第33話 ハッピーバースデー零華!

 この世界の気候についてだが、王都はヨーロッパ風だったのに王都からそこまで距離が離れていない魔境は和風だった。

 不思議に思って調べたところ判明したのだが、魔境はエリアによって気候が違う。

 マイホームのある和風エリアの隣に砂漠エリアがあったりとあべこべなのだ。


 で、今いるのは雪国エリア。

 冬の北海道みたいなめっちゃ雪が積もったところで遊んでるぜ!


「デス雪合戦開幕じゃー! おりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」


『我の必殺デスボールラッシュを喰らうがいい!』


「どう考えても雪合戦の威力じゃない。余波で山が爆発してるんですけど」


「きゅー」


 シロナとコンちゃんが呆れた表情で呟く。


 零華の投げた雪玉が遠くの山に当たって爆発した時、モンスターの群れが現れた。

 フローズングリズリーというSランクの魔物が六匹。

 雪熊の大家族だ。


「音で寄ってきたみたいですね」


「グルルルルル」「ガウ! ガウッ!」「グアー!」


 熊たちが駆けだす。

 サクッと倒すかと考えていると、ゴゴゴゴゴ! という音と共に雪崩が迫ってきた。


「ぎゃー!? 零華が山爆発させまくったから雪崩が起きちゃったじゃないですか!」


「シロナ、コンちゃん! 掴まれ!」


「きゅいー!」


 俺はソリを【創造】し、シロナとコンちゃんと一緒に乗り込む。

 雪崩の上をうまいこと滑って雪崩川下りじゃい!


「ひゃっほーう!」


『ひゃっほーい! 我は雪崩の中を泳ぐぜー!』


 不測の事態も俺たちはめいいっぱい楽しむ。

 雪崩の上をソリで滑るなんていう稀有な体験ができてよかったぜ!


「怖かった……」


「きゅ……きゅぅ……」


『あ、そういえば今日我の誕生日だった』


 零華がふと思い出したように呟いた。


「マジか!? おめでとう!」


「きゅうーい!」


「おめでたいんですけど、気づくの遅すぎません?」


『長く生きてると時間の進みが早く感じるようになってな。一年とかあっという間すぎて日付感覚が適当になってくるのだ。これ長命種あるあるだぞ』


「わかるわかる! 俺も気づいたら誕生日すぎてたとかよくあるわ!」


 俺は零華の言葉にうんうん頷いた。


「なぎさまだ若いだろ! 長命種あるあるに共感すな」


「去年とか三週間遅れで自分の誕生日祝いしたからな、俺」


「時間にルーズとかいうレベルじゃない」


「とにかく零華の誕生日パーティーするぞ!」


 こんなところで雪遊びしてる場合じゃねぇ!

 俺たちは零華を祝うために帰宅した。



「誕生日ケーキは俺とコンちゃんで作るぜ!」


「こん!」


 コンちゃんはふんす! と気合を入れる。

 いつになくやる気だ。

 零華のことが大好きだもんな、コンちゃんは。


「料理は私に任せてください! なぎさのおかげで揚げ物は大得意になりましたから!」


「おう! 任せた!」


 シロナは普段あまり料理をしないだけで、腕はいいからな。

 さぞかしうまい揚げ物を作ってくれることだろう。


「トリオ兄弟は家の飾りつけとか頼んだ!」


「ウッキーウキッキ!」


「キャー!」


「ウホーホ!」


 さっそく行動開始だ!


 トリオ兄弟はなんでもこなせる器用さを活かして部屋の飾りつけをしていく。

 華々しさの中に可愛らしさもある、零華にピッタリな雰囲気に仕上げてくれた。


『テンション上がるなー!』


 ご満悦な零華。

 トリオ兄弟は思わずリラックスしてしまうほど穏やかなBGMを演奏し始めた。


 一方、キッチン組も調理を進めていく。


 俺の【アイテムボックス】には下味をつけた状態の食材が大量に入っている。

 シロナにはそれらを片っ端から揚げてもらうぜ。


「こん……! こーん……っ!」


「いいぞその調子だコンちゃん! うまいうまい! あとちょっと!」


 コンちゃんは泡立て器を前足ではさんで器用に掴むと、筋力増加のバフを自身にかけて一生懸命撹拌する。

 健気に頑張っていた。


「きゅ……きゅぁ……」


「よく頑張ったな! 完ぺきな撹拌具合だぜ!」


「きゅい……!」


「疲れたろ? ゆっくり休んでてくれ。次は俺の番だ」


 コンちゃんと代わる代わるで、時には一緒に作業してケーキを焼き上げる。

 飾りつけはシロナも参加して、ついにケーキを完成させることができたぜ!


