第5話

「それで、二人はどういう関係なの?」


「付き合ってるの?」


 俺は三人……というか水瀬さんと森さんに強引にファミリーレストランに連行された。


 樋山さんの隣に座らせられて、正面に水瀬さんと森さんが座り尋問が始まる。


「違うって言ってるでしょ!」


 否定したのは樋山さん。笑顔だけど必死に声を上げる。


「えー、付き合ってないんだあ。良い感じに見えたのにぃ。ドンマイ、間宮っち」


 森さんが清々しい笑顔で親指を立てる。


「俺は別に樋山さんが好きなわけではないので」


 何か勘違いしてそうなのできっぱりと否定しておく。


「えぇ!?雫のこと好きじゃない人いるんだ!?」


 驚きの声を上げたのは水瀬さん。


 そんなにびっくりすることかな?


「顔がタイプじゃないってかー?」


「いや、可愛いとは思うよ。でも、顔だけで好きにはならないよ」


「……と言いつつ?」


 森さんが笑顔で聞いてくる。

 水瀬さんも気になるようでこちらに顔を向ける。


「たぶん、間宮くんは本当……だと思うよ」


 答えたのは、俺の隣に座る樋山さんだった。

 ちょっと歯切れが悪いけど、まだ付き合いは短いから確信していないという感じかな。


「その心は?」


「なんとなく?」


 女子三人が仲良く首を横に傾ける。


「まあいっか。それで、間宮は何しに来たん?」


 この話題の興味が失せたのか、水瀬さんが質問を変える。

 何しに来たとは、ショッピングモールにだよな?


「服を買おうかなーなんて」


「お、いいねぇ」


 水瀬さんが笑顔で頷く。


 え、なにが?


「ねーねー、間宮っち」


「……なに?」


 ニヤニヤとする森さんに嫌な予感を抱く。


「私たちも着いていっていいかな?」


「いや、大丈夫です」


 嫌な予感は見事的中。俺は即刻お断りをする。


「まあまあ、ナンパ助けてくれたお礼ってことで」


 水瀬さんまで便乗してくる。

 お礼になってないんだけど……。


 どうしよう。俺じゃ断れないぞ?


 あ。


 俺は隣に視線を送る。

 樋山さんと目が合う。


(助けてください!)


 視線でそう訴える。


 樋山さんは笑顔でタメ息でついた。


「間宮くんは人見知りだから、二人がいると緊張して服が選べないらしいよ?」


「おい」


 樋山さんのあまりに酷いでたらめに思わず口が出てしまった。

 クスクスと樋山さんは口を隠して笑みを溢す。


 対して、水瀬さんと森さんはポカンと呆けていた。


「……雫が男子にあんな顔したことあった?」


「……男子っていうか、私ですら数回しか見たことないんだけど」


「……間宮って何者?」


「……ていうか、二人ってどんな関係?」


 二人で何か話していたけど聞き取れなかった。


「これで、貸し借り無しだよ?」


 樋山さんが俺におかしなことを告げる。


「貸し?何かしたか?」


「ナンパから助けてくれたの忘れたの?」


 あ、それか。

 でも、割って入っただけで、俺は何もできなかったからな。


「俺、何もしてないよ?」


「それでも、その、少し怖くて、間宮くんが来たとき安心したから……。言い忘れてたけど、ありがと」


 視線を反らして顔を朱色に染める樋山さん。


「っ」


 不覚にも可愛いと思ってしまって、誤魔化そうと俺も視線を反らす。


「……さっきの男たちが逃げ出した気持ちが分かるよ」


「……あんな顔のしずちゃん初めて見た」


 ほどなくして、俺は二人から解放された。

 二人とも何故か疲れたような表情をしていたのが頭に残った。

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