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依頼調査 3日目 PM 2:10 すすきの 雑居ビル


 調査を開始して、3日目。今日は週末のため、学校は休みである。そのため、私は今『仮面の魔女ジャンヌ』の工房に訪れている。

仮面の魔女ジャンヌ』の用意した酒を飲みつつ、彼女が集めた情報を眺めてる。昼から呑む酒は、背徳感を感じる聞くが、私にはそうは感じない。

 そうも感じるのは、魔術師故にアルコールでは酔えない体質と言うのもある。


「中々にいい酒だ。どこで仕入れたの?」


「『優越の魔女マリー』からもらったものよ。あなたによろしくってね」


「なるほど。それじゃ、この酒はこのボトルだけでかなりの額になるわけか」


「さすがね。いい着眼点だわ。これだけで、数千万はくだらないという代物らしいわ。何せ、50年ほど寝かせた最高級のウィスキーですもの」


「なるほど。こんなもんをこんな真っ昼間から呑んでるなんて、普通の人間じゃ背徳感で酔いしれるだろうね」


仮面の魔女ジャンヌ』は、纏められた資料の束を私に渡す。


「これは?」


「あの教室で起こってる、いじめ問題についての一通りまとめた物よ。元々、起きているいじめが度が過ぎていたそうよ。

 スマホの破壊、SNSでの誹謗中傷、カツアゲ、度が過ぎた嫌がらせ。それによって精神的損害せいしんてきそんがい身体的損害しんたいてきそんがいを負った生徒が後を経たないそうよ。

 教師達も、頭を悩ませてるそうだけど、ある日を境に起きなくなったらしいわ。それも、忽然とね」


「それが、彼らが魔術を覚えた日と一致してると。どこの馬の骨の入れ知恵によるものと発覚したが、運悪く執行者がアフガンに行っているってわけか」


「まぁ、そういうことね。でも、彼らが気づいた理想郷も、崩壊していってる。それも、『特級魔術師イレギュラー』であるあなたと、『S級魔術師スペシャル』であるあれが動いたことでね」


仮面の魔女ジャンヌ』は、私の顔を見て少しニヤけてる。変態か、こいつは。だが、それよりも私はまだ気になることがある。

 そう。まだあの教室に、何か仕組まれてるのか気になっているからだ。あの2つ意外に、まだ魔術が仕込まれてるのか、それさえわかれば後はあのいじめグループを改心だけなんだ。

 

