第16話 仲良し茶会

 王子様が悲しそうにこちらに向かって歩いて来た。


「ダクア殿は残念だったな」


「はい。私の思惑とズレてしまいました」


「オルト殿のところも盗人が入ったとか。大丈夫だっただろうかと心配しておったよ」


 王子様も心配してくれていたようだ。

 屋敷に襲撃があった事も報告があがっていたようだ。俺も屋敷の者達もみんな無事だった。


「有難うございます。なんとか元凶を突き止めようと思います」


「あぁ。しっかりな」


「はっ!」


 しばしの会話の後、別れた。王子様が来たら他の令息達は引いていくのがいつもの様子だった。それにならって俺もはけていたのだが、今日はエマとマーニーを誘ってアルスも混じえて別室でお茶会をすることにしている。


 三人を呼んで別室へと行く。その姿をハクトに見られたが、俺には関係ない。もうコーザもダクアも居ないのだから、残っている悪役は俺だけだ。


「オルト様、大丈夫ですか?」


「あぁ。問題ない。俺は大丈夫だ」


 そう答えお茶会の会場となる部屋へとはいる。


「あー! オルト様だぁ! この前のエマさんへの愛の告白はキュンとしましたよぉ!?」


「そ、そうか?」


 ちょっと恥ずかしかった時の事だったので戸惑ってしまう。あの時はなんというかアドレナリンが出てあんなことを言ってしまったのだ。


「はいー! アルスさん、こっちに座りません? そっちはエマ様と二人にして差し上げましょうよ!」


「うん。そうだね」


 アルスとマーニーは隣同士に座り、肩を寄せあっている。その光景を目の当たりにして俺も、と気合を入れて隣に座る。


 隣のエマ様の柔らかい腕が俺の腕にプニリと触れる。なんと柔らかいことか。こんなに女性というものは柔ないのだなと実感する。それをエマ様は気にすることもなくアルスがいれてくれた紅茶を飲んでいる。


 動く度に腕の弾力が腕越しに伝わってきて脳を刺激する。視線を少しエマ様の方へ向けるとドレスから見える双丘が俺の視線を奪っていく。座ったことによりさらにせり上がらせているようだ。


「オルト様? 飲みますか?」


 紅茶を飲んでいる姿を見ていたために飲みたいと思われたようだ。


「あぁ。俺にも同じものをもらおうかな」


「仲がよろしいんですねぇー!」


 マーニーが茶化すように言ってくるのもなんだかむず痒く感じてしまう。エマも別に否定しないところを見ると、そんなに俺の事を悪くは思っていないんじゃないだろうかと思うのだが。そこの所はどうなのだろうか。


「なぁ、エマは……その、俺がこうやってみんなの前で婚約したいとかそういうことを言うのは嫌では無いのか?」


「……そうですねぇ。恥ずかしいですよ? でも、オルト様の真っ直ぐな言葉は私の胸に刺さりました。私のことをこんなに思ってくれるなら婚約……してもいいかなって」


「本当か?」


「はい。まだちょっとオルト様のことを知らないからもう少し知りたいなぁって。だから、このお茶会も喜んでお受けしたんです」


「そうだったんだな。有難う。嫌がっていなくてよかった。みんなの前で言うことになってしまって、心配していたんだ。エマ様が嫌じゃないかなって」


「ふふふっ。あんなに真っ直ぐ、率直な告白にドキドキしない女はいないと思います。まぁ、私が思うだけ、ですけど」


 少し恥ずかしそうに頬を赤らめて下を俯き、そう答えるエマ様は愛らしくて。抱きしめたくなるほど愛おしく感じてしまった。


「あの! マーニー様!」


 アルスが急に大きな声でマーニーを呼んだ。


「はい? アルス様、どうしました?」


「僕も、マーニー様と婚約したいです! できたらいいなって思ってました! だ、ダメでしょうか!?」


 そのいきなりの告白にマーニーは顔を赤らめて頬に手を当ててフルフル体を振っている。それは恥ずかしいという表現だろうか。


「えー!? 私でいいんですか? 私、年上が好きなんですけど、アルス様は落ち着いていて年上みたいですし、いいですよ!」


「えっ!? ホントに!?」


「はい! アルス様の事は嫌いではありませんでしたし、今の勢いのある告白は、私の胸にきましたー!」


 アルスは目を丸くして固まっていた。まさか自分の告白が成功するとは思っていなかったのだろう。


「は、ははっ! やった!」


「アルス殿。良かったな!」


「はい! 良かったです! 嬉しい!」


 アルスとマーニーは笑い合いながらお互いくっついて座る。それを羨ましく思った俺もエマとくっつきながらお茶をした。


「オルト様? でも、私達に近づいてしまってコーザ様とダクア様は何者かに殺されたんですよね? 本当に大丈夫ですか?」


 眉間に皺を寄せてこちらの心配をしてくれているようだ。たしかに、俺は大丈夫だが、アルスが危ないかもしれない。


「なぁ、アルスが良ければだが、うちの屋敷に住まないか? 俺が一緒にいた方が安全な気がするんだが」


「そうですね。オルト様が宜しければ、最後のお茶会まではご一緒していてもいいですか?」


「あぁ。いいさ。俺が必ず守る」


 それで話はまとまり、しばらくはアルスが俺の屋敷で住むことになった。


 帰路に着いた後にその事をメイド達に話すと、部屋を一つアルス用に用意してくれた。


 こうしてしばらく共同生活が始まったのだ。

 

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