第16話

全ての真相に気づいた私と一織ちゃんは網縫館にいた全員を大広間に集めた。なるべくショッキングなものは見せないように一玉さんの死体の上には布団をかけた。椿さんにも菊さんにも許可を貰わなかったが良かっただろうか。


全員が集合するのに10分もかからなかった。殺人事件が起きていながらこのようになったのは、あまりに突然の殺人に動揺して「ここから出ないでください」と私が言ったからだ。他の人たちもそれですんなり受け入れるあたり、動揺していたのだろう。


網縫館にいた全員が集まったことを確認して、私は声を出した。その瞬間、事件のフィナーレが始まった。


響「それでは、今からこの事件の真相に迫っていきます」


そう言っただけで緊張感が走った。三人もの人が殺された事件、真相を知りたい好奇心とおぞましい話を聞かされる恐怖が複雑に混ざっているのだろう。ただし、私と一織ちゃんにはほとんど関係ない。いわば職業病みたいなものだ。


この事件について、私は全員にアリバイがないと考えている。それを確かめるため、私はこう聞いた。


響「皆さんは昨夜、自分の意思で布団にはいりましたか?」


答えとしては、全員が違うと答えた。しかし、ある人だけが反応がわかりやすいほど小さかった。犯人だろうという推測は、確証へと変わった。


「日野さん、その質問はいったいどういう意味があるんですか?」と付喪さんが尋ねた。それに対して、一織ちゃんがこう答えた。


一織「今回の事件は互いのアリバイを誰も説明できません。おそらく、全員に共通したあることをしたのでしょう」


犯人は全員にあることをしたと言っても、ピンと来る人はそうそういないだろうが、一織ちゃんはある質問をしてそれをはっきりさせた。


一織「泊まっていた皆さんに一つお聞きしたいのですが、昨夜最後にいた場所がどこか覚えていますか?」


これがどういうことかというと、私は昨夜の記憶が大広間で止まっているのだが、それが一織ちゃんも同じだと本人から聞いた。大広間は夕食を食べた所だ。つまり、犯人はあることをして私たちが大広間で気を失うように仕向けたと考えたのだ。


返答は予想通り、大広間だった。「でもなんでそんな事聞いたんや」と凪から言われた。それに対し、私は「私たちが食べた料理が細工されていたんじゃないかなと思ったから」

と返した。


私たちがされていた細工。それは睡眠導入剤だ。料理にそんなものを入れたとなると驚くだろうが、状況的におかしくない。むしろ、全員が大広間で気を失うならばこのぐらいのことをしないと失敗するだろう。


さらに、昨夜の夕食で全員が食べた料理を整理した時に、一玉さんが卵アレルギーを理由に食べなかった茶碗蒸し以外の料理、具体的には白ご飯、味噌汁、刺身、酢漬け、杏仁豆腐のいずれかに入っていたことになる。


そんなことを考えていたら「味噌汁…?」と独り言が出てしまったらしい。その独り言を聞いた火車夫婦は「味噌汁!?私も食べました!」「そういえば私も味見の時に」と次々に反応した。犯人が細工をした料理は味噌汁と見て間違いないだろう。


睡眠導入剤の作用で眠った私たちは、犯人によってそれぞれの部屋に運ばれた。そうすれば、誰にもばれずに犯行ができる。さらに、互いのアリバイが証明できないため、犯人に気づけなくなるのだ。


これで全員のアリバイを潰すトリックは説明できた。しかし、まだ推理することは多い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る