第13話 黒い生き物の襲撃

 王城を後にしたが、馬車では帰らなかった。


「すまない。今日は歩きたい気分なんだ。先に帰ってくれるか?」


 御者にそういうと自分の屋敷に向かって歩き出した。

 なるべく街とは離れた道を使って向かうことにする。

 この戦いには誰も巻き込みたくない。


 空は星が煌めいていて、地球とは違う月のような物が青い光を放っている。

 この世界の月は青く。災害の前触れやなにかよくないことが起きる時というのは月が赤くなると言われている。


 大きな通りから少し細い通りに入る。

 足元は均されておらずデコボコだ。

 そんな道に足を取られながら進む。


 いつどこで仕掛けてくるかわからないが、あれだけ挑発したのだ。

 絶対この帰りに仕掛けてくるはずだ。

 もしかして、歩いて帰る事で誘っているという事がバレている?

 だから警戒されているという事もあるかもしれない。


 ────ドンッ


 上から何かを踏みつけるような音がした。

 俺は咄嗟に横へ転がる。

 さっきいた場所には斧を振り下ろした細目で髪が長い黒ずくめの生き物がいた。


「勘がいいようだなぁ?」


「はっ! ただ勘が良いだけだと本当に思っているなら、帰った方がいいぞ?」


「あぁ!? お前自分の立場がわかってるのか!?」


 そう目の前の生き物が言うとゾロゾロと同じような生き物が出てきた。

 良い感じにこちらの挑発へと乗ってくれたようだ。


「わかってるから言ってる。エリアスロウ」


 これで半径十メートル以内は動きを一段階遅くする魔法のエリアとなった。

 レベル50を超えたことでエリア魔法を覚える。

 それが終わっていたから勝てると思い、挑発したのだ。


 魔法のエリアが展開されたことにも気付かずに近づいてくる黒い生き物。

 俺だけ通常の速度で動ける為、切りかかって来てもくらう事はない。


 紙一重で全ての攻撃を避けると首らしき辺りに剣を叩きこむ。

 その隣の奴にも同じように。

 迫りくる奴にも同じように。


「なぁぁっ!? なぁぁんんんだぁぁぁコォイィツゥはぁぁ!?」


 自分の話し方も遅くなっている。

 俺のエリア魔法には気付いていないようでただ早い動きをするだけの超人だと思っているのだろうか。

 こちらの話し方も多少早口に聞こえると思うのだが。


 痺れを切らしたのか指示を出していた奴も襲撃に加わってきた。

 斧を避けると地面の岩に当たり火花を散らす。

 たしかに威力的には当たれば俺が戦闘不能になるくらいの威力だろう。


 しかし、俺は当たらない。

 しかも、まだエリア魔法しか使っていない。

 手の内は隠せるなら隠していた方がいい。


 振り下ろしたばかりの斧を上げようとしているんだろうが、あまりにも遅い為首らしきものを飛ばしてしまった。

 その指示役がやられるや否や、他の黒い生き物は去って行った。

 魔物以外を殺したが、俺には人間に見えなかったからあまり罪悪感がないようだ。


 襲撃してきたのは黒い生き物で人ではないと脳が感じている。

 

 それが終わってからゆっくりと屋敷に帰る帰り道では襲撃に合わなかった。

 不思議に思っていると屋敷の方が騒がしい。

 何やら私兵が出ているようだ。


 心の中で溜め息をついて屋敷に入っていく。

 あそこまで挑発したのにこの結果かという事にガッカリしていた。

 どれだけ俺のことが恐いのか。


 入口に行くと黒い生き物が蠢いていた。

 ゆっくり近づくと複数体一気に真っ二つに切り裂く。


「オルト様! ご無事でしたか!?」


「あぁ。中に入られたか?」


 兵士の様子を見るとかなり焦っているようだ。

 兵士の後ろではメイドが慌てて隠れている様子が見て取れる。


「はい! 今対処しております! 申し訳ありません!」


「いや。いい。俺のせいだからな。皆無事か?」


「少し怪我した程度でなんとか。みな隠れましたので」


 その兵士は俺が来たことで胸をなでおろしていた。

 入口に入ると魔法を起動した。


「ダークソナー」


 闇の波動を入口から巡らせていき今いる襲撃者を把握する。

 奴らの闇の気配は濃いからわかりやすい。


 家にいる奴らを追う。

 一階の大広間に一人、メイドの休憩室に二人。二階の書斎に一人。

 先に一回だな。


 メイドの救出を優先する為に休憩室へ行く。

 怒鳴り声が聞こえてくる。

 扉を手前に引っぺがすと目の前にいた大きな黒い生き物がメイドの腕を掴んでいた。


 メイドの腕をうまくかわしながら心臓へと剣を入れる。

 その生き物は口から赤いものを流すと倒れた。

 中に入りもう一人を確認する。


「あれ? もう一人いなかったか?」


「オルト様! 有難う御座います! 先程のものだけで御座います!」


 そう声を掛けて来たのはサリアだった。

 自分の勘違いだったかなと疑問に思いながらも大広間へと向かう。

 その黒い生き物は食べ物を口に入れていた。


 呑み込もうとした時にはもう喉から下はなかった。

 そいつもそのままにして俺の書斎へ向かう。

 二階への階段を上ると最後の一人は書斎から出てきたところであった。


 俺を見ると廊下の突き当りの窓に向かって駆けだした。


「おい! お前は逃がしてやる!」


 するとその黒い生き物は立ち止まってこっちをみた。


「お前達の主に伝えろ! 俺を狙えと言っている! これ以上関係ない奴を巻き込むならお前を殺しに行くとな! わかったか!?」


 その黒い生き物はコクリと頷くと窓ガラスを割って逃げて行った。


 あいつ俺の部屋で何してたんだ?


 書斎に入り、なくなったものを確認する。


 思わずため息を吐いてしまった。


「あのヤロー。なんで闇の宝玉の場所を知っていたんだ?」


 ゲームの時のラスボスが使うはずの最終手段の闇の宝玉が奪われていた。

 盗られないように隠しておいたはずなのに。

 短時間で盗まれたことに疑問が生まれたのであった。

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