棺桶から始まる異世界も波瀾万丈〜前世で恋人だと思っていた彼女に裏切られた俺は、次に目が覚めたら5歳の女の子に転生していたので、2度目の人生はハッピーエンドを目指すと決めた〜

うなぎ358

第1話、棺桶から始まる異世界

ピンポーン!

 ドンドン!


 玄関のチャイムと共に、激しく玄関の扉を叩く音で目が覚めた。ベッドサイドの時計を見ると5時48分、まだ起きるには早すぎるし、無視して寝なおそうと布団を頭までかぶり潜り込む。


 ピンポーン! ピンポーン!!

 ドンドンドン!!


「居るのは分かってんだよ! オレの彼女に手ぇ出しやがった糞が!!」


 拡声器でも使ってるのかと思うほどの大声で、俺には全く身に覚えの無いことを叫び喚き散らしている。更にドアを 「ドカ! ドカッ!」 と足蹴にでもするような音が響き続ける。このままだと間違いなく近所迷惑だ。仕方なく起き上がりベッドを抜け出して、リビングの椅子に掛けてある白いカッターシャツを手に取り羽織ると玄関に向かった。


 そしてドアを開けた瞬間、何かがぶつかったような鋭い衝撃と、熱い痛みに思わずよろめいてしまう。いきなり見知らぬ男に胸をナイフで深々と刺され、ゆっくりナイフが抜かれると、おびただしい血液が胸から溢れだし、慌てて胸を押さえたけど両手の隙間からも滴り落ちて床に赤が広がっていく。その背後には愛し合っていたはずの俺の彼女が、見下すかのようにニタニタと嫌な笑みを浮かべて崩れ落ちていくのを見ていた。


「どうしてっ!」

「馬鹿な男。理由なん……な……じぁ……」


 奪われていく体温と迫る死を感じながら、薄れていく意識の中で疑問を、ぶつけたけど耳も機能してくれない。結局、理由さえ聞き取ることが出来なかった。でも、これだけは分かってしまった。俺は彼女に、裏切られて殺されたのだという事に……






★★★★★



 目が覚めると、真っ暗な場所に閉じ込められて、身動きが出来ない事に違和感を覚えて勢いよく飛び起きようとした。


 ゴスンッ!


 思いっきり頭を打ち付けてしまい鈍い音が響く。


「いってぇ~!」


 ん? 痛い? 俺生きてるのか?


 さっき男に刺されたはずの、胸を触って確かめる。暗闇なのでよく分からないけど、痛みもなければ異常も感じない。もしかして、あの後、どこかに閉じ込められて、放置されてたりしてるのか?

 悩んでいても、助けは来ない気がするから脱出しようと、周りの状況を確認してみることにした。

 今いるこの場所は、とにかく狭い。天井と言っていいのか分からないけど、天井が低すぎて起き上がることも出来ないし、横幅も腕を広げることも叶わない。たぶんベッドの半分ほどしかない空間なのに、噎せ返るような濃い花の匂いが充満しているから、俺の寝ている周りにモサモサあるのは大量の花に違いない。


 ギギギィー! バキンッ!!


「アレティーシア! アレティーシア!」

 

 さて、どうしようか?と腕を組んで悩んでいたら、大きな音と共に明るさが戻り、いきなりの光に目が眩む。


 少しずつ目が慣れてきて、今の状況が分かり始める。俺を、抱き上げ大号泣する、黒髪を短く切りそろえ、鋭さがうかがえる紫の瞳の、筋肉がしっかりついた体型のガッシリとした大きな男性と、その少し後ろで泣き崩れている、腰まで伸ばした煌めくような金の髪の毛に、蜂蜜色の金色の瞳の、ほっそりとした女性がいる。そして、大きな教会の中だという事にも気が付く。目の前に、白く細やかな細工の施された見上げるほど大きな女神像、首を後ろに回すと、木製の長椅子が並び30名ほどの人間が座っていたり、立ち上がり俺たちの様子を伺うようにして見つめている。窓はステンドグラスになっているのか、色とりどりの光が差し込んで室内はとても明るい。


 問題は俺の足元だ。抱きかかえられたまま見下ろす。蓋を力づくで開けたみたいでヒビが入っているけど、花を敷き詰められた長細い箱。


 うん。どう考えても間違いなく棺桶だ。


 刺されて倒れこんだんなら、次に目が覚めたら普通は病院だろ! って突っ込み入れたいし、ここが今、流行の異世界だとして、なんで見知らぬ世界でも、いきなり死んでるんだよって話だ。まぁ。この状況を考えると、生き返った感じみたいだけどな。


「アレティーシア大丈夫? どこか痛いところは無い?」


 泣き崩れていた女性が涙を白いハンカチで拭い、目の前まで来て目元を真っ赤にしながらも優しい手つきで頬に触れ、再びホロホロと涙を零しながら、男性ごと俺を抱きしめる。


 瞬間、脳内に様々な記憶のカケラたちが、洪水のように押し寄せてくる。思いとか気持ちとか魂そのものが詰まった、心の全てが流れ込んで胸が熱く苦しくなる。

 あまりの情報量に、眩暈を起こしそうになりながらも、俺を抱きしめてくれている黒髪の男性はシルヴァンス、すぐ隣にいる金髪の女性はリデアーナ、この体の元の持ち主アレティーシアの両親だと感じとることが出来た。


「母さん、父さん、俺は大丈夫だよ」


 安心させるように微笑むと、少し驚いたような表情で俺を見て、もう一度 「生きていてくれるだけで良いのだ」 と、強く力を込めて抱きしめられた。

 前世というか、地球で生きていた時には両親も兄弟もいなかったから、よく分からないけど、この心まで温めてくれるような、ぬくもりから離れがたくなって、俺の目からも涙が溢れだしてしまう。父と母は、しゃくりあげるように泣き出した、俺の背を泣き止むまで撫で続けてくれた。

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