第5話 勇者

「うわ。すごい武器の数だね」


「うん。それに見たこともない魔道具や防具たちもある」


 武器庫の中に入った俺たちは、周囲を囲むように置かれた武器や魔道具の数に圧倒され、上手く言葉が出てこなかった。


「ようこそおいでくださいました」


 俺たちが見たこともない武器たちを眺めながらゆっくり歩いていると、正面から一人の男性が話しかけてきた。


「あなたは?」


「私はこの武器庫を管理しております、ライネル・ハルバーニと申します」


「俺はアンドレです」


「あたしはイリア・ドルニーチェです」


「なるほど。お二人が聖武器と英雄武器に挑戦される方々ですね。では、早速ですが聖武器と英雄武器が保管されている場所へ向かいましょう」


「わかりました」


 俺たちはライネルの後に続いて武器庫の奥へと歩いていくと、そこには神聖さすら感じさせる美しい剣と異様な雰囲気を放つ武器が何個か置かれていた。


「紹介いたします。まず中央にあるのが、我が帝国に保管されている聖武器、聖剣エリュポワレです。次に、右から英雄武器の業焔の魔導書、黒闇の大鎌、静寂の短剣です。ちなみに他にもいくつか英雄武器はありましたが、それぞれ主人を見つけ、その方々が所有しております」


 現在、この国で英雄武器を所持している者は三人いる。


 一人目は氷獄の魔導書を所持しているフォルメノ公爵家の当主。二人目は白夜の大剣を所持しており、剣聖と呼ばれるマグナリア伯爵家の当主。そして、三人目は不死鳥と呼ばれる幻獣が封じ込められたペンダントを持つ現皇帝の三人だ。


「あれ。聖武器は一つだけなんですか?」


「はい。聖武器はそれぞれ帝国を含めた6カ国で保管されております。帝国には聖剣、魔法都市では大賢者の書、獣人国で聖斧、エルフの森で聖弓、聖帝国で聖女のペンダント、精霊の都に聖槍がございます」


「どうして別々に保管されてるんですか?」


「それは、各国の力のバランスを保つためです。仮に一つの国に聖武器が集められていた場合、その国は自国にそれらの武器があることを理由に他国に戦争を仕掛けるかもしれませんし、属国にしようとするかもしれません。


 そうした問題を解決するために、聖武器は6カ国に分けて保管されております」


「でも、必ずそれで戦争が無くなるわけではないですよね。もし聖武器を求めて戦争があった場合にはどうなるんですか?」


 今の話を聞いた限りだと、確かに聖武器を分けて保管することは国の力のバランスを保つためにも重要なことだろう。


 だが、その聖武器を奪うために戦争が起きれば、それは意味のない行為になってしまう。


「その疑問はご尤もです。しかし、心配には及びません。聖武器は意思のある特殊な武器です。そもそも、選ばれた者にしかその武器を扱うことはできませんし、仮に持ち出したとしても、自分の意思であるべき場所に戻ります。


 また、そんな愚かな理由で戦争を起こした場合、その国からは聖武器が消えるという伝承があります。したがって、心配しているようなことが起きたことは過去一度もありません」


「なるほど」


「では、聖武器と英雄武器へ挑戦する際の注意事項について説明します。挑戦は一人につき一回となります。拒絶された場合、触れた箇所に痛みを感じますので、その場合はすぐに手を離してください。無理に継続した場合、最悪腕を無くす場合があるのでやめるように」


「つまり、やることは武器たちに触れるだけでいいんですか?」


「はい。武器たちがあなた方を選んだ場合、武器に宿った意思たちが語りかけてきます。それに答えることで、武器たちの主人となれるのです。何か質問はありますか?」


「いえ。特にありません」


「あたしも大丈夫です」


「かしこまりました。では、アンドレ様は聖剣へ、イリア様は魔導書に触れてください」


 ライネルはそう言って一歩後ろへと下がると、俺たちを見守るように壁際へと移動する。


 俺とイリアはお互いに頷きあうと、それぞれ指定された武器へと手を触れる。


 すると、意識が自然と深く沈んでいき、気が付けば俺は一本の剣の前に立っていた。


(痛みが…ない)


