第34話 育てすぎたマンドラゴラダイコン

「マァーーーーーーーーーーッ!」


 巨大化したマンドラゴラが叫ぶ。


 シロナ、絶対に仇はとってやるからな……!

 覚悟しろよマンドラゴラァ!


 マンドラゴラのキックで発生した衝撃波によって、半壊していたマイホームが完全に粉々になった。


「クソッ! 人んの敷地内で好き放題しやがって! 不法侵入やぞお前!」


 俺はマンドラゴラの攻撃を躱して【鑑定】する。



────────


種族:育てすぎたマンドラゴラダイコン

ランク:SSS

称号:最強マンドラゴラ


────────



【育てすぎたマンドラゴラダイコン】

【異世界の発展した農業技術と、世界樹の生命力がふんだんに盛り込まれた魔法成長薬によって異常なまでに育てすぎたマンドラゴラ。もはや病弱で魔物や人間に食べられるだけだった生態系最下位の面影はどこにも残っておらず、力のままに大暴れする災害の化身となってしまった。味はこの世のものとは思えないほど美味。】



 マンドラゴラって大根だったのか。

 ……じゃなくて、


「SSSランクマ!?」


『え、神獣クラスなの!?』


「そりゃ魔法成長薬に神獣一体分の魔力を注いだんだからそうなるでしょうよ!」


「『ふぁっ!?』」


「きゅい!?」


 シロナの声が聞こえたかと思えば、なぜかピンピンした様子で立っていた。


「なんでモリモリ元気なん!?」


『さっき死んだよな!?』


「こん!?」


「なぎさにもらったイヤリングあったじゃないですか。一度だけ死を無効化できるってやつ。あれのおかげで復活できたと思ったらなんか進化してました」


 言われてみれば確かに。

 シロナからはなんか神聖な雰囲気が漂っていた。



────────


名前:シロナ

種族:守護霊

ランク:S+

称号:幽霊聖魔導士


────────



「めっちゃパワーアップしてんじゃん!? おめでとうな!」


『嘘!? すごい! シロナおめでとう!』


「きゅん!」


「ありがとうございます。それよりもあれをどうにかしないと!」


 シロナがマンドラゴラを指さす。


 現代農業技術と魔法成長薬によってありえん超成長を遂げたマンドラゴラは、周囲にあるものを手当たり次第に破壊していた。


 ただのキックで大量の木々が倒壊していく。

 ものの一分ちょっとで元マイホーム跡地が平野のような開け具合になってしまっていた。


「落ち着け、マンドラゴラ! お前は俺たちのメシになるために大きくなったんだ!」


「なおさら落ち着きたくなくなる声かけやめろ」


『あんなに優しかったお前はどこに行ってしまったんだ!?』


「心を取り戻せ、マンドラゴラ!」


「取り戻すも何も、元から食べられたくはないでしょうに」


「マアアアアアアアアーーーッ!」


「ぶべらガすッ」


 マンドラゴラがキックを放つ。

 直撃を受けた俺は吹き飛ばされてしまった。


「ほら、言わんこっちゃない」


「クソ……! 言葉で正気を取り戻させる作戦は通用しねぇみたいだな!」


「植物に言葉は通じないでしょうに」


『普通に倒すしかないか……。とはいえ相手は神獣クラスだぞ! そう簡単にはいかないだろうな』


「強さは本物だもんな」


 俺はマンドラゴラに蹴られた腹をさすりながら零華に同意する。


 ……ダメージ貰っちまったな。

 精神ダメージは除いて、物理的にダメージを受けたのはこの世界に来て初めてだ。


「せめて長ネギがあればハジケれたのに、あいにくユーリンチーのタレを作るときに使い切ってしまった」


「【創造】すればいいじゃないですか。ってかなんで長ネギ?」


 相手が大根なら某長ネギソードで対抗できるかなって。


 長ネギがないのならば仕方ない。


「かくなる上は俺自身が剣になることだ!」


「アホなの?」


「いくぞ零華!」


『おう!』


 零華に俺の足を咥えてもらう。

 俺は筋力で全身を真っすぐ伸ばした。


「今の俺は威力を持った剣だ」


「刃がついてませんけど」



「『喰らえ! 人狼一体なぎさブレード!!!』」



「マァーーー!」


「『ぎゃーッ!?』」


 俺たちの攻撃はあっさりと弾かれてしまった。


 マンドラゴラは勝ち誇ったように叫ぶ。

 やっぱりつえぇ……!


「まさか俺たちの合体攻撃でも歯が立たねぇとは……!」


『予想外だった……!』


「最初からわかりきっていたのに、なぜこうも驚くのか」


「マア!」


 マンドラゴラがまたしても衝撃波を飛ばしてくる。


 俺は横方向に緊急脱出することでかろうじて回避した。


 余波で爆風が吹き荒れる。

 シロナは進化で手に入れた守護の力で自身とコンちゃんを守った。


 ちなみにトリオ兄弟は潜伏中だ。

 まだ存在をマンドラゴラに気づかれてはいないはず。

 ここぞという時に攻撃してもらう。


『……ハッ!? ピコーン!』


「どした零華。なんか打開策思いついたか?」


『先ほどの我となぎさの合体攻撃、剣だから負けたのでは?』


「それだ! 槍ならいけるんじゃね!?」


「絶対そういう問題じゃない」


 俺は両手を合わせて真っすぐ頭上に伸ばす。

 ランスモード準備完了。


 人化した零華が、俺をマンドラゴラめがけてぶん投げた!



「『喰らえ! 人狼一体なぎさグングニル!!!』」



 豪速で放たれたなぎさグングニルは、見事マンドラゴラの体を突き破った!


