ないものねだり

苑田澪

明後日なんて来なければいいのに

 くるっと回る。濃紺の制服のプリーツスカートがふわりと広がって、その下にある私のひょろっとした足が露わになった。


 この春、私は中学生になる。出来上がったばかりの制服を今日試しに着てみたら、まだ今の私では制服に着られているという風に見えた。

 

 小学校の卒業式は明後日で、そこから先はいつもより少し長い春休み。小学校には良い思い出なんてない。つまらない六年間だった。別に友達が居ないわけではないけれど、特別に仲が良い、所謂親友と呼べるような存在は居ない。


 六年生、総勢百三十五名はそれぞれの想いを抱いて明後日卒業の日を迎える。私の数少ない友達は、みんな揃って私立の中学校を受験した。私だって出来ることなら中学受験をしたかったけれど、私の家にそんな余裕がないことくらい分かっているから言い出せなかった。


「さっちんは受験しないの?」

 

 無邪気に私へそう問う金本結菜かねもとゆいなの声は悪意の欠片も無く、それがまた残酷だと私は思った。


「んー、私はしないよ。お姉ちゃんも春若中だったし」


 私はなんてことないという風を装ってそう答えた。さっちんと私を呼ぶのは彼女とあと数人だけで、大半の同級生からは吉田と呼ばれている。吉田さつきだからさっちん。


 本当は中学受験をして、結菜や私のことをさっちんと呼ぶ友達と同じ学校へ行きたかった。結菜は明星めいせい女子、その他の友達は大学の附属中などで、それぞれ別々の中学校への進学が決まった時、私たちは寂しくて泣いた。


 公立にそのまま進むのは私だけで、今まで話していた友達がまるで居ない学校へ行くと思うと、気持ちが酷く沈んだ。寂しくて泣いてしまうほどの友達なのに、みんなと居ると、私はいつも一人だけ浮いているな、と感じる。


 それはたぶん、みんなとは生活のレベルが違うというのを肌で感じとっていたからだと思う。話についていけず、曖昧な返事をすることは少なくなかった。それでも彼女達は私を友達としてそこに置いてくれたのだから、優しい子達なのだろう。


 けれど時々、きっと彼女達は無自覚に私を傷つける。傷つけようなんて思っていない。私が勝手に傷ついているだけだ。分かっている。彼女達には何の罪も無い。だから私は、夜な夜な一人で涙を流してリセットするのだ。


 明後日の卒業式、みんなは袴を着ると言っていた。私はお姉ちゃんからお下がりで貰ったよそ行きのワンピース。ダメもとで袴を着たいと言ってみたけれど、両親には小学校の卒業式で袴なんて着なくていいと言われてしまった。仲良しのグループで写真を撮るとき、私一人ワンピースなんて寂しいな――そう思ってもこの決定は覆らない。


 明後日なんて来なければいいのに。

 

 そうしたら、みんなと別れなくて済むし、一人だけワンピースという寂しさも味わわなくていいから。

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