十九本桜 才能開花

 回想を話し終えると、珈琲コーヒーは温くなっていた。


「……一瞬の出来事だったが、分かった事も多い。異世界からやってきた者達である事。共通の目的を持った組織である事。何より――」


 刀に触れながら、素直な感想を漏らす。


「私と同等、もしくはそれ以上の実力者である事」


「……聞いてみるんだけどさ。君のいた世界って、剣聖級がゴロゴロいるわけ?」


 師匠も兄弟子も当然強かったが、狭い世界でしか生きていなかったので周りの事など分からない。


「気になるのは人殺しという言葉キーワード。それが本当だとすれば、誰を殺そうというんだろうね。国王かな」


「国家転覆か。確かに小次郎殿達と比肩するような者達が揃っているならば、あるいは……」


協会ギルドに報告をあげるかい?」


「もう少し全容が分かってからにしよう。今はまだ憶測の域に過ぎないからな」


「全く、次から次へと問題が起こるよねぇ」


「こちらは望んでいないのだが」


 珈琲コーヒーを一気に煽り、エヴァに「馳走になった」と礼を言う。


「まずは勝ち抜き戦だね。僕も応援に行くから」


「ああ、二人も気合が入ると思う」


 それではおやすみ、と一声掛けて外に出る。やるべき事はやった、後は総ざらいを残すのみ。


 ――翌日。本番まで残り三日となっても普段通り修行を開始させる。まずは大岩動かし、私は二人に「持ち上げてみせろ」と告げた。


「動かすじゃなく、持ち上げろ⁉」


「いや、さすがにそれは無理なのでは……」


 駄目元で試させると、驚きの結果となる。


「うぎぎぎぎぎぎぎぎ‼‼」


「おおおおおおおおおおおっ‼‼」


 どちらも僅かだが岩を持ち上げる事に成功。成長を遂げた二人は出来ると確信していた。更に――。


「うぉおおおお⁉ は、初めて落葉斬り十枚連続で成功した! じ、自分の才能が怖ぇ……!」


 喜びに打ち震える大和だが、続けて牛若が行うと驚愕の十二枚連続斬りを成功させてしまう。 


「……なんだか、前までと動きがちがう気がする」


 確証を得たのは次の稽古だった。十分間無刀で打ち合わせ、目隠しを外させると――。


「……あれ? オレ今、目隠し外してるよな?」


「剣を持っていないの、わすれてた」


 現実と想像の一致、剣を知る事も完成に至る。


「よし、では弟子戦といくか」


 空気が張り詰めていく。彼らにとって、これは修行でも練習でもない。本番なのだ。


 真剣を携えて向かい合う両者。その身体から立ち昇る覇気が私には見えた。こちらも少々、本気を出す必要があるかもしれない。


「無制限一本勝負――始めっ!」


 開始と同時に両者が動く。近距離で鍔迫り合い、力ではやはり大和優勢か。


 牛若も半身に構え相手の力を流す。そこから的確な急所への連撃。技が冴えている。


 堪らず後方へ跳んで距離を取る大和。実力はほぼ互角……そう思えたが。


「いくぜぇえええエエエ! ウオオオオオン‼」


 砂鯨サンドリオンの爆破脱出に使った半獣化だ。奥の手を真っ先に持ってくる所が大和らしい。


 大地を蹴り、土埃を高くあげながら標的に向かい突進する大和。単純だが強力な防御不能技に牛若が取った行動は――。


「――スーーー……」


 腰を深く落としての脇構え、反撃カウンター狙いだ。相手の攻撃は直線で読みやすい、私でも同じ選択をする。だが一撃でも喰らえば瀕死、重要なのは勇気だ。


 弱く怯えていた牛若は、もういない。恐怖に打ち勝ち、攻撃の瞬間タイミングさえ合わせられれば――勝てる。


「おおおおおオオオオッッ‼」


 大和が突きを繰り出す。集中力を限界まで高めた牛若は、薄皮一枚で攻撃を避ける。攻守は交代、今度はガラ空きになった大和の胴へ牛若が逆袈裟。


 勝負ありと思われたが、なんと大和は上半身を思い切り仰け反らして回避。信じられない身体能力と危機回避能力。


 しかし牛若は、それすらも読んでいた。一太刀目が空振りになった次の瞬間には、手首を返し今度は袈裟斬りへと移行。


 「――オッ!」


 相手の振り下ろしが届く間際、大和は人間橋ブリッジの状態から後方宙返りを行う。まるで曲芸のような躱し方に私も驚きを隠せない。


「おおおおおおおおおおおっ‼」


「ガァアアアアアああああっ‼」


 尚も逆袈裟から攻撃を繰り出す牛若と、着地を決めたと同時に一文字斬りを繰り出す大和。お互いの刃が打つかり合い、火花を散らした所で――。


「そこまで!」


 私は試合を止めた。これ以上行えば、怪我で済まなくなる可能性が高い。


「ふっ、ふっ、ふっ――!」


「はぁっ! はぁっ! ――かはっ‼」


 疲弊が激しいのは大和。半獣化は相当な体力と精神力を消耗する様子。使い所を間違えれば、自滅の可能性もある。


 そして大和。反撃技としての袈裟と逆袈裟を往復で繰り出す剣撃は、私の【羅生門】と同じ戦法だ。その若さにして独自の技を会得しようとは、なんと恐ろしい事か。


「両者、見事。素晴らしい戦いだった」


 私は拍手喝采するが、二人共それどころではない様子。普段あまり褒めない私が褒めてやっているというのに、なんとも寂しい事だ。


「己の成長が、これで理解出来たと思う。お前達は強くなった。私は師として誇らしい」


 最後の一日は休みにあてると決めている。なれば修行は残す所、明日のみ。


「今日の修行は、これで終わりとする。しっかりと休み、体力の回復に努めろ。先に告知をしておいてやるが、半年続いた修行の総ざらいは――


私との戦いだ。覚悟をしておけ」

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