されたのか、そして俺が仲間を殺した奴とまだ繋がりがあるのかどうか、そこを調べなければ奴らも迂闊には手を出せないはずなので、まずはこちらも様子を見させてもらう。


(ついでに、奴らが油断しやすいように演技でもするか)


 無気力に生きることは得意なので、しばらくは暗殺者たちを油断させるために双子の森に入ることを諦め、町でゆっくりと過ごすことに決めた。





 その日の夜。ベッドに座る俺とエレナは、昼間に感じた暗殺者たちの気配と今後の予定について彼女と話し合う。


「え、暗殺者ですか?」


「あぁ。数は五人。レベルは分からないが、気配の消し方や動き方を見るに、弱いやつで60前後、一番強い奴で70ほどといったところか」


「70……」


 レベル70といえば、人間の中でも上位の強さに分類される訳だが、そんな奴がいると聞かされれば、エレナが青ざめるのも無理はない。


「誰か心当たりは?」


「恐らくですが、三殺卿の一人ではないかと」


「三殺卿か」


 三殺卿。フォルメノ公爵家の暗部には、総括をしているリーダーの下に三殺卿と呼ばれる部下が三人いる。そして、さらにその三殺卿が率いる暗殺部隊が三つ存在するわけだが、そのうちの一人がわざわざ俺を殺しにここまで来てくれたようだ。


「まずいですよノア様。三殺卿が来ているということは、向こうは本気で私たちを殺しに来ています。それに、彼らの強さは異常です。いくらノア様が強くても、さすがにユニークスキルを所持している三殺卿に勝てるとは思えません」


「そうだなぁ」


 今のレベル差だけでいえば、前に俺を殺そうとしてきた暗殺者たちと比べてそこまで開きはないが、レベルが上がるとその分色々なスキルを手に入れることができる。


 その中にはユニークスキルと呼ばれる特殊なスキルもあり、レベル70を超えると、稀にそのユニークスキルを授かる場合があるのだ。


 このユニークスキルが非常に厄介で、既存のスキルよりも高性能な上に、ユニークなだけあって効果も独特なものが多く予想がしづらい。


 だからユニークスキルの所持者は持っていないものよりも圧倒的に優位であり、その強さはまさに他とは一線を画すほどなのだ。


「まぁ問題ないさ」


「いや、さすがにそれは…」


「エレナ」


「は、はい」


 それは無理だと口にしようとしたエレナに対して、俺は僅かに殺気を込めながら睨むと、彼女はすぐに言葉を変えて返事をした。


「無理かどうかはやってみないとわからないだろ?それに、俺が問題ないと言って問題になったことがあったか?」


「いえ。ありませんでした…」


「だろ?だから今回も問題ない。奴らが襲ってきたとしても、勝つのは俺たちだ」


「わかりました」


 確かに相手が三殺卿で、しかもユニーク所持者なら厄介ではあるが、それでも全くやりようが無いわけではない。


 奴らがユニークスキルを持っているように、俺には魔物から獲得したスキルや複合スキルもある。


 この力をうまく使えば十分にユニークスキル所持者ともやり合えるし、なんなら勝利することだって不可能ではない。


「では、今後の予定はどうされますか?」


「その件だが、しばらくは双子の森に入らず宿屋と町を見て過ごそうと思う」


「そうなんですか?てっきり、森に入ってレベル上げをするのかと思ってました」


「いや。こっちが奴らの存在に気づいている以上、無駄に情報を与えるのは得策じゃない。戦闘方法やスキル、そして俺たちのレベルも含め、奴らには必要以上の情報は与えないつもりだ」


「なるほど。戦いはすでに始まっているということですね」


「その通り。だが、何もしないというのもつまらないから、俺は魔法の習得に力を入れるのと、付与武器を新しく作るつもりだ」


「わかりました。では、私はノア様が魔法の習得に集中できるようサポートさせていただきます」


「頼んだぞ」


 俺が習得しようと考えている魔法は根源魔法である光魔法と闇魔法で、この二つを習得できれば戦いの幅がかなり広がる。


 例えば、光魔法には回復魔法があるし、目眩しにも使えそうなライトという魔法もある。それに闇魔法であれば分身体を作るドッペルゲンガーや無数の手を作り出せるダークハンドもあるため、戦闘時は非常に便利なのだ。


 その後も今後のことについてエレナと詳細を確認した俺は、念の為レシアに周囲の警戒を任せ、その日は眠りについた。






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