第8話

 はぁ。

 俺は心の中でタメ息を吐く。


 その原因に視線を向ける。


 仲良く机をくっつけてお弁当を食べる三人。

 三人は楽しそうに会話を弾ませていた。


「今週の日曜日、ここのカフェ行こうよー」


「お、いいねぇ!」


「あ、気になってたパフェだ!行こう行こう!」


 内容は、前に樋山さんに見せられた駅前に新しくできたカフェ。


 まあ、内容はどうでもいいとして。

 俺がタメ息を吐く理由。


 それは、三人の机に俺の机もくっついていることだった。


 何故だか、三人は昼休みになるとすぐにこちらに来て机をくっつけたんだ。

 俺の隣に樋山さん。そして、森さんと水瀬さんが向かいに座っている。


 そして、クラスからヘイトも集めていた。


 三人が話すなか、俺は黙々と弁当を口に運んでいた。

 うん、今日も明莉のお弁当美味しいなあ。


「……みや、間宮!」


「え、な、なに?」


 水瀬さんの顔が俺の目の前にあった。


「だーかーらー、間宮は日曜日空いてるのって聞いてんの?」


「お、俺も行くの!?」


「そーだよ?」


 嫌だよ。あ、三人と行くのが嫌ってわけじゃない。

 ただ、周りの視線がぁ。


 俺、一人になったら殺されるのでは?


 行けない行けない。ここは断らないと。


「ご、ごめん、その日は――」


「はい、決まりー!間宮っちも参加決定ねー!」


「あ、ちょっ」


 断ろうと思ったのに森さんに遮られてしまう。


「間宮くん、諦めよ?」


 樋山さんが優しい笑顔を向ける。

 ……内心笑ってるよな?


「……分かったよ」


 予定なんて無いからな。それに、今さら人見知りなんて嘘も通用するわけもないし。


「よっしゃ!」


「いえーい!」


 森さんと水瀬さんが喜ぶ。


 俺と樋山さんはそんな二人を見て苦笑した。


「雫さん!」


 教室の出入口から大きな声が響く。

 騒がしかった教室は少しだけ静まり、声がした方向へ注目が集まる。


 そこには、いつぞやの一年生の女子から人気の爽やかイケメン先輩がいた。


 樋山さんの表情が一瞬だけ強ばったように見えた。


「……なんですか?」


「もう一回チャンスをください。放課後、校舎裏で待っています」


「え、」


 先輩はそれだけ言い残して去って行った。


「まぁだ諦めてなかったんだ」


「雫もちゃんと断らないと」


 森さんが呆れ、水瀬さんが樋山さんに苦笑する。


「ちゃんと断ったつもりなんだけどなぁ?」


 樋山さんも苦笑して口から漏らす。


「しずちゃんは優しいからねー」


「そこが良いとこなんだけど、あんな風に勘違いする人もいるんだよね」


「え、優しい……い"ッ」


 森さんの“優しい”という単語に疑問を抱いたら左足に強い痛みが走った。

 隣を見れば樋山さんが満面の笑みを浮かべていた。


「ご、ごめんなさい」


 圧が怖くて素直に謝る。


「え?なんで謝ってるの?よく分からないけど、許そうかな」


 白々しいな。いや、俺が悪いんだけど。

 はあ。というか、今日の愚痴は一層と酷そうだな。

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