08.プリズム3期生の倖月さてらだよー

【倖月さてらのダイナマイト集会所 プリ×くろコラボ】


「倖月さてらの~」

「「「ダイナマイト集会所~!」」」


 タイトルコールと共に待機用の画像が引いてゆき、幻想的な部屋の中に四人の少女が現れる。


『きちゃ!!!』

『同接いつもの倍以上いて草』


 三日月を胸元に吊るした銀髪の少女が口火を切る。


「こんばてら~。プリズム3期生の倖月さてらだよー。それで今日の企画は、昔からの友人も名前だけ知ってる他人も、都合の良さそうな人を誘って、最終的に収集がつかなくなったら爆破オチで終わらせるダイナマイト集会所! 何回目か忘れたけど今日もドーンと豪華なゲストが来てくれました! んと、左から順番に自己紹介お願いします!」


 つい最近、全世界的有名人になったグラデーションチョコレートガールが瞳を瞬かせた。


「こんらってー! さてら先輩とあいさつ似てるからパクってもバレない気がするプリズム8期生の瑪瑙ラテです! 今日は呼んでいただいてありがとうございます」

「いやいや、忙しいのに来てくれてありがとね。8期生のみんなとは順番に呼ばせてもらう、って形でお誘いをしてたんだけど、結果的に超ホットなゲストになってラッキーだったよ! あとね、挨拶は見てないところでパクって!」

「え? こんらてら~?」

「こらこらこらこらこら! 混ぜるな~!」


『さすが勇者と遠雷にかみつく女』

『軽率にパクっていく』


 テヘペロとしたラテをばちこーんと効果音でしばき、それから次の人へと移る。


 明らかにさてら、ラテとは造りの系統が違う2Dキャラクター。

 パッと見てどこかのRPGを思い出す素朴な外見の少女が口を開く。


「ようこそ、ここは倖月さてらさんのお部屋です」

「おお……生で聞くとなんかこう、いいなあ。お名前よろしいですか?」

「はい。『くろにくる』の村人系Vtuberエージョ・ムラノショです。本日はかの高名なダイナマイト集会所にお招きいただき、感激しています。案内しかできなくなりそうなんですが、大丈夫でしょうか」

「どう考えても大丈夫ではないので、案内以外もお願いします!」

「宿屋は防音室の外です」

「早速!?」

「昨夜はお愉しみでしたね^^」

「字幕まで出るのかよ、その案内は教育によろしくないのでここでは封印してね!」


 エージョの頭上に吹き出しが出現し、彼女が古き懐かしき台詞を平坦に読み上げる。一周回って癖が強い。


『アイドル(笑)に寝技を仕掛けていくゥ!』

『さてらなら俺の隣で寝てるが?』

『俺の隣でも寝てるが?』


「コメント静かにしろ! キミらの隣にいるさてらはそっくりさんか抱き枕だよ! 次行くよ次!」


 ぜぇはぁ、とさてらが息を継ぐ。


「最後、最後の方もね。くろにくるからお呼びしました! 自己紹介お願いします!」

「ヘイヘーイ! くろにくるのアメリカナイズドお庭番、不忍サンドの参上デース!」

「こないだも受けてたけどTOEICの点数上がった?」

「ついに400点の大台に乗りましタ!」


『長く苦しい戦いだった……』

『300点からそこまで上げるのに三年かかって草』


 ニンッ、と決めポーズで報告する姿にはツッコミではなく、成長に共感するコメントが多数見られた。

 胸元を大きく開けたセンシティブなハリウッド調ニンジャが純日本製なのは、この場のほとんどが承知していた。彼女はくろにくるのメンバーとして、ダイナマイト集会所に数多く出席している方だからだ。


「というコトで、今日はこの四人で遊んでいくよー」

「いえーい!」「やんややんや」「フォー!」


 声を出すと揺れる玩具みたいに四人の上半身が激しく揺れた。


「あっ、ところでハイハイ! 訊いてもいいですカ?」

「なんだいサンドイッチ」

「イヤー、今、プリズムさんってすっごい話題沸騰中じゃないデスカ。その辺りについてNGとかドーなんデスカ?」


 小首を傾げる不忍サンド。別の箱とはいえ、Vtuber界隈をブチ上げている話題にうといはずもない。

 ラテが様子を窺うが、ここは先輩ゆえか、さてらが代表して答える素振りを見せた。


「ライカ先輩のこと?」

「エッ、ソノ、エッ? 言っちゃって???」

「特に禁止されてないからセーフセーフ。ネタにしちゃっても良い、って会社に言われたから平気だよー。くろにくる的にオッケーなら、話題にしちゃっても大丈夫だと思うよ」

「前々からプリズムは大らかだと思ってマシタけど、さすがに大らかすぎマセン?」

「あー……」


 さてらは少しばかり口籠ると、


「まー、あわよくば、って思ってるトコあるからねー。プリズムも変人ばっか集めてるけど、くろにくるの方が変人多いでしょ? なんとかしてくれないかなあ、ってさ」

「村人Aには荷が重い……お庭番の出番です!」

「某にも荷が勝ちすぎてマス。あの配信で足切りされてマスから!」

「私は諦めていませんから! ライカ先輩は私が見つけてみせますよ!?」


 ハッハッハと笑うくろにくる二人組、そしてふんすふんすと発奮するラテに苦笑を漏らす。


「でも、せっかく四人で集まって遊ぶのにその話だけになったらもったいないでしょ。だから話題にするのは良いけど、遊んでる時はちゃんとそっちに集中すること! それはリスナー……月の民共もおんなじだからね!」


『がってん!』

『月天承知!』


「知らぬ間にNGワードを言ってしまって消されるのを危惧しただけナノデ! 安心してこのネタをコスっていきマス!」

「どんな風にコスるんですか?」

「ワタシもお庭番デスからね、気配を消すのは得意デス! ライカ殿のマネをしマス」


 サンドの姿がおもむろに画面の中を動き始める。そして首から上を画面の上部に隠した。


「不忍流顔隠し! ドーデスカ!」

「とても……えっちです……」


 ラテが感想を呟いた。隠れた顔の下で、放漫なボディがばるんばるん揺れておったので。感度高そうであった。


「ふぅ…………、旅人の皆さん、お手洗いは防音室の外です」


『何でも防音室の外にあるな』

『ここが倖月家のお手洗いか~いい匂いがする』


「賢者の顔でいかがわしいヤツらにウチのお手洗いを案内しないで!? というか同僚かつ先輩に対して全く遠慮がないなあ!? ……全くもう、さっさと先に進めるよ!」


 七転八倒しながら戻ってきた不忍サンドの位置を確認し、倖月さてらは企画を進めていく――。

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