第9話 こういう妹も良いな

 静ちゃんの妹である紗香さやかちゃんの相談に乗った俺。回答が彼女の気を引いたのか「他の話を聴いてみたい」と言ってきた。


紗香ちゃんの期待に応えるため、俺と光は静ちゃんの家にお邪魔することにした。



 光が事前に静ちゃんの住所を聴いているので、俺は大人しく付いて行く。そして、あるマンションの『203号室』で足を止めた。


「約束の時間だから問題なさそう。お兄ちゃん準備は良い?」


「ああ、構わないよ」


俺の返事を聴いた光が呼鈴を押すと、すぐに扉が開いた。…静ちゃんの隣に活発そうな女の子がいる。この子が紗香ちゃんか。


「こんにちは~!」

元気な声で挨拶する紗香ちゃん。


見た目通りの感じで、光とは違うベクトルで可愛い。まぁ光には及ばないけど。


「こんにちは、光ちゃん・お兄さん…」

続けて静ちゃんが挨拶する。


この姉妹、“静と動”のような真逆な印象を受ける。どっちも良いところがあるので優劣はない。好みの差だな。


「あたし、この間の話聴いてビックリしちゃった~! もっと色々教えて~!」

紗香ちゃんは俺の手を握り、家の中に引き込もうとする。


「紗香。お兄さんに失礼だよ…」


「気にしないで、影山さん」

求められるのは嬉しいからな。


「あたしも影山だよ~? 名前で呼ばないとわかりにくい~」


紗香ちゃんの言う事は正しいが、それは静ちゃん次第で…。


「お兄さん。紗香の言う通り、名前で呼んでください」


「良いのか…?」


「はい」


静ちゃんの許可をもらったから、遠慮なく名前で呼ぼう。


「それじゃ、光と同じで“静ちゃん”と呼ばせてもらうよ」


「わたしは“てるさん”で良いですか?」


「好きなように呼んでくれれば良いから」


関係が一歩前進したな。紗香ちゃんのおかげだ。


「ねぇねぇ。照って『てるてる坊主』の照なの?」

紗香ちゃんが首をかしげる。


「う~ん。俺の名前は『太陽が照る』から来てるから、間違ってない…よな?」

“当たらずとも遠からず”って感じ?


「ふ~ん。他はね…」


「紗香、玄関で話すのは良くないよ。部屋に上げよう」


「そうだった!」

ハッとした様子の紗香ちゃん。


反応が子供らしくて可愛いなぁ。小6だから当然か。


「早く上がってきてよ、2人とも!」

俺と光にそう言った彼女は、ある部屋に入っていった。


あそこが静ちゃんとの共同部屋だな。


「すみません。騒がしい妹で…」


「いいのいいの。紗香ちゃん可愛いね~」

光が俺と同意見を言う。


「ありがとう。わたし達の部屋は紗香が入ったところなので…」


「オッケ~。紗香ちゃんを待たせちゃ悪いし、早く行かないと。お兄ちゃん」


「ああ」


俺達は玄関で靴を脱いで家に上がり、共同部屋に入る。



 「いらっしゃ~い!」

入って早々、座っている紗香ちゃんに歓迎された。


学習机が左右の壁に1台ずつあり、勉強する時は互いに背を向ける形だ。机と机の間にあるスペースに小さな折り畳みちゃぶ台が1台セットされており、彼女はそのあたりに座っているのだ。


静ちゃん・俺・光も紗香ちゃんにならい、ちゃぶ台あたりに座る。


「最近ね、保健体育で“男の体”について勉強したの。男の体は男に訊くのが一番でしょ?」


紗香ちゃんは俺の顔を観て言う。


「そうだけど、だったら仲が良い男子に訊いても良いんじゃないの?」

男がそばにいる環境なんだから…。


「そんな事したら“エロ女”とかって呼ばれちゃうよ! 中学で気まずくなるじゃん!」


「…確かに」

エロに興味を持つのは普通だが、からかいのネタにされかねない。


「だからお姉ちゃんの友達に訊くんだよ。わかってもらえた?」


「ああ、わかったよ」

俺の配慮が足らなかったか…。


「紗香。さっきから照さんへの言葉遣いが悪いよ…」


「静ちゃん。俺は全然気にしてないから」

子供に厳しい礼儀作法は不要だろう。紗香ちゃんは元気なほうが良い。


「さすが~。こういうのをって言うんだよね?」


「そうだよ~。私のお兄ちゃんは凄いんだから!」

光が急に俺を褒め始めた。


嬉しいけど恥ずかしいぞ…。2人きりの時にたっぷり礼をしよう。


「そんな器がデカいお姉ちゃんの友達に質問!」


紗香ちゃんは何を訊く気なんだ…?

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