最終話 流れ星と願い


 『ふたご座流星群』に願いをしてから、5年が経った。願い事をした人達はどうなったのだろうか。果たして願いは―――叶ったのだろうか?


―――【家族】


 「祐樹!今年は晴天で良かったな~!」


祐樹 「うん。去年も一昨年もずーっと雲ばっかりで星はちっとも見えなかった!」


 「もう、あれから5年…。祐樹は来年から中学生ね」


 母親は祐樹の頭を撫でる。家族3人は5年前と一緒の場所でレジャーシートの上で星が輝く空を見上げる。


 「祐樹の願い事はまだ『新作のゲームソフト』か?」


祐樹 「違うよ~。『新作のゲーム機』!」


 5年前まで願い事を中々、口に出せずにいた祐樹は隣に座る父親の方へ振り向き即答する。


 「ふふ!祐樹ったら5年前の願い事はとーっても可愛げがあったのに!随分とずうずうしくなったわね!」


 両親から注目を浴びた祐樹は空を見上げると無言のまま目を合わせないようにする。でも、1つだけ5年前と違う所は…願い事が笑顔のまま即答で言えるようになった事だ。


 5年前、両親はお金に随分と困っていたようで喧嘩になっていたようだ。しかし、父親が死に物狂いで仕事を頑張った結果…若い歳にも関わらず異例の出世となったのだ。仕事が落ち着くと、家族との時間が増え経済的にもゆとりがあり、家族は再び円満となった。