「そうだな。だが、あの教室には、まだ不可解な魔術が仕込まれてる気がしてやまない。結界、糸、後は何だ? どうも、何か引っかかって仕方ないんだ」


「言われてみれば、そうね。糸はともかく、結界を解呪しただけでは、あの陰湿の感じが取れないのも疑問よね」


 私と、『仮面の魔女ジャンヌ』は、考察を始める。どうも、引っかかるものが見当たらないのだ。

 ふと『仮面の魔女ジャンヌ』の首筋を見ると、何かが刺さってるのをみる。


「『仮面の魔女ジャンヌ』。首に何かついてる」


「あら? 何かしら、これ? 気が付かなかったわ」


「しっかりしてくれ。君が気付かないんじゃ――――――――――待てよ」


 私は、何か閃いた。『仮面の魔女ジャンヌ』でさえ、気が付かなかったならと、私も首筋をさわる。

 すると、『仮面の魔女ジャンヌ』に刺さっていたものと同じ物が、私の首筋に刺さっていた。


「これは、一体?」


「GPSの応用を活かした、微粒子レベルで付着させて、位置を把握するための魔術か。

 となると、あの教室には苗となる何かが、いることになる。それも、透明になってる何かが」


「なるほど、それじゃわからないはずね。となると、あの陰湿な空気は、そいつが元凶というわけね」


 私と『仮面の魔女ジャンヌ』は、考察をする。まさかと思うが、あの教室に『幻獣』を扱えれる人間がいるというのか。それも、あのグループの中に。

 考えるだけで、謎が深くなる。ここまで練度が高いと、早々に止めないといけなくなる。

 だが、最も手っ取り早いのただ一つだ。


「夜中に、あの教室に行って確かめるしかないか」


「そうね。夜中なら誰もいないはずよ。それも、週末ならね。でも、ここ最近はセキュリテイがかけられてるから、そこを気をつけないといけないわね」


「中々詳しんだな」


「えぇ。新しいものには、柔軟に慣らしておかないとね。あなたも、そうしないとうっかりを起こした時にどうにもできないわ」


仮面の魔女ジャンヌ』は、私にそう忠告する。余計なお世話だ。全く。

 ともあれ、夜中にあそこに入り込むルートを模索しないといけない。そう考えてると、『仮面の魔女』は私にある紙を渡す。


「これは?」


「あの学校の非常口のルートよ。これを参考に、入りこむといいわ。その緑の標識のある所は、セキュリティがかかってないはずよ」


「わかった。参考までのもらっておくよ」


 私は、お代を置き、ここを後にする。


「いつもの奴、置いておく。また何かあったら頼むよ」


「えぇ。確かに受け取ったわ。それじゃね、アル」


 私は、1000枚の1万円の束を入れた紙袋をテーブルに置き、『仮面の魔女ジャンヌ』の工房を後にする。

 雑居ビルを出ると、ぞろぞろと不良生徒達が集まってきた。


「やれやれ、何のようだ?」


「待ちくたびれたぜぇ。昨日のお返しに決まってるんだろ?」


「お返し? それは君らが勝手に喧嘩を吹っかけて返り討ちにあっただけだろ?」


「へ、それは手加減しただけだ。ただ、今回は本気だぜぇ! テメェら、やっちまえ!!」


 不良達は、一気に私に襲いかかる。私は指を鳴らすと、彼らの動きを止める。


「か、体が動かねぇ……」「どうなってんだ……。動こうとすると、すげぇいてぇ……」


「て、テメェ! 何をしやがった!?」


「動きを止めさせてるだけさ。影を縛ってな」


「くそ、クソが! あの人に教わった魔法で、お前なんて一発だ!!」


 リーダー格の学生は、魔術を唱える。


「死ねぇ!!」


 彼が唱えた魔術が、私に直撃する。しかし、私には何一つ傷がつかない。


「そんなものか、なら、手本を見せてやろう」


 私は、大きめの火球を展開をする。それを見たリーダー格の学生は逃げ始まる。

 彼が逃げた先には、銃口が構えられていた。


「はいはい、そこまで。そんなの放ったら、こいつどころか、この街が火の海になるんだけど?」


「明日香か。何できたの?」


「何でじゃないよ。『仮面の魔女あの女』から、君が騒ぎを起こしてるって連絡が来たから、駆けつけてきただけなんだけど? 私、あいつのこと嫌いだから、呼ばないで欲しいんだけど」


 明日香は、銃を向けながらやってきた。私は火球を消し、彼らを縛っていた魔術も解き、解放する。

 彼らは、とんずらするように、その場から逃げる。そんな彼らを見送るが、振り向くとまだ1人だけ残っていた。


「君は逃げないの?」


「逃げる気はない。あんたが『魔女』であることを確かめた。ただそれだけだ」


「なるほど。それじゃ、その首を差し出すってことにしてもいいのかい?

 何も関わりもない人間が、『魔女それ』を言った時点で殺すことにしてるんだ」


「あぁ、知ってるさ。あんたがその名を嫌ってることもな。だから、あんたに屈する事にした。それだけさ」


「いいのかい? それは、彼らを裏切ることになるけど?」


「元々、何の情も感じていないからな。それに、こんなことにも嫌気がさしていたからな」


 彼は、何かあったのか私に屈するみたいだ。私は、興味がわき、彼を事務所に連れて行くことにする。


「なら、私の事務所で詳しく聞こう。それでいいかい?」


「構わない。俺が知ってる事は全部言うつもりだ」


 私と明日香は、彼を連れて事務所に戻る。

 こうして、思わぬ収穫が出たが、私は夜ための準備を始めるのだった。         

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