第023話 『UMA』? いいえ、たぶんカワウソです。

 敵か敵でないかと聞かれれば敵ではないと思われるが、怪しいか怪しくないかと聞かれれば露骨に怪しい『カーくん』という謎生物。

 眠くはあるがそのまま放置するわけにもいかないので、本日……いや、日付はもう変わってたか。

 仕方なく葵ちゃんと二人で、迷宮入り口まで深夜のドライブである。


「別に害もなさそうな相手だし、そのまま寝ててもよかったのに」

「お気持ちはありがたいですけど、貴方が近くに居ないと安心して眠れない体にされてしまったので……もちろん甘ったるい空気が漂うような意味ではなく、ストレートな不安要素があるからなんですけどね?燃料も食料もありますし?そのまま私だけを残して!貴方が何処かに行ってしまうかもしれないという不安で寝ていられないんですからね?」

「そんなに心配しなくても大丈夫だと思うよ?もしもその時はちゃんと声をかけるからさ」

「通達が欲しいの『出ていきます』の連絡ではないんですけどね?可愛い女子高生を捨てて旅立つなと言ってるんですけどね?」


 てか、食料を筆頭に燃料、建設資材なんかも全部預けてるのに、拠点を離れる時に葵ちゃんを置いていくはずなんてないんだけどねぇ?

 ……もちろん彼女の方から離れていく時はその限りではないんだけどさ。

 これでも捨てられることには慣れてるからな!……嫌な慣れだなぁ……。


「それにしてもこのエイリアン、迷宮の入り口から全然動かねぇな……てか死にかけてないかこれ?」

「なんですかそれ?その未確認生物はダンジョンから出て来たんじゃないんですか?よくわかりませんが、一人でダンジョンに入って返り討ちにあって大怪我をしたとかです?」

「いや、怪我とかじゃなく脱水症状を起こして倒れてるみたい」


「難儀な異星人ですね……とりあえず、そのままとどめだけ刺して帰りましょうか」

「おっかねぇ女子高生だなおい!?いや、一応アイコンが白だったから有無を言わさず敵認定ってわけじゃなかったし、もしかしたらこの世界の話も聞けるかもしれないからね?一応助ける方向で考えてあげて?」

「……もちろん冗談ですからね?」


 冗談の『間』じゃなかったけど怖いからツッコミを入れるのは控えておこう。


 トラックから降り、辺りに危険がないか確認しながらゆっくりと迷宮の入り口、近くに倒れている謎生物に近づいてゆく二人。


「ホントに何の生き物なんだろうこれ?種族は『アウソー族』で名前は『カーくん』って表示されてたんだけど……全長50センチから60センチで、小太りの……タヌキ型宇宙人?」

「いえ、そうはならないでしょう?名前がカーで種族がアウソーなんですよ?足したらカワウソじゃないですか?」

「名前を足す理由がわからないんだけど……でもカワウソってもっと細身じゃん?もしかしてカワウソの妖怪?」

「日本以外にも妖怪って居るんですかね?見た目はゆるキャラにしか見えませんけど……いえ、それよりも助けるなら早くお水をあげたほうがよくないですか?」


 そうだった、こいつ脱水症状で死にかけてるんだった!

 葵ちゃんからペットボトルを受け取り、膝の上に抱きかかえた不確定名『カーくん』の口元にゆっくりと水を流し込む……あ、小さい手で、自分で抱えた。

 クッ、ちょっと可愛いじゃねぇかこいつ!

 いや、言うほどちょっとだろうか?こくこく喉を鳴らしながら水を飲むその姿、むっちゃ愛らしいんだけど!

 ……もうこのまま連れて帰って家の子にしちゃうというのもアリなんでは?……あ、水を飲み終わったらまたクタッとなった。

 てか普通に『フスー、フスー』って感じで寝てるようにしか見えないんだけどさ。


「……どうしようかこれ?」

「私に聞かれても困るんですけど。捨てていっちゃダメなんですか?」

「えー、女の子ってこういうキモカワイイ感じの生き物って大好きなんじゃないの?」

「ふふっ、少し認識を間違えてますね。あれはあくまでも『作られたキャラ』だから好まれるのであって、本当にキモいモノはただただキモいだけなんですよ?つまり水玄さんはキモカワではなくタダキモなんです」

「いきなりの流れ弾やめろや。誰も俺の話はしてねぇんだよ!んー……尻尾の形もどっちかっていえばタヌキよりカワウソとかラッコに近い見た目だし、とりあえずは連れて帰って風呂にでも放り込んでおけば回復するかな?もちろん危険生物かもしれないから交代で見張りをしないとダメだけど……葵ちゃんは大丈夫?」


「もちろんその程度の協力は惜しみませんよ?でも先に寝るのは私ですからね?さて、ヘタレの貴方は『眠り姫のような美しい私の寝姿』に触れて起こすことがでしょうかね?」

「えっ?普通に大声出して起こすだけだけど?てか、よく知らないけど、眠り姫ってそんな安らかな感じで寝てたんだっけ?寝過ぎで頭痛持ちだったりとかしない?」

「近所迷惑な人だなー。あと『そんなヒロインはいない!』……とも言いきれないグ○ム童話のダークサイド。まぁいいです、とりあえず『ソレ』を荷台に積んでとっとと帰りましょう」


 ストレートに『私は膝に載せたりとかしませんので』と意思表示をする葵ちゃん。

 カワウソ妖怪を拾って拠点に戻り、バスタブに少量の水を張ってからそこに漬けこみ、監視のために交代で眠りに付く。

『コロコロしたのが目を覚ましたみたいですよ?』と、俺が葵ちゃんに起こされたのは昼前のことだった。

 てか葵ちゃんのエイリアンの呼び方がバラエティに富みすぎてるから一つにまとめて?俺も全然まとまってないんだけどさ。


 カーくん、起きたからといって慌てるでもなく動き回るでもなく、風呂桶の中でぽへーと、プカプカしたまま二度寝してるみたいなんだけどね?なかなかに図々しいUMAである。

 一応用心のために二人ともに鎧を着込み、武器を持ってから浴場でそいつとご対面する。


「倒れて死にかけてたから一応治療……のようなことをして連れて帰ってきたけど体調はどんな感じだ?」


 なんて話し掛けてみたけど、人型ですらない変なナマモノに言葉が通じるのだろうか……いや、それ以前に会話による意思疎通ができる生き物なのかこいつ?


「おお!あんさんが助けてくれはったんか?おおきに、おおきにやで!おかげさんで干からびることもなくのんびり浮かせてもうてます……やのうて、か、カーくんは悪い魔神じゃないよ?キューキュキュ?」

「まさかのコッテコテの関西弁だと!?いや、浴槽のヘリに可愛く掴まってキラキラしたつぶらな瞳で小首を傾げてこっちを見つめたところで今さらだと思うぞ?お前の本性は河内のオッ……オバハン?だって既にバレてるからな?」


 まさか、この見た目でその喋り方なのかよ……会話の内容は完全に近所のおばちゃんのくせに声は『小○水亜美』とか違和感半端ないわ!そこは山ちゃん連れてこいよ山ちゃん!

 でも異世界には悠○碧声の文鳥とか早○沙織声のオークだっているんだもんな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る