 1つの流れ星が流れると、次から次へと流れ大勢の人だかりは騒ぎ立てる。


 祐樹は流れ星が流れる空を見続けながら心の中で呟く。『お星様、ありがとう』と。


―――【幼馴染】


結衣 「もう、あれから5年が経ったんだね」


泰晴 「だな。でも、今日は…」


 2人は賃貸のアパートで肩を並べながら窓を開け空を見上げる。


結衣 「まさか、泰晴がこっちの大学に進学するとわね!」


泰晴 「5年前からもう、とっくに決めていたからなぁ」


 あれから2人は大学生となり泰晴は、以前住んでいた…結衣がいる地元の大学に進学をした。


結衣 「大学の入学式に泰晴がいて、びっくりしちゃった…。しかも、告白され―――」


泰晴 「わ、わーー!!恥ずかしいからそれ以上、話すなって!」


 泰晴は結衣の口元を手で塞ぐ。口元が塞がれた結衣は笑いながらモゴモゴと話し続ける。


泰晴 「ま、まぁ…。今日は別の大事な話があるんだけど…さ」


 泰晴は首を傾げる結衣の顔から手を放す。


結衣 「へ?大事な話?」


 結衣はポカンと口を開けながら空を見上げる泰晴の顔をジッと見つめる。


泰晴 「う、うん…まぁ―――あっ!流れ星が流れた!」


結衣 「えっ!どこどこ!」


 結衣は泰晴の顔から空へと移り、星が輝く空を見上げる。見逃してしまい、また流れないかな…と待ち続ける。


泰晴 「あのさ…結衣」


結衣 「ん?」


 泰晴に言葉を掛けられても結衣は空を見上げ続ける。


泰晴 「来年、社会人になるじゃん。俺達」


結衣 「うん、そうだね」


泰晴 「来年、働いて…落ち着いた再来年に『結婚』してほしい」


結衣 「えっ!!」


 星空を見続けていた結衣はようやく泰晴の方へ振り向く。泰晴の手にはケースに入った指輪が星と同様に輝く。


結衣 「その指輪…どうしたの?」


泰晴 「必死でバイトをして、コツコツと溜めた貯金で買った」


 バイトで多忙な泰晴に、結衣は一人暮らしで大変なのであろう…と考えていたが、まさか婚約指輪の為に貯金をしていたとは思わず涙を零す。


結衣 「た、泰…晴~~~!!」


 涙を流しながら結衣は泰晴に抱き着く。


泰晴 「え…えっ!?返事は!?」


結衣 「そんなの…。おっけーに決まっているじゃん~~~!!」


泰晴 「あ、あはは!!やったーーー!」


 2人は抱き着くと、流れ星は祝福するように次から次へと流れる。2人は『最愛な人とまた一緒にいられて、ありがとう』と揃って呟く。



―――【男性】


菅井 「美海みう!俺が準備をするから美海は座ってて!」


 美海がテントを張ろうとするが、菅井はテントを取り上げ行動を阻止する。


美海 「え~~。過保護すぎだよ~」


菅井 「悠人はると!ママが動かないように見張っててくれ!」


悠人 「わかったー!パパー!」


 菅井は5年前にソロキャンプで来た場所へと再び訪れる。そして、その時に隣でソロキャンプをしていた女性の美海みうと交際を重ね夫婦となり一人の子供と…。


美海 「焚火台に火ぐらいつけられるよ?」


悠人 「ママー!!めっ!」


 悠人は子供ながらに美海に向い険しい表情をする。


菅井 「だ~めだって!お腹に赤ちゃんがいるんだから!!」


 お腹の中に新たな命が芽生え毎日が楽しい家族生活を送っていた。


美海 「わかったわかった!ゆっくりしてるよ~」


 美海は大人しく椅子に座ると菅井と悠人は納得した顔でウンウンと頷く。


 菅井はテントを張り、焚火台に火をつけるとようやく椅子に座る。そして、家族団らんでメラメラを燃える火を見続ける。


悠人 「パパー。きょうのばんごはんはカレーライスだよね??」


菅井 「おう!パパが作るからな!」


美海 「じゃあ、野菜の皮を―――」


 美海が立ち上がると、菅井と悠人は再び険しい顔をする。


美海 「わかったよ~!ゆっくりしてるから~!」


 美海が椅子に座ると、菅井と悠人は再びウンウンと頷く。カレーライスを作り家族全員で頬張ると子供の悠人は初めてのキャンプで何度も「美味しい」と口にしていた。


 夜になり、美海が悠人をテントの中で寝かしつけると菅井はコーヒーが入っているカップを渡す。


菅井 「悠人、初めてのキャンプで大はしゃぎだったな」


 美海に向い満面の笑みをする。


美海 「うん。来てよかったね」


 2人は満天の星空を眺めながら、カップを口につけコーヒーを飲む。


菅井 「5年前…ソロキャンプ来て良かったよ。美海と出会えたし」


美海 「あの時『ふたご座流星群』が見ごろなの知らないでここにきたのとても面白かった」


 美海はクスクスと笑う。5年前に見せたあの純粋な笑顔を。


菅井 「あの時、サラリーマンやってて精神的に参ってたんだよ…。でも、結果的に来て―――!」


 満天の星空の中、流れ星が流れる。


美海 「あっ!流れ星が流れた!」


 菅井は携帯を取り出すとニュースに目を通す。


菅井 「美海!今日、『ふたご座流星群』のピークだって!」


美海 「え、えーー!?そうなの!?」


菅井 「これで美海も俺とお揃いだな!ははっ!」


 2人は次から次へと流れる流れ星を眺めながら『願いを叶えてくれて、ありがとう』と揃って心の中で呟く。


―――【女性】


彩奈 「ここの夜景、綺麗ー!」


 彩奈は飛行機や電車を使い、見知らぬ土地の山から夜景を見下ろす。


彩奈 「陸斗…。ようやく、綺麗なふたご座流星群が観れそうだよ。5年前のあれ以来、雲が邪魔で観れないんだもん~」


 山の上で枯れた草の上に座る。そして、空を見上げると1等星や2等星…小さな星も輝く。あぁ、15年前に観た陸斗と見た景色と一緒だ。彩奈は15年前の記憶が蘇り、隣に陸斗が座っている気で微笑む。


彩奈 (陸斗、私ね。あれから色々な場所に足を運んだんだ。国内なのに、私の知らない景色って沢山あったんだなぁ~って思ったよ)


 ふたご座流星群の字すら見たくも無い彩奈は既にいない。今の姿はひたすら前を向き一生懸命に楽しく、活き活きと生きる輝かしい彩奈だ。空を見上げ続けると1つの流れ星が流れると、次から次へと流れる。


彩奈 (陸斗ありがとう。そっちにいったら沢山の土産話しを持っていくからね!覚悟しておいてよ!)


 彩奈は流れ星を見つめながら『私に勇気をくれてありがとう』と呟く。


 

―――夜になればふと空を見上げる。空を見上げれば月と星はいつまでも輝き続ける。例え、違う場所でも見上げる空は一緒なのだ。空はどこの地域にも…いや、全世界で繋がっている。


 流れ星に願い事をする―――願いが叶うとは『偶然』がたまたま重なり、結果的に叶ったのかもしれない。それでも、私達は自然に夜の空に輝く星達に夢、愚痴、悩み、願いを語り続ける。

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【短編】流れ星と願い~流星群を眺めながら願う4人達。想いは星に届くのか~ 虹凛ラノレア @lully0813

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