 ライネルの説明では、適性がない場合には触れた瞬間に痛みが生じるという話だったが、何故かそれがなかった。


(もしかして…)


『その通り。汝は我に選ばれた。我は聖剣エリュポワレ。汝、我との契約を求めるか』


 そう話しかけてきたのは目の前にある剣で、剣が語りかけてきたことにも驚いたが、それよりも俺が聖剣に選ばれたという事実の方が衝撃的で、言葉を返すことができない。


『汝、答えよ。汝は我と契約し、この絶大な力を求めるか』


『俺は……聖剣。一つ聞きたい。お前と契約をした場合、魔物と魔族を滅ぼすことは可能か?』


『我をお前呼ばわりとは、随分と太々しいな。だが、面白い。魔物と魔族を滅ぼせるかだったな。それはお前次第だ。我の力は確かに絶大だ。だが、それをどこまで引き出し、どこまで使いこなせるかはお前の今後によるだろう』


『今後。確か聖剣が契約者を選ぶとき、触れたものの未来の姿を見ると聞いた。なら、俺の未来がどうなっているのかも分かるはずだが』


『それは正しくもあり間違いでもある。確かに我は契約をするとき、その者が辿り着く未来を見る。しかし、それは無限にある未来の一つでしかない。我に選ばれたからといって、鍛錬もせずに強くなるなど不可能。死ぬ気で鍛錬をし、その望みが不滅であるならば、汝の望みは叶えられるであろう』


 聖剣の話は尤もで、どんなに強い力や武器を手に入れても、使用者や能力の持ち主が正しく使用できなければ、それは何の価値もない。


(実際、師匠も強力な力を持っていても、俺なんて言う足手まといがいたせいで死んでしまった)


『汝、改めて問う。汝は我との契約を望むか』


『…わかった。お前の力を俺に貸してくれ。俺は、この世から魔物と魔族を滅ぼし、平和な世界をつくりたい』


『よかろう。我、汝とここに不滅の契りを結ばん。汝の進む道、我にとくと見せるがよい』


『いいだろう。お前に俺の全てを見せてやる。これからよろしく頼むよ』


 俺が聖剣の契約を受け入れた瞬間、聖剣から光の粒子が俺の体を包み込み、手の甲に剣の紋様が刻まれる。


『ここに、我と汝の契約が結ばれた。これより、我…聖剣エリュポワレは、汝が正義に反しない限り、力を貸すことを誓う』


『俺も、正義に反しないことを誓う。そして、魔物と魔族を滅ぼすんだ』


 俺と聖剣の間に確かな繋がりができたのを感じた瞬間、ゆっくりと意識が覚醒していき、目を開けると右手には聖剣を握っていた。


「まさか、聖剣が彼を選んだのですか…」


「アンドレ!すごいよ!聖剣に選ばれたんだね!」


「ありがとう、イリア。君はどうだった?」


「それが変だったの」


「変?」


「うん。なんか、業焔の魔導書に触れたら、私そなたに相応しくないって言われて、魔法都市に行けって言われたんだ。」


「それは恐らく、大賢者の書に試すように言われたのでしょう」


「大賢者の書?」


「はい。過去にも大賢者に選ばれた者は、賢者の書より魔法都市に行くように言われたそうです」


「私が…大賢者に…」


「おめでとうございます、アンドレ様。イリア様。私はこの事を陛下にお伝えして参りますので、応接室の方でお待ちください。案内はメイドにさせますので、その者について行ってください。では、私はこれにて一度失礼いたします」


 ライネルはそう言うと、俺たちに一度頭を下げてから武器庫を出てこの場を去っていく。


「俺たちも行こうか」


「そうだね!あ、待ってる間、聖剣と契約した時の話でも聞かせてよ!」


「あぁ、いいよ」


 ライネルが武器庫を出て行った後、俺とイリアはメイドさんに応接室へと案内され、そこでライネルが戻ってくるまで聖剣と契約した時の話をするのであった。






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