第5話

弥生へ


この間の写真は見てくれた? 

LINEで送って、既読がついたから見てくれたとは思うんだけど……返信がないから心配している。

LINEも一長一短だね。手紙を送り始める前はLINEと通話以外の通信手段は不便だと思っていたのに、今では逆に手紙の方が楽しみになっている。返事が来るまでの時間の待ち遠しさが嬉しくなるだなんて、ちょっとした贅沢を覚えた感じだ。

家具や漫画諸々含めて部屋の写真、あれは上手く撮れていた自信がない。

特に寝室当たりなんかは。電気をつけてもつけなくても照明の加減で特に見せたかったカーテンの本当の色合いが綺麗に映らなかったから何度撮り直したかわからないよ。ミニサボテンの事、教えてくれてありがとう。植物なんて育てたことがなかったから(身近には十分あったけどね、近所の林とか)水のやり方には十分に注意するよ。実はネットでも「ミニサボテン 育て方 水やり」なんかで検索したりしていたところなんだ。害虫(カイガラムシ?) なんていう生き物もいるんだね。いずれにせ僕の知らないことがこんな小さなところまであるなんて、という感じだ。こんな小さなところまで、と書いたのは今僕が住んでいる東京も未だわからず知らないことだらけだよ、と君に伝えたかったから。都会は時が流れるのが早いよ。流行もすぐに廃れて、また次々と新しいものがやってくる。こんな風にノスタルジックな気分に浸りたかったのは、電車に乗って手紙を書き始めての瞬間だったんだけどな。本当の意味でのホームシックになったのは時期がだいぶズレてからみたいだ。

流行り廃りでいえば、スーツはいつの時代でも不変でサラリーマンにとっては学生の制服みたいなものだ。僕はどんなことになっても変わらないぞ、という意気込みでこの間写真館に行ってスーツの写真を撮って来たから手紙に同封しておく。それにしても、もう一度そっちに戻りたいと思ったのは久しぶりだ。弥生は、今も化粧はしてないのか? 

元々何もしなくても綺麗だから化粧なんてしなくても全然問題はないんだけど。東京の女性たちはメイクにファッションにと毎日忙しそうだ。達也や恭一は元気にしてる? あいつらも地元にいるんだろう? 


 この間の君が疑問に思っていた点について話すよ。達也がずぶ濡れだった件、あれは達也がペンダントトップを追いかけて沢に飛び込んだせいだ。僕がペンダントトップを落とした時、「まずい! 俺のだ!」って言って、泳げもしないのに沢に飛び込んだからなんだ。その後、僕も沢に飛び込んだ。お互いに譲らず、あれは自分が貰ったものだと主張しながら相手を凄い勢いで押しのけながら沢を進んでいった。僕は混乱したよ。達也が弥生のことを好きなのは知っていたけれど、何でペンダントトップのことを知っているのかって。だって君から貰ったペンダントトップのことは誰にも言っていなかったから。


弥生、僕からも質問があるんだ。いいかな? 

僕はこの間君が手紙に書いた通り、贈ってくれたペンダントトップのことを人に言いふらす程、気に入ってはいなかった。いや、本当は嬉しかったんだけど……あの時言った通り、「男がペンダントなんてするものじゃない」と思っていたから家族にさえそのことは話していなかったんだ。それなのにどうして達也がそのことを知っているんだ? 

どうして達也は落としたペンダントトップのことを自分のものだと言い張ったんだ? 僕の嫌な想像が当たっていなければいいんだけど。(大抵、僕の嫌な予感というやつは当たるから)問い詰めるような形の言い方になってしまって、ごめん。君からの返事を待っています。


真人より


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