第6話

「ただいまー」


 両手に紙袋を持ち玄関を開ける。


 あれ?靴が一足多いな。


「おかえり」


「お邪魔しています、お兄さん」


 リビングから明莉と見知った女の子が姿を現す。


 腰まで伸びる金髪に碧眼の洋人形のような可愛らしい子。


「おぉ、久しぶり、光ちゃん」


 彼女は明莉の中学生からの親友の光ちゃん。

 明莉は“ひぃちゃん”と呼んでいる。


「お久しぶりです」


 光ちゃんが礼儀正しくお辞儀をする。


「お兄ちゃん、カッコよくなってる!」


 明莉が俺の目の前まで来て目を輝かせながら言う。


「ありがとう。確かにまともに見えるな」


 俺も鏡を見たとき驚いたからな。


「これで友達できるね」


「どうかな?外見は変わっても中身は変わらないからな」


「とか言って実はもう友達出来てたりして。少なくとも三人の女友達は出来たよね?」


「え?」


 とても思い当たる人数を言われて心臓が跳ね上がる。


「……やっぱり」


 何故か悲しそうな表情をする明莉。


「ち、違うくて。クラスメイトだから。友達ではないから」


「じゃあ、どうして匂いが移ってるの?」


「たぶん、一緒にご飯食べたから?」


 それで匂い移るものかな?俺は匂わないけど、明莉は鼻が良いんだろうな。


「一緒にご飯食べたんだ……」


 なんでそんなに悲しそうな顔をするんだろう。

 何かまずいことしたかな?


「明莉、お兄さんにちゃんと聞くべきです。どうして、ご飯を一緒に食べることになったのか。お兄さんが言うにはクラスメイトなのですから、何か事情があるはずです」


 お互いに黙って見つめ合う中、間に光ちゃんが入ってくる。


「ありがとう、光ちゃん。明莉、聞いてくれるか?」


「うん。ごめんね、取り乱した」


 明莉がいつも通りの笑顔を見せる。


 それから、俺は今日あったことを話した。



◇◆◇◆◇◆



「お兄ちゃんは優しすぎる!」


「えぇ」


 何故か明莉に怒られていた。


「もっと自分を大切にしないと!」


 どうやら、ナンパされている三人の元へ行ったことに怒っているらしい。


「で、でも知り合いだったから、無視はできないだろ?」


「普通は動けないと思うんだけどなあ。とにかく、お兄ちゃんは優しすぎるので、その優しさを私だけに向けてね」


 無茶苦茶だな。


「それより、今日は光ちゃんと何するつもりだったんだ?」


「それよりって……まあ、いっか。今日はひぃちゃんと勉強するんだよ」


「いつものね」


 勉強か。たぶん、光ちゃんに教えて貰うんだな。

 明莉は勉強が得意ではない。対して、光ちゃんは得意らしい。

 一ヶ月に一回ぐらいは勉強会を開いている。


「じゃあ俺は部屋に行ってるから。光ちゃん、明莉をよろしくね」


「はい、お任せください」



◆◇◆◇◆◇



「まずい!まずいよ、ひぃちゃん!」


 お兄ちゃんが部屋に行ってから、二人きりとなったリビング。


「カッコよくなりましたね。それに、とても優しい。これは、一定数には刺さりますね」


 ひぃちゃんが恐ろしいことを口にする。

 でも、実際その通りだと思う。


 お兄ちゃんの顔はめっちゃカッコいいというわけではない。今は中の上、上の下ぐらいかな。

 だけど、クラスでノーマークだった人が突然垢抜けしたとなったら注目を浴びるよね。


 そして、お兄ちゃんは優しい。たぶんだけど、学校でも困っている人がいたら、さりげなく助けたりしてたんじゃないかな?


 優しい上に外見は問題なし。


 ひぃちゃんの言う通り、刺さる人には刺さる。


「セットしてるからかな。想定以上のカッコよさだよ!」


「何喜んでいるんですか。もう少し危機感というものを」


 ひぃちゃんが深くタメ息をつく。


「そうだった!」


 危ない危ない。


 もう一回、ひぃちゃんにタメ息をつかれた。

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