ラブちゃん

たてごと♪

ラブちゃん

「うーん暗いなあ、イヤなふんだ」


「だから君にこうして、護衛に来てもらってるんじゃないか」


「へいへい」


「それとも暗がりに乗じて、この私を襲おうなどと」


「んなこと考えてな……うおっ⁉」


「♡♡♡」


「ちょっ、だれ⁉ 何いきなり抱きついて⁉」


「♡〜」


「うおお、こら離れろ‼ なんなのキミ⁉」


「ああ、それ〝ラブちゃん〟だな」


「ラブちゃん? この子知ってんの?」


「いや知らんけど」


「え? じゃあ何で名前を?」


「名前じゃなくてな。種族名なんだ」


「種族名。なぜにそんな」


「あれだ。新種の命名権は、第一発見者にあるだろう?」


「そうだけど、そんな変人だったって事?」


「それがそいつ、見つけた個体にラブと名前つけてたらしくてな。どう呼ぶかといたら〝ラブちゃんはラブちゃんだよぅ!〟と答えたんだそうだ」


「しょうもな……。って、どういう種族なの?」


「ああ。どうやらサキュバスの一種らしい」


「さ、サキュバス⁉」


「要はエロい事して精気を吸い取るやつなんだが、あれだと一気に吸いすぎて、すぐ死んでしまうだろう? そのせいか何なのか、ハグ特化した種族が出てきたと」


「ハグ特化。」


「まあだいぶ穏やかに吸うようだし、だるくならなきゃ平気なんじゃないか」


「え、なにこれ吸ってんの? や、やだよ……ちょっとほら、離れてって」


「♡♡♡」


「も〜」


「離れていいのかね。鼻息荒いぞどうてい君」


「ど、どうていちゃうわ‼」


「柔らかくていいにおいのする女の子にハグされて、いい気分なんだろう? たまに、お持ち帰りする奴もいるようだぞ」


「お持ち帰り。」


「こんな愛想よくて、なつっこい女の子なんだ。吸われて死んだりもそうそう無いし、飼いたいと思ったって無理ないと思わないか?」


「飼う。」


「まあ、おすすめはせんがな? なかなかうまく行かないからな」


「うまく行かないって?」


「そもそもサキュバスって性行為そのものじゃなくて、それに向かわせる衝動を精として吸い取るやつだろう」


「え、そうなんだ」


「それはそうだろう。君の汚らしいしるなんて栄養になるもんか」


「汚らしいしるって言うな」


「つまりこれも同じで、気を向けられてこそ吸い取れるわけだな」


「えっとつまり、ハグに専念してないとダメ?」


「そうだ。しかも吸精が穏やかなんだから、長い時間そうしてなきゃいけない。さもないとえて死ぬし、それやったら飼い主のほうが仕事も何もできなくなって、えて死ぬ」


「あー。でも金持ち連中だったら、そういうヨユウあるんじゃないの?」


「それもうまく行かない」


「何で」


「そういう連中は、節制をしないからな。むしろ供給過多になって、太るんだ」


「太る。」


「するとどうしても、あんまり可愛くなくなるからな。で、捨てようとして、最後まで面倒みれないなら最初から拾ってくるなと、親からおこられる」


「親からおこられる。」


「それはそうた。別に金持ちだからって、何の気概もなくそれを維持できるわけがないからな。ほうとうするのはその子供らと、相場が決まっている」


「なるほど。っていやいやねこか何かなの、この子の扱い」


「ちなみに同じ理由で、酒場やしょうかんに置いてもうまく行かない」


「なんか微妙に残念だなあ」


「大幅に残念な奴がなにを言う」


「さっきからひどくない?」


「君の顔ほどでもないだろう」


「……。ところで、それだったらこの子たち、普段どうしてんの? それこそえるんじゃないの?」


「ああ、それはな。大丈夫なんだ」


「どうして?」


「それより君は、護衛としては失格なのかもしれないな」


「え?」


「え、ってなあ。全然気づかないじゃないか、こうして囲まれているのに」


「……‼」


「ここまで隠していたんだが、実は私も〝ラブちゃん〟なんだ。ちょっとこのまま、私たちのコロニーまでお越しいただけるかな♡」



゠了゠

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラブちゃん たてごと♪ @TategotoYumiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