8話。(オリゴス視点)

我が名はオリゴス。偉大なるマスターから頂戴した名である。


いつ生まれたのか、いつ自我が芽生えたのかは自分でも分からないが、目覚めた直後のことは鮮明に覚えている。


外に出なければ。の力になるために。それが一番最初に我が身の内に抱いたものだった。肉は朽ち果て、骨だけの身であるはずなのに身体中が熱く、活力に満ち溢れている感覚。今になって考えてみれば、これはマスターが我らを呼び出すために御力を注いだことによる恩恵だったのだろう。身体に漲る力を原動力に、マスターの気配がする方へと手を伸ばす。すると、片腕が牢獄から解き放たれたような解放感を得る。行動自体は無意識のものだったが、これで間違っていなかったのだとマスターの方へと進んでいく。気付けば、マスターの御前にその身を晒していた。


初めてマスターを前にして、その時は未だに低級の骸骨スケルトンであったため、心の奥から沸き起こる歓喜、感情を表現する手段を持ち得なかった。マスターが頭蓋骨だけの姿であることも対して疑問はなく、むしろ骸骨スケルトンである我らのマスターなのだからそういうものだろうと思い特に驚くこともなかった。それよりも、今すぐにでも跪き、御身のために忠誠を誓うとお伝えしたかった。しかし心情に反して、身体は不自然なほど動かすことができず、結局立ち尽くすことしかできなかった。これが魔物としての格が低いということなのだろうか?ならば一刻も早く強くならなければ、マスターのためにも。


そんな不甲斐ない姿を見せていたにも関わらず、それでもマスターは非常にお喜びになっていた。窪んだ目元に二つの炎を宿しながら、頻りに我が身の周囲を飛び回り、何かに納得したり考え込むような素振りを見せていた。私にはその行動が一体何を意味するのかは理解できなかったが、恐らく新たに生まれた私が戦力になるかを見極めていたのだろう。私としてもこれから仕えるマスターに注目をされるということは悪い気はしなかったため、思う存分主マスターに観察をしてもらった。そもそもマスターの命令なしに動くことは現状できなかったが。


それから程なくして、他にも召喚されていた同朋達が徐々にその姿を地中から現し始めた。それを見たマスターの興奮度合いは……とても凄まじいものだった。今にも天に召されるのではないかという勢いでがたがたと頭蓋を揺らし、天を仰いでいた。冷静さを取り戻すのに結構な時間が掛かっていた。それほどまでに喜んで貰えたことに、内心で私は感動していた。


落ち着きを取り戻したマスターからの命令は、骸骨スケルトンとしての性能を確認するような内容だった。我らの姿を見比べたり、骨の質を確認したり、軽く歩いてみるように言われた際そこら中に無造作に散らばっている剣や鎧を避けて歩いただけでマスターは驚き、また何かに悩んでいるようだった。何か粗相をしてしまったのだろうか。


一抹の不安を抱える中、マスターから周囲に刺さっていた適当な剣を与えられ、『修練』を積むようにと命じられた。マスターから剣の扱いについて指導を受けていると、自らの内に不思議な感覚が宿る。まるで、初めから剣の扱いを習得していたかのような……。天啓のように得た感触を忘れぬうちに構えて、剣を振る。最初の1、2回はまだ剣の重さに慣れていなかったからか思う通りには動かせなかった。しかし、もう数回振れば身体の一部であるかのように滑らかな動作にまで昇華させることができた。自分でもなぜかは分からない。


私の異変に気付いたマスターが神妙な顔つきで私を見る。新たに教えられた型についても同様に、あっという間に身に着けてしまった。自らの圧倒的な習得速度に驚く間もなく、マスターが頻りに私を褒めちぎる。面映ゆく思うも、それ以上にマスターに褒めて頂けるというのはやはり嬉しい。


次の瞬間、私の思考が真っ白になった。


「そうだ、君に名前を授けよう!」


マスターが唐突に言い出したことに、困惑していた。名付け?ただの骸骨スケルトンである私に?勿論、いずれは私を一体の骸骨スケルトンではなく、個別の者として認識して頂ければという思いはあった。そしてそれに見合う努力をしていこうという決意も、魂さえもマスターに捧げる覚悟もあった。それが、マスターと出会った一日も経たずして叶うとは。もはや褒められて嬉しい、などと感じていたのがどれだけ矮小なことだったのかと反省した。マスターは私に期待してくれていたのだ。私が生まれた時から。我が主からこれほどの待遇を受けて、応えられねば一生の恥。身が引き締まる思いを新たに抱き、その瞬間を今か今かと訪れる。


そして、その時は訪れた。


「……よし、決めたぞ。君の名前は『オリゴス』だ。」


……『オリゴス』、それがマスターより賜りし我が名前。しかと心に刻もう。そして示すのだ。マスターこそが偉大なる我が主であり、その御方に仕える『オリゴス』、ここにあり、と。


確固たる意志を持って、マスターへの忠誠を改めて心に誓う。骨の髄から力がみなぎる。マスターへ忠誠を捧げよと身体が震える。今、この瞬間からマスターの時代は始まるのだ……。


そうして、骸骨将軍スケルトン・ジェネラル『オリゴス』が誕生したのだった。


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今回はオリゴス視点のお話でした。


基本的に主人公大好きなオリゴスですが、美少女化とかはないです。

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