6.恋人

 うちにあるのは、炎のごとく燃え盛る衝動。

 例えるならば、鮮やかなまでに紅の花弁を広げる薔薇の花束。

 或いは主へと祈り捧げる黄昏の天使が拡げる羽根。

 若しくは、生命の樹に実る朱き果実。

 抑えきれず、零れ出で、勢いのままに斯くの如く。

 絡み合う肢体は、互いに奪い合い、与え合い、補い合う。甘美な喜びに戦慄きながらまるで己が尾を呑み込む蛇のように、循環する。


 御使いは謳う。

 心赴くままに愛を信じよ。

 情熱に勝るものはなく、憂うことなく春を謳歌せよと。

 僕らは声の通り、直感のままに恋をし、愛を口にする。

 理性など雫一滴程も残さず蒸発させて、口づけの雨を降らせあう。

 この体を電流よりも速く行き交う快感に勝るものなどなにもなく、どんな困難すらも障害にはなり得ない。例えこの手になにもないとしても、そんなことなど一体何の関係があるだろう。恋に理由等必要ないのと同じように愛の前に森羅万象なにもかも等しく価値を失う。ならば愛持つ僕らに敵うものなど何処にもありはしない。

 熱に魘され惑わされ向かうのがエデンのどん底だとしても純粋無垢なる感情に導かれるならば、行き着く先は完成された世界に違いない。

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