エピローグ

「間宮くーん!」


「ど、どうした?」


 屋上に走り込んできた樋山さんが抱きついてくる。

 柔らかいだとか、いい匂いだとかで心臓がバクバクする。


「また告白された!」


「またか」


 樋山さんがお腹にグリグリと頭を擦り付ける。

 愚痴は建前でこれが目的では?


 まあ、それはいいとして。

 樋山さんが毒舌で先輩を撃退してから一週間が過ぎた。

 俺や樋山さんが危惧していた通り、樋山さんの人気は落ちた。


 でも、完全にというわけではなく、まだ仲良くしている女子もいる。

 樋山さんは嬉しそうにしていた。


 それから、男子からの人気も落ちた。

 落ちたんだけど、一定の男子には刺さったようで告白される頻度は前と変わっていないらしい。


「私が好きなのは間宮くんなのにぃ」


 樋山さんが撫で声で嘆く。


「……そういうのは反応に困ります」


「うん、わざと」


 樋山さんが抱きついたまま上目遣いで俺に笑いかける。


「……っ」


 それは反則だろ……


 俺の顔が赤くなる。


「間宮くん好き。大好き」


 あの日から、樋山さんは毎日俺に想いを告げる。

 その度に恥ずかしい思いをしているこちらの身になってほしい。

 周りに人がいないのが、せめてもの救いだ。


 でも、嫌じゃないと思ってる自分もいる。

 むしろ嬉しいとも。


 このままじゃ駄目だよな。

 先延ばしは樋山さんに悪い。


 それに、


『間宮、早くしないと雫獲られるよぉ?』


 今日の昼休みに水瀬さんに言われたんだよな。


 そうだよな。絶対に樋山さんが他の男子に獲られないとは限らないよな。


「樋山さん、俺も好きだ」


 俺を見上げる樋山さんの瞳を見つめて告げる。


「…………へ?」


 樋山さんが呆然とする。

 そして、だんだんと顔を赤くしていく。


「う、ううう嘘!?」


「いや、本当」


 樋山さんが顔を俺の胸に埋める。


「樋山さんの毒舌を初めて見たとき、“今の樋山さんは好きじゃない”とか言ってごめん。他の人とやってること変わらなかった。あの時、俺は樋山さんの中身を見ようとしてなかった」


「別にいいよ。今があるから」


 樋山さんがいっそう強く抱きしめる。


「ところで、私たち付き合うってことだよね?」


「え、まあそうなるのかな?」


 最近友達ができたばかりだから、もちろん彼女なんてものも初めてだ。

 カップルって何をするんだろうか?


「よし!」


 樋山さんが両手でガッツポーズをする。

 ここで、ようやく身体が解放された。


「実感ないな」


「じゃあ、今日一緒に帰ってみる?腕組んで」


 腕組んで帰るのが、今のカップルの普通なのか?

 やりそうではある。


「やりたい」


「うん!」


 樋山さんが笑顔で俺の右腕に抱きついた。



◆◇◆◇◆◇



「デート行きたい」


 腕を組んで歩きながら樋山さんが言う。


「だね。どこか行きたいとこある?」


「んー、間宮くんのお家行きたいなあ」


 ……俺の家かあ。


 俺は良いんだけど、明莉がなあ。

 明莉は樋山さんのこと嫌っているところがあるからなあ。


 明莉に何とか言って外してもらうか?


「間宮くんの妹ちゃんに挨拶したい」


「え?」


 大丈夫か?


「義妹になるかもしれないから。納得してもらいたい」


「ん?どういうこと?」


「“あなたのお兄ちゃんを私にください”って言うの」


「あはは、結婚の挨拶じゃあるまいし」


 しかも、立場が逆では?

 俺が樋山さんのご両親に言う方だろ。


「……そういうことじゃないよ」


 そういうことではないらしい。

 挨拶したいということなので、明莉には樋山さんが来ると言っておこう。


「あぁ、緊張するなぁ」


「大丈夫だろ。樋山さんは優しいから、明莉も懐くと思うよ」


「鈍感野郎は気楽だよね!」


「え、急な毒舌……」


 しかも鈍感野郎て……


「覚悟しててね、間宮くん。絶対に逃がさないから」


「逃げないよ」


「浮気とかしたら許さないから」


「俺もね。樋山さんは男子からモテるから不安だ」


「私が間宮くん以外の男子に惹かれるわけがないでしょ」


「俺も樋山さん以外の女子に惹かれるわけないだろ。だいたい俺のことを好きになる物好きなんて樋山さん以外に――」


「うるさいっての、鈍感野郎。あの子の想いには気づいてあげろ!」


「えぇ、また毒舌……」

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