「「じゃじゃーん!!」」


「きゅーい!」


『わぁ……!』


 テーブルに盛りつけられた料理の数々を見て、零華が嬉しそうに目を輝かせる。


 いろんな味付けや食材のから揚げ、ユーリンチー、ヤンニョムチキン。

 メンチカツにコロッケ、フィッシュ&チップス、サラダなどなど


『いっただっきまーーーっす!!!』


 零華はすぐに食べ始めた。


「どうですか? お味は」


『うまーい! 最高!』


「それはよかったです。零華のために頑張っちゃいました!」


『ありがとなー!』


 零華は幸せそうにほっぺに手を当てる。

 狼形態だったら間違いなくしっぽを振り回しまくってるだろうな。


「私たちも食べましょうよ!」


「だな!」


「こん!」


 零華があんだけ喜んでんだからうまいのは間違いねぇ!

 食べてみたら、予想通り絶品だった。


 醤油味、ゆず塩味、にんにくモリモリ味、唐揚げはどれもサクサクジューシー!

 酸味とネギの香味が効いたユーリンチーも、絶妙な甘辛さがたまんねぇヤンニョムチキンも超うめえ!


「メンチカツも食べてみてくださいよ! お肉の味がダイレクトに伝わってきて最高ですから!」


「ホンマやんけ! うっめー!」


「きゅ~」


 コンちゃんはコロッケが気に入った様子で何度もおかわりしていた。

 じゃがいものほくほく感にダンジョン牛のうまみ、衣のサクサク感がたまんねぇよなわかる!


「ウキキー」


「キチャョー」


「ウホホーイ」


 トリオ兄弟も幸せそうにメシを食う。

 あまりにもおいしすぎてあっという間に食べ終わってしまった。


「次はお待ちかねの誕生日ケーキだ!」


「きゅいきゅ~い!」


 俺はケーキを運んでくる。

 頑張って作ったケーキを見た零華は喜びの声を上げた。


『うおー! すごーい!』


「きゅへへ~」


「ドヤ!」


 甘いものが大好きな零華のためにホワイトチョコケーキにしたぜ!

 普通のチョコではなくホワイトチョコを選んだ理由は、色が一緒なのと高級感のある美しい見た目が白銀の毛並みを持つ零華にピッタリだからだ。


『チョコレートにメッセージ書いてある! しかも絵まで! これって我の似顔絵だよね!? 嬉しいー!』


「“零華お誕生日おめでとう!”ってメッセージは俺とコンちゃんで一緒に書いたんだぜ!」


「きゅん!」


「似顔絵は私が描きました! 可愛いでしょ?」


『うん、可愛い! みんなありがとなー! 我めっちゃ嬉しいよ!』


 喜んでもらえてよかったぜ!

 それじゃあろうそくを刺して祝いますか!


「零華って何歳なん?」


『今年で千百十一歳!』


「マジかよ、ポッキーの日じゃん。めでた!」


 千百十一本もろうそく刺したらケーキが崩壊するから十一本にするか。

 等間隔で刺してシロナの魔法で火をつける。


 ハッピーバースデーの歌をみんなで歌ってから、零華にろうそくの火を消してもらった。


「零華、誕生日おめでとうー!」


「お誕生日おめでとう、零華!」


「きゅ~い! こーん!」


『えへへ、ありがとね! 我、嬉しすぎて泣いちゃいそう……!』


 ケーキをカットしてみんなに配る。


 頑張って作ったケーキはとてもうまかった。

 チョコの甘さと果物の甘さが最高にマッチしている。


 零華もすごく嬉しそうな表情で食べていた。


「零華、いつもありがとな! お前と会えてよかったぜ!」


「零華がいるだけで毎日が賑やかになって、とっても楽しいですよ!」


「きゅん!」


『なぎさ、シロナ、コンちゃん……! 我もみんなのこと大好きだぞ! 我もすっごく楽しい!』


 俺たちは零華に感謝の言葉を伝える。


 みんなでワイワイ楽しんでいた。




 ──その時だった。



 一瞬でマイホームが半壊した。

 ドガァァァンッ! と音を立てて。


「『ぎゃー!?』」


「きゅう!?」


 零華の最大出力結界のおかげでコンちゃんは無事だった。


 しかし、謎の攻撃に巻き込まれたシロナが死んでいた!

 いやもう死んでるけどまた死んだ!


「「シロナァーーーッ!?」」


「こぉーーん!?」


「マァーーーーーーーーーーッ!」


 外から叫び声が響く。


 巨大化したマンドラゴラが畑で大暴れしていた。



「お前か犯人は!?」



 シロナ、絶対に仇はとってやるからな……!

 覚悟しろよマンドラゴラァ!


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