「マ!?」


「なんでいけた!? 槍も剣も大して変わらねーだろ! マジでなんでいけたの!?」


 グングニルは投げても帰ってくる槍だからな。

 俺はダッシュで零華のもとに戻った。


『見たか! 我となぎさの友情攻撃を!』


「風穴開けてやったぜ! ちったぁ効いたろ!」


「マ……マ……マダァ……ッ!」


 マンドラゴラは苦しそうに膝をつく。


 大ダメージを与えてやったと思ったが、マンドラゴラの体が薄く光った瞬間みるみるうちに風穴が塞がりだした。


 あっという間に修復されてしまう。

 マンドラゴラは何事もなかったかのように立ち上がった。


 再生能力持ちかよ!

 しかもあのスキルは……!



【植物の生命力底力

【ダメージを負った際に自動発動する。これまでの成長過程で蓄えてきた栄養やおいしさなどを消費することで、身体的損傷とライフを回復することができる。】



 俺たちの目的は『マンドラゴラをおいしく食べる』。

 つまり、【植物の生命力底力】を発動させることなくワンパンする必要があるってことだ。


 ちまちま攻撃してたんじゃ、マンドラゴラのおいしさがどんどん損なわれちまう。

 実際、先ほどの回復によってマンドラゴラのサイズがわずかに小さくなっていた。


「ただでさえ強いマンドラゴラをワンパン……。厳しくないですか……?」


『正直無理そう』


「何か……何か打開策はねぇか……?」


 俺たちが歯がみしていると、マンドラゴラが地団太を踏みながら葉っぱをぶんぶん振り回し始めた。


「マァーーーー………………………………ッ」


「何をするつもりなんだ……!?」


「マアアアアアアァァァァァァァアアアアアアアアアアァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」


 ひと際大きな声で叫んだマンドラゴラの全身から、大量のエネルギーが発せられた。

 それと同時に俺と零華は胸を抑えた。


 ……息苦しい。


「ぐっ……! まさか……!」


『我となぎさの魔力を奪ってパワーアップしただと……!?』


「え、ヤバくないですか!? もう普通に倒すことすら難しそう……」


 俺と零華は再び人狼一体なぎさグングニルを放つ!


 だが、通じなかった。

 あっさり防がれてしまった。


 とんでもなく強化されてやがる……!

 さっきまでの防御力とは桁違いだ!


「マーーーハッハッハッハッハ! ママママママ!!!」


 マンドラゴラが勝ち誇ったように叫ぶ。


 コイツずっと某芸人みたいにマーマー言いやがって!

 だったらこっちはこうだ!


「ヤーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」


「雄たけびで対抗しようとするな」






◇◇◇◇(Side:門番)



 俺は王都の入出者を把握管理する衛兵隊の上官。

 門番の現場リーダーを担当している。


 今は昼過ぎ。

 詰所で休憩してるところだ。


 メシを食べていると、休憩しにやって来た部下たちが話しかけてきた。


「あのなぎさって人とんでもないっすよね!」


「ああ、そうだな」


 最近の話題はこればかりだ。

 直接会って対応したこともあってか、みんなの興味関心がとても大きい。

 まあ、そういう俺もすごく気になっているのだが。


「勇者から人類最難関ダンジョンを攻略した女性の報告が入ってましたけど、これ絶対なぎささんっすよね。外見の特徴が一致してますし!」


「パンチ一発でSSランクの魔物を瞬殺ねぇ。普通だったら眉唾モンだろって一蹴するところだが、あの人がやったってなら信じちまうよな」


「そっすよね!」


 他にも近隣の街から広がり始めた海女英雄伝説というのがあるが、これも特徴からしてなぎささんのことだろう。

 神獣をペットにするくらいなんだ。

 このくらい朝飯前だよな。


「つい先日なんて水竜の群れを倒して王都を救ったり、警察と協力して死神を完全逮捕したりしてましたもんね」


「もう英雄だよ! 英雄!」


「勇者もビックリの大活躍だよな! 後世に伝説の英雄として語り継がれるレベルじゃん!」


 本当にその通りだ。

 ここまで大活躍した人はこの国の歴史を遡っても存在しないだろう。


 ……さて、メシを食い終えたことだし仕事に戻るか。

 立ち上がった時、部下が慌てた様子で駆けつけてきた。


「一大事です! 邪竜バハムート様が来訪されました!」


「はあ!?」


 俺は取り乱しながらも急いで外に出る。

 上空に全長十五メートルを超える漆黒の巨竜が佇んでいた。


 なんという存在感……!

 なんという圧迫感……!


 これがフェンリル様と対をなす伝説の神獣、邪竜バハムート様……!


 部下たちは委縮してしまっている。

 俺は上官だ。

 俺がしっかりしなければ……!


 俺は呼吸を整えてから威厳あふれるバハムート様に話しかけた。


「本日はどのようなご用件で来訪されたのでしょうか……?」


『なぎさと零華たちが大ピンチなのじゃ!!!』


「あの人たちが大ピンチ!? それは本当なのですか!?」


 切羽詰まった様子で伝えてきた邪竜バハムートに俺は面食らう。


 なぎささんとフェンリル様がそろっているにもかかわらず大ピンチだと!?

 いったい相手はどれほどの強さのバケモノだというのだ……!?


『変身!』


 バハムート様の体から光があふれたかと思いきや、中から黒髪の女の子が現れた。

 おお、人化されたのか!


わらわを今すぐ市場に案内してくれ! なぎさたちが勝つために必要なキーアイテムがそこにあるのじゃ!』


「すぐに案内いたします!」


 なぎささんたちの大ピンチを放っておけるわけがない!

 王都を救ってくれた彼女たちに恩返しするためにも、今自分ができることを全うしなければ!



『待っておれ、みんな! わらわがすぐに届けてやるからな!』


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