33話。

「素ン晴らしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 私の目の前に並ぶ動く死体の数々。一日も経たずに現れた成果に私は興奮のあまりサングィス達の目があることも忘れて叫んでしまった。


 今回の実験。結論から言うと【無から魔物は】。


 まず死体を埋めた方の墓からは貴屍人リッチが生まれた。屍人グール系統の中では、屍人、良屍人ハイグールに続く下位の中では上の方に当たる存在だ。


 屍人グール系統の強みというのは腐敗しながらも形状を維持している肉体の強靭性、そして肉体が崩壊しようとも活動を続ける不死性、更には身に纏う腐肉や闇の魔力から来る疫病の周囲への感染。戦いにおいて些細な傷も後々の死に繋がることから不死アンデッド系の魔物の中でも特に厄介とされている。中でも貴屍人リッチ以降の屍人グールは知性がある上に貴屍人の段階で多少魔法も扱えることに加え、如何に自らの強みを敵に押し付けるかという点に重きを置いた厭らしい手口を用いて来るため非常に嫌われている……強力な魔物である。まぁ、今のダンジョンには知性を持つ、しかも上位の魔物が既に二体も居るため知性があることによる恩恵は少ないかもしれないが……。ダンジョンの貴重な戦力であることは間違いない。


 私の目の前で佇み命令を待つ貴屍人リッチをまじまじと見つめて観察する。貴屍人リッチは過去の私も使役していたが、基本的には屍人グールから進化するため五体満足のまま進化出来る程の実力を付けられる屍人は普通はいないため、ここまで綺麗な肉体を持つ貴屍人を見たのは初めてだ。


 屍人グールと違い、肉体の腐敗はそこまで進んでおらず所々肉が抉れているだけの肌の青白い人型の魔物。死体がそのまま動いているといった感じだろうか。屍人系統の魔物は死後の筋肉の硬直からか何もしていなくても肉体の硬度が高く、脆そうな見た目に反して剣や弓等の物理攻撃は余り通らない。貴屍人リッチ自体が魔法を用いることもあり、貴屍人との戦闘は魔法、もしくは火器主体となる。


 試しに魔法の中でも初歩的な照明魔法ライトを使ってみるように命令すると、手を前に突き出したかと思えば掌の先から球状の光が現れた。魔法は特に問題なく扱えるようだ。


 まだまだ調べたりないが、他にも調べたいことは山のようにあるので次の実験結果に移る。


 そして何も埋めずに放置した墓。此方からはただの屍人グールが生まれた。やはり元手があるのと無いのでは明確に違いが現れたな。そもそも無から屍人が生まれるだけで嬉しいのだが。


 しかもありがたいことに屍人グールの中でも亜種である屍狼グルフも生まれていた。魔物の中にはその系統から外れた亜種と呼ばれる存在もいる。例えば骸骨スケルトンで言えば、人型を保ったまま進化していくのが正当な進化先であるが、たまに骨で形作られた鳥や犬も見つかるのだ。それに当てはまるのが今回現れた屍狼グルフ


 発生条件は正確には把握していないが、墓場や古戦場跡等の環境が整った場所で魔力を持った、もしくは魔力を注いだ動物類が死亡した場合に生まれる……のだろう、と仮定した。そこまで検証に手が回らなかったのと、条件の整った環境を用意するのが過去の私では面倒だったのであくまで過程である。


 だが今は違う。墓場も古戦場も使い放題。ダンジョンだからか魔物は無から湧いてくる。ということで屍狼グルフを見るまで忘れていた不死アンデッドの亜種発生条件も今後の研究題材の一つに追加された。


 今回の実験で生まれたのは貴屍人リッチが五体。屍人グールが七十二体。屍狼グルフが十八体の総勢九十五体だった。骸骨スケルトンを私が生み出した時のように身体から何かが抜け落ちるような感覚もないことから、私が何かを消費して生み出したわけではないことを考えると十分すぎる成果だ。


 しかし少しだけ残念だったのはオリゴスのように突出した個体が屍人グール階層にも現れるのかと思ったが、めぼしい成果が貴屍人リッチ屍狼グルフだけだったことだ。これだけでも一度の不死アンデッドを生み出す結果としては現段階では十分すぎるのだが、オリゴス、サングィスと続いて強力な仲間を迎え入れたことで少々傲慢になっていたらしい。そうだ、過去の私からすればいきなり貴屍人と屍狼を複数一度に迎え入れることができるだけで目覚ましい成果なのだ。驕ってはいけないな、また初心に帰らねば。


 とりあえず第二階層は戦力を考えると第一階層との入れ替えも考えておくべきか、だが第一階層で傷を負わせた上で第二階層の屍人グール達で追い打ちというのも……。


 またいつかダンジョンに襲い来るであろう脅威に向けてどのように対処するか考えている内に、サングィスから一度咳払いが聞こえた。不思議に思いそちらに目線を向けると何やら言いたげな表情をしている。ガーラ達も私と同様、何が言いたいのか理解していないようで首をかしげている。


マスター、一つお伺いしたく。……私が主の下へ来た時にはあそこまで喜んでいないように見えましたが。」


 ……気にしてたのか、サングィス……。


 吸血鬼という強大な存在を仲間に迎え入れることが出来たという事実に現実味がなく、目に見えた喜びを表明することは出来なかったがとても嬉しかったし今後も頼りにしていると慌てて告げる。実際オリゴスという上位の魔物を仲間にした直後に吸血鬼と来たから、本当にあの時現実味は無かったし信じられなかったという気持ちでいっぱいだったな。


 彼は一言『そうでしたか。』と言って一礼をした。いつもの笑顔ではあったが、心なしかいつもより満足そうに見えた。ガーラ達に生暖かい視線を貰っていることに気付くとすぐにもう一度咳払いし、普段の様子に戻ったが……吸血鬼にしてはやけに人間味のある彼が仲間に加わってくれたことを本当に嬉しく思っている。


────────

 私事にはなりますが、最近中々夜寝付けず昼間に頭が回らない状態になっており、自分で前話から書いてる文章の質が余り良くないなと思っています。まぁそれが気のせいで元から質が低い可能性はあるのですが、文章を書いてる間もなんとなく頭がぼーっとしてる感じはします。

 それに伴い今日明日明後日の三日間くらいはゆっくり休もうと思っているので、明日明後日の更新はないかもしれません